16.お邪魔虫

 学校近くの公園に入り、私はベンチに座って携帯電話を開く。
 放課後、鉢屋くんを避ける様に教室を飛び出して家に帰った私は夕飯の準備に取り掛かり、家族に置手紙を残して夕暮れ時と言うには少しまだ明るい学校へ戻ってきた。
 でも部活帰りの生徒を入り口で待つなんて出来なかった私はこうして公園に立ち寄ることにした。
 私と同じように一度家に帰ったのだろうか、小学生くらいの男の子が楽しそうに遊ぶ姿を目で追いかけながら、私は携帯を開いたり閉じたりを繰り返した。
 公園に入ってすぐに送ったメールの返事はまだない。
「……美沙」
 ふと背後から声を掛けられ、私はぼんやりと子どもたちに向けていた視線を背後に向ける。
 そこには不安そうな顔をした鉢屋くんが携帯を片手に立っていた。
 何を言えばいいんだろうと言うように、口を開きかけてきゅっと引き結んだ鉢屋くんに私は申し訳なさばかりが募った。
「部活、お疲れ様」
 とりあえず労いの言葉を掛けて、私はベンチの開いた隣をポンポンと叩いた。
 鉢屋くんは戸惑いながらも素直にベンチに座った。
 私たちの間には荷物を置けそうなくらいの中途半端な距離があった。
「メール見てくれたんだね」
「……まあ」
「来てくれないんじゃないかって思った」
「それはないかな」
 苦笑する鉢屋くんに、私は首を傾げた。
「なんでもない」
 鉢屋くんは首を横に振ったので、私はそれ以上は問わなかった。
「……昼間はごめんね」
「いや、俺も悪かったし」
「ううん。私には鉢屋くんを批難する資格も、美土里ちゃんとの電話を遮る資格もないから」
「……資格って、なんだ?」
 鉢屋くんの問いに私は答えを探そうとしたけど、見つかる気がしなくて、首を横に振った。
「ごめん、良くわからない。……自分でもなんであんな怒っちゃったのか」
「怒ってた自覚有るんだな」
「うん。なんでだろ……すごくイライラしたの」
「……そっか。ならいいや」
 不意に鉢屋くんはくつくつと笑い出した。
「鉢屋くん?」
「面白い事を教えてやろう」
 ちょいちょいと鉢屋くんは私を手招きし、耳元にこっそりと囁いた。
「俺な、恋人に束縛されるの嫌いじゃないみたいだ」
 なんだろうと思ってたのにそんな事を言う鉢屋くんに私は目を瞬かせた。
「お姉さんたち何の内緒話してるの?」
 ひょこっと現れた鼻提灯を垂らした少年の出現に私はぎょっと目を見開く。
 公園で遊んでる子どもの一人だと思ったら、その後ろに子どもたちが勢ぞろいしているのに気付いた。
「うお!?」
 流石の鉢屋くんも驚いて身体を反らせた。
「ちょっと、しんべヱ。邪魔しちゃだめだよ!」
 しっかりした男の子が注意するも、興味があるのかちらりとこちらを見る。
 他の子たちも似たり寄ったりな目をしていて、鉢屋くんは助けを求める様に私を見た。
 私は小さく唸りながらなんというべきか考えた。
 鉢屋くんの発言は小学生の子どもにはちょっと刺激が強いのではないかと思ったのだ。
「うーん……大人の話?」
「えー?何それー!?」
 詰まらないと言うように、唇を研がせる愛らし少年に同意するように別の子がブーイングを飛ばす。
 いや、ブーイングを飛ばされてもね。
「俺にはマゾ発言にしか聞こえなかったけどなー」
 あっさりと頭の後ろで手を組んで言う吊り目の少年に鉢屋くんがぎょっと目を見開く。
「お、お前何を……」
「彼女に束縛されるのが嫌いじゃないって、立派なドMだぜ。お兄さん?」
 にやにやと笑う少年に鉢屋くんの顔が青ざめる。
「……ご愁傷様」
「ちょっ、美沙!?」
「流石きりちゃん……って、何馬鹿な事言ってるの!お兄さん苛めちゃ駄目でしょ!」
 めっ!と眼鏡の少年が吊り目の少年の頭を軽く叩く。
「お邪魔してすいませんでしたー」
 どうやら眼鏡の少年同様に邪魔をして申し訳なく思っていたのだろう少年たちが釣り目の子や鼻提灯を垂らした少年たちを引きずってその場を去っていく。
 なんだか一嵐来たみたいな騒がしさだった。
「……えっと、帰ろっか」
「……そうだな」
 私たちはさっきまでの空気を忘れて思わず顔を見合わせると、思わず笑ってしまった。
 子どもの勢いってすごい。



⇒あとがき
 思わず一はをじょろじょろ出してみました。一は、小学生じゃなくて中学生です!
 子どもって本当面白いから一緒になって遊ぶの止められないです。そろそろ年を考えて落ち着きたいんですがね……せめて一緒になって遊ぶじゃなくて遊ぶのを見てあげるに留められる落ち着きのある大人になりたいです。←
 一応これで木曜日終了。次から金曜日です!
20110322 初稿
20220806 修正
res

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -