02.クラスメイト

 同じクラスの池上と言う少女を俺は良く知らない。
 付き合っている間は彼女を優先する俺は男子との付き合いも薄い。
 従兄弟の不破雷蔵と、雷蔵経由で仲良くなった竹谷八左ヱ門。それからその幼馴染の久々知兵助に、更にその友達の尾浜勘右衛門。多分友達と言えるのはそれ位じゃないだろうか。
 元々この高校自体、雷蔵と一緒に行けるなと思って推薦を受けて受かっただけからあんまり執着はない。
 部活は決められた日だけにしか参加しない俺を、同じ部活の兵助は呆れながらも結果を出すならいいと見逃してくれている。
 こうしてアドレスを交換するまで池上の名前が美沙と言うのだと言う事も知らなかった。
 一応学級委員長だから全員の名前は知っているが、名前までは把握していない。
(真面目なタイプ、かな)
 ぼんやりと電話帳に追加された池上美沙とフルネームで記入されていた名前を思い出してくつくつと笑いながら教室の戸を開ける。
「あ、三郎」
 休み時間と言う事でみんなリラックスしていたのだろう。
 それでも突然戸が開けば驚くもので、皆一斉に俺の方を向く。
 その視線に苦笑を浮かべながらも、真っ先に俺の名を呼んだ雷蔵の元へと向かう。
「遅いよ。今日休みかと思ったんだけど」
「いやあ、ちょっと寝過ごしてしまってな。気付いたらこんな時間だ」
「ちょっとじゃねえだろ。まったく……メールの返事位しろよな。心配するだろ!?」
「ははは。すまんすまん。電車の中でも寝てた」
「お前なあ……」
 がくりと肩を落とす八左ヱ門を見ながら俺はその隣に座った。
「まあ一応三限のチャイムが鳴る前には着いたんだが、池上が体調悪そうだから医務室まで付き添ってたんだ」
「池上さん?」
 きょとんとした顔で雷蔵がこっちを見ているのに気付いて、鞄を机の横に掛けながら振り返った。
「そう言えば体調が悪いから保健室行ってるとか言ってたっけ」
 八左ヱ門が視線を向けた机には誰もおらず、鞄だけがそこに人がいるのだと主張しているようだった。
 池上ってあそこの席だっけと思ってしまう俺は本当に人づきあいが悪いと言うかなんと言うか……。
「三郎って池上さんと仲良かったっけ?」
「いや。さっき初めてまともに話したが結構面白い奴だな」
「そう?大人しい子だと思うけど……」
「え?俺は明るい奴って思ってたけど……」
 雷蔵と八左ヱ門がお互いが抱いていた池上の印象に首を傾げる。
「なんだ。俺だけじゃなくて二人もあんまり池上のこと知らないんだな」
「うん……同じ委員会だけど、池上さん、中在家先輩と昼と放課後の当番変わってるし」
「そう言えば雷蔵、何故か中在家先輩と一緒の当番だったな。何かあるのか?」
「うーん……これは言っていいのかなぁ。でも個人の事情だし……」
 なにやら迷いだしてしまった雷蔵に俺は思わず笑いながら片手を差し出した。
「迷うくらいの個人の事情なら言わなくていいよ。言いたきゃ池上が言うだろうし」
「あ、そうだね。それもそうだ」
 納得したらしい雷蔵は迷うのをやめ、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
 他人に対する執着の薄い俺を昔から心配してくれる雷蔵のその笑みが俺は好きだ。
 八左ヱ門も何だかんだで結局私の世話を焼いてくれるし、兵助や勘右衛門もこんな俺と友達でいてくれる。
 友達は確かに少ないかもしれない。だけど、俺は恵まれているのだと雷蔵の笑みを見るたびにそれを強く感じた。
 それと同時に寂しさを感じる様になったのはいつだっただろう。
 はっきりとした境界線は覚えていないが、高校に入学すると同時に俺は今のサイクルが当たり前になっていた。
 池上の言葉で言うならばウィークリー彼女。……まああながち間違ってない。
 月曜に告白してくれる女の子と一週間付き合って、でも好きになれなくて、週末に別れる。
 「何時か本当に好きになれる人が見つかるといいね」と雷蔵は笑って言ってくれたが、そんな人は現れるんだろうか。
「そう言えば三郎、今日はもう告白されたのか?」
「え?あ……ああ?」
「……なんだその微妙な反応」
 思わず首を傾げてしまいながら頷いたら雷蔵が同じように首を傾げ、八左ヱ門は眉根を寄せた。
「そう言えば言われてない、か?」
「やけに曖昧なんだね」
「うーん……でも彼女は出来たな」
「この贅沢者め。今度はどんな彼女だ?」
 興味津々といった様子で聞いてくる八左ヱ門はいつもの事なので、俺は池上を思い浮かべる。
 可愛いでも美人でもない、なんて言うか平凡な子だ。
 とりあえず一般的なブスの類でもなく、可もなく不可もなく?な感じの顔立ちは、なんと言うかさっぱりしていると言ったらいいんだろうか。
 雷蔵が評価するように大人しい感じの見た目ではあるし、大人っぽくもある。
「強いて言うなら普通?でも好きな顔かな」
 池上には冗談めかして言ったけど、実際本当に好きな顔だと思う。
 見ていて落ち着くと言うか、ほっとすると言うか……。
「おほー。最近美人系が続いてたのに意外だな。普通って評価が微妙なとこだけど」
「まだ一日目だからなあ……」
「まあそんなもんだろ」
「よしヒント来い!」
「同級生」
「うちの生徒?」
「ああ」
「なら今回は考えやすいか。三クラスの中の女子で普通かあ……」
「三郎が今まで付き合ってなくて三郎の好みの顔の子……うーん……誰だろう」
 もはやクイズと化している毎週の行事ではあるが、雷蔵が真剣に悩み始めてしまい思わず笑ってしまう。
「悩むのは授業の後にしろよ、雷蔵。そろそろ先生来るぞ」
「あ、うん。普通かあ……」
「こらこら」
 話を聞いていない雷蔵に八左ヱ門がげらげらと笑いながら自分の席へと戻っていく。きっとあいつも授業中俺の彼女が誰かを考えて時間を潰すのだろう。
 俺も自分の席へと戻り、のろのろとした喋り口で退屈な授業をする古典教師が来る前にと慌てて携帯を取り出す。
 素早くキーを打ち、送信を押すと素早く携帯を閉じてポケットの中へと押し込んだ。
 同時に古典教師が教室へと滑り込んでくるのを見ながらセーフと心の中で呟き、慌てて教科書を取り出した。
 今頃夢の中の池上はいつメールに気づくだろう。
 気付いた時の反応をあれこれと想像しながら、俺は先生に咎められないようにこっそりと笑った。



⇒あとがき
 紫乃的存在は考えていないので、孤独を感じるが故に愛を求めて好きになれる女の子を求めて彼女を探す的な三郎にしました。
 うーん……無理やりすぎかな?←いつものこと
 やっと竹谷さんの「おほー」が使えてちょっと満足です♪
20110226 カズイ
res

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