22.映画

 不意に美沙が残り僅かなポテトが残ったトレーから視線を動かし、店内に掛かった時計を見上げる。
 その視線に合わせる様に時計を見上げれば、早いものでもう二時を指していた。
「この後どうする?」
「そうだなあ……うち、来るか?」
「鉢屋くんの家?」
 美沙はきょとんとした顔で首を傾げる。
「ああ。ちょっと遠いけど、レンタルショップとかでDVDでも借りてさ」
「そうだね、そうしよっか」
 笑みを浮かべた美沙は多分深く考えてないと思う。
 過去に付き合っていた彼女は確かに沢山居たけど、うちにまで呼んだ子は居ないって事、美沙は知らないんだろうな……。
「とりあえずレンタルショップ行くか」
「う、うん」
 美沙は慌てて残ったポテトを掴むと口の中に放り込んだ。
 店の近くのあるレンタルショップまではそう遠くない。
 俺は美沙の分のトレーも手にすると、トレーの上のごみをゴミ箱の中へと放り込み、二つ重ねてゴミ箱の上に置いた。
「行こう」
「ありがと」
 ふふっと小さく笑い、美沙は俺の横に並ぶ。
 店を出て四軒隣がレンタルショップだ。
「こっち?」
 逆方向を指差した美沙に俺は苦笑しながら首を横に振った。
「こっち」
「あ、本当だ」
 少し先の看板を見上げ、美沙は恥ずかしそうに笑って俺の後を追って歩き出した。
「何借りる?」
「美沙は何か見たいものはあるか?」
「映画ってあんまり見ないから……ジブリとか……駄目?」
 上目使いで小首を傾げる仕草は確実に無意識なのだろう。
 可愛いな、なんて思いながら俺はくつくつと笑った。
「別にいいぜ。ジブリは何見たことがある?」
「え?えっと……もののけ姫とポニョでしょ?後はラピュタとナウシカとトトロ?」
「全部監督が一緒だな」
「え?違うの?」
「ジブリ作品って言っても監督が違うって。ゲド戦記の監督が宮?駿の長男だって話は知ってるか?」
「あ、長男なんだ。息子としか覚えてなかったよ。見てないし」
「まあそんなもんか。その他に四人が劇場長編のそれぞれの監督を務めてる」
「へー……」
「宮?駿監督作品だと、他は魔女の宅急便、紅の豚、千と千尋の神隠し、ハウルの動く城、かな」
「あ、全部見たかも」
「そうか。じゃあ他は?」
「他って言われてもわかんないよ」
 眉根を寄せて唇を尖らせる美沙に俺は古い順にタイトルを上げていく事にした。
「火垂るの墓」
「泣く」
 まあ確かに泣く。
「おもひでぽろぽろ」
「知らない」
「ひょっこりひょうたん島が普通に劇中歌になってて面白いんだがなあ……平成狸合戦ぽんぽこ」
「見たけどあんまり覚えてないかも。狸が人間に化けてサラリーマンの格好してたのは覚えてる」
「そこしか覚えてないのか……あれも面白いんだがなあ……耳をすませば」
「知ってる。二回くらい見たよ。良い話だよね」
「純粋と言うかなんというか、だよな」
「やな奴やなやつ!あそことカンットリートロッド♪って弾んだ感じのBGMが印象的だった!」
「ふーん……じゃあさ、猫の恩返しは?」
「見てないよ」
「じゃあ猫の恩返しにしよう」
「他の人が監督した作品って少ないんだ」
「いや。耳をすませばを見たことがあるって言ったからな」
「?」
「詳しくは見てのお楽しみ〜」
 首を傾げる美沙に俺はにやりと笑って見せた。
 俺の笑みになにかあるなと思ったのだろう美沙は不思議がりながらも俺がそれを借りるのを止めなかった。
 主人公のハルが猫じゃらしの上に寝転がる姿が表紙になっているDVDを手に俺はカウンターへと向かった。
「350円です」
「あ、いいよ。今日誘ったの私だもん」
 ポケットを探ろうとした俺に美沙はそう言って財布を取り出した。
 慣れた様子で手早くお金を出してしまう美沙を思わず呆然と見つめていたが、ふとポケットに差し込んだ指先に硬いものが触れた。
 硬いと言ってもそこまで硬いものじゃなくて……そうだ、これは美沙から貰った試写会の葉書だ。

「あげる。来週の彼女と行けばいいよ」

「美土里ちゃんは用事があるみたいだけど、不破くんとかさ……誘えばいいじゃない」


 他の誰かとじゃなくて俺は……。
「鉢屋くん?」
「!」
「支払い終わったよ」
「あ、ああ……」
「?……もしかして支払いの事気にしてる?別にこれくらい気にしなくていいのに……」
「いや気にするだろ」
「だって私お小遣いってあんまり使わないんだもん。外食あんまりしたことないって言ったでしょ?」
「そう言えば言ってたな」
「お母さんが忙しい分近所のおばちゃんが面倒見てくれてたし、自分で料理作れるようになってからは自分でご飯作ってたからね」
「えらいな」
「……えらくなんかないよ」
 寂しそうに笑った美沙だったが、すぐに笑みを作った。
「ほら、早く行こう!鉢屋くんちどっち?あっち?」
「こっち」
 苦笑しながらも俺はそれ以上深く聞かなかった。
 何となく、それを聞くのは難しく感じて、深く踏み込んだら泣かせてしまいそうな気がした。
 多分、これは気のせいじゃない。



⇒あとがき
 紫乃的存在がいないからって事で金曜日に鉢屋家行ってないや、乗りこんじゃえ〜★ってことで次回鉢屋家突入です。←
 だって夢主の家に行ったら表札が食満だから鉢屋さんびっくりしちゃいますものv
 宮?監督だけでなくスタジオジブリの劇場長編作品はどれも大好きです♪
 おもひで〜は本当に衝撃的でした。まさかジブリ作品の中でひょっこりを見れるとは夢にも思わなかった。
 って言うか最近の子はひょっこり知ってるのかしら……知らなかったらショック。でも今度子どもたちに聞いてみよう。
20110404 初稿
20220809 修正
※「崎」は大の部分が立の方はバグってしまうので代用しています。
res

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