29.御仕舞

「結構中途半端だね……」
 携帯の待ち受け画面と一緒に表示されている時計を鉢屋くんに見せ、私は苦笑した。
「……なあ美沙」
「ん?」
「俺、明日からも美沙と一緒に帰ったり、出かけたり……たまにでも構わないから、したい」
「それは……困る」
「っ」
「そんななぁなぁの付き合い、私は嫌」
「……昨日のも、そう言う意味だったのか?」
「昨日?……葉書破ったの?」
「……ああ」
 肯定するなと言う顔の鉢屋くんを裏切るように私はこくりと頷いた。
 私が頷くのを見ると、鉢屋くんはこの世の終わりのように本当に泣きそうに顔を歪めた。
 鉢屋くんは、わかりやすい。
 私はその反応に思わず嬉しくなり携帯を閉じて、ポケットにしまった。
「キリ良くは無理だけど、お終い」
「……美沙っ」
 今までの彼女もそうだったのかはわからないけど、でも多分……鉢屋くんはこんな顔をしなかったと思う。
 じゃなかったら「好きになれなかった」なんて言わなかったはずだもん。
 だから、私はきっと特別。
「鉢屋くん」
 私は俯いてしまった鉢屋くんの頬に手を伸ばした。
「泣かないで」
「泣いてなんか……畜生っ、なんで笑うんだよ!」
「だって嬉しいんだもん」
「俺と別れてか!?」
「ううん」
 私は首を横に振って、じっと鉢屋くんの顔を見上げた。
 鉢屋くんはまっすぐに視線が会うと戸惑ったようにまた表情を歪ませた。
「鉢屋くんの愛は分かりやすい。だから嬉しいの」
 意味が分からないと言うように眉根を寄せる鉢屋くんの唇に私は自分の唇を重ねた。
「私は鉢屋くんが好きです。付き合ってください」
「……は?」
「ふふ、間抜けな顔」
「ちょ、ちょっと待て……ど、どういう事だ?」
 混乱しているらしい鉢屋くんは、私の両手に自分の両手を重ねて固まってしまった。
「言葉通りだよ。私はこの一週間で鉢屋くんの事好きになった。だから付き合ってほしいの。……ウィークリー彼女じゃなくて、本当の彼女としてちゃんとお付き合いしたいの。来週になってただのクラスメートに戻るなんて嫌だよ」
「な、ん、だよ……狡いぞ美沙」
「狡い?だって私、行儀よく月曜まで待てる子じゃないよ。人のペースに合わせるのが嫌だから人間関係避けてきた位なのに」
「お前っ……」
「私は鉢屋くんの事他の子に取られたくないの。友達だからって美土里ちゃんにだって嫌」
「は?なんでそこで美土里が出てくるんだよ」
「だって鉢屋くんの本命は美土里ちゃんだって噂があるんだもん」
「なんだそれっ。俺が美土里を?……ないない。んな恐ろしい事言うなよ。第一美土里にはずっと片思いしてる相手がいるんだぞ?俺はそれに協力……あー……その所為かっ」
 がくりと項垂れた鉢屋くんに私は首を傾げた。
「美土里の片思い相手、知ってるの俺だけなんだよ。勘右衛門もいい加減感づいてるだろうけど」
「え?不破くんとかは……」
「まず美土里との接点がない。中学違うし」
「あ、そうだったの?」
「おい、そこからか!?なんだよ、美沙……俺の事全然知らねえじゃん」
「鉢屋くんだって私のこと全然知らないじゃない。お互い様だよ」
「……言うな」
「言うよ。自然体で、我儘な私ってこんなものだし」
「はは、それは一本取られた」
 鉢屋くんは笑い、私の額に自分の額をこつんと当てた。
「俺が言いたくて言いたくて、でも言えなかったこと……あっさり言われちまった」
「……何が?」
 緊張しながら鉢屋くんの目を見つめ返せば、鉢屋くんの目が優しく笑った。
「好きだ。……俺は美沙が好きだ」
「うん、知ってる。気付いてなかっただけで、わかりやすかったから」
「美沙の鈍ちん。……でも好きだ」
 ぎゅっと抱きしめてくる鉢屋くんに少し擽ったく感じながらも私は鉢屋くんの胸に縋りながら、鉢屋くんの身体を抱きしめ返した。
「……ところで食満先輩は美沙の何なんだ?」
「それは月曜日のお楽しみ」
「って言うのは俺も聞いてた。でも言ってくれるまで離さない」
 がっちりと本当に身動きが取れなくなるように抱きしめてきた鉢屋くんが可笑しくて私はくすくすと笑った。
「嘘。ちゃんと説明するよ」
「……なんで笑うんだよ」
「鉢屋くんが可愛いから」
「はあ!?」
 思わず身を離して私の顔を見つめる鉢屋くんに私は再度笑った。
「言葉通りだよ」
「美沙、変!」
「よく言われる。尾浜くん辺りに斜め上って」
「……勘右衛門八方美人よりそれを先に言えっ」
 鉢屋くん、こっそり言ってるつもりかもしれないけど、良く聞こえてるよ。
 斜め上って言うけど、尾浜くんだって十分斜め上な発言してると思うんだけどなあ……。
 あ、そう言えば久々知くんも私の事斜め上だなって言ってたかも。
「それじゃあ行こう」
「は?どこに?」
「どこって、うちに決まってるじゃない」
「うちって……」
「だってちゃんとお付き合いする人が出来たらお義父さんに紹介する約束したし」
「う、え、ちょちょちょ、待て!行き成り親に紹介!?」
「説明して欲しいんでしょ?」
「して欲しいけど順序としておかしくね!?」
「そうかな?」
 お母さんもいきなりお義父さん連れてきたしなあ……。
「ま、気にしたら負けなんだよ」
「本当美沙って……」
 鉢屋くんは何かツボに嵌ったのかくつくつと笑いだした。



⇒あとがき
 夢主と尾浜くんはどこか似た者同士。多分天然の部分が通じ合ってるんだと思います。
 だからお互い斜め上だねって言い合っても笑って躱せるんだと思います。
 長くなりましたがキリ良く次の30でラストです!
20110411 初稿
20220814 修正
res

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