15.気になる事

 鳴り続ける電話に仕方なく出て、美沙が教室に戻っただろう頃合いを見計らって、下駄箱に寄ってから会議室に向かった。
 その頃にはもう委員会は解散で、俺は美土里からの説教を喰らいながら教室へと戻ることとなった。
「前から言ってたのに何で来ないのよ。お陰で先輩に睨まれちゃったじゃない」
「んな事言ったって美沙と飯食ってたんだからそっち優先するに決まってるだろ」
「え?美沙ちゃんと一緒に居たの!?」
「当たり前だろ」
 心底驚いているらしい美土里に俺は眉根を寄せる。
「まあ確かに美沙ちゃん、三郎と一緒に飯食うような性格じゃないもんね」
「って言うか三郎、あんたよく無事ね」
「は?」
「だって美沙ちゃんはとめ……っと、ごめん。なんでもない。兎に角、一週間で別れるんなら美沙ちゃんのこと絶対に傷つけないでよ?」
 念を押す様に言った美土里は、早足では組の教室に逃げる様に戻って行った。
 意味が分からず眉間に皺を寄せていると、一緒に居た勘右衛門は事情を知っているのか、苦笑を浮かべながら「まあ頑張れよ」と俺の肩を叩いてい組の教室に向かった。
 “とめ”の後に続く言葉が分からず、もんもんとしたものを抱えながら教室に入ると、先に教室に戻っていた美沙は一人自分の席で黙々と読書をしていた。
 だけどその視線はずっと一点から動かず、本を読んでいるようには見えなかった。
 何となく雷蔵に目を向ければ、首を無言で横に振っていた。
 恐らくあれからずっとその状態だったんだろう。
 俺は思わずため息を零しながら自分の席に着き、五限、六限と続く授業に集中することにした。
 正直、美沙に言われた言葉は胸に突き刺さったままだ。
 やっぱり美沙は俺との付き合いを一週間だと決めつけている。
 本当ならそれに気付いてた時点で言わなきゃいけなかったんだ。
 美沙を好きになっても想いあう関係にはなれない。
 これは遊びじゃない。だから別れておかなきゃ後悔する。
 ……いや、後悔は後からするものだし、既に後悔してるけどさ。
 美沙の何となくの発言で決まってしまったお付き合いももう四日目。
 あのキスからきっと俺は美沙に嵌ってしまっているんだと言う自覚がちゃんとある。
 でも、美沙は変わらない。
「なあ三郎」
 後ろに座る八左ヱ門が俺の背をシャーペンの背で突く。
「なんだ」
「お前、池上さんと喧嘩したのか?」
 こそこそと小声で問うてくる八左ヱ門に俺はむっとして眉間に皺を寄せた。
「別に喧嘩してない。ただちょっと邪魔が入っただけだ」
「げっ、それってもしかして食満先輩か?」
 八左ヱ門の言葉に俺の動作が静止する。
 食満先輩と言えばこの学校には一人しかいない。
 俺と同じ弓道部の三年生で、部長である潮江先輩とは犬猿の中で知られ、美沙との兄でもある従兄弟の錫高野先輩と良く似た容姿を持つ男―――食満留三郎先輩。
 美沙との接点等聞いたこともない先輩の名に俺はますます眉間の皺を深くした。
「あれ?兵助から聞いてないのか?」
「何をだよ」
「食満先輩、俺と同じ路線なんだけど、兵助が見る限り大体一緒の時間の一緒の車両に二人で乗ってるんだってさ」
 これって食満先輩の片思いじゃね?とわくわくした様子で言う八左ヱ門に俺は目を見張った。
 さっき美土里が何か言ってなかった?
 “とめ”って。
 美土里は食満先輩を呼ぶときは留先輩と呼ぶ。
 美沙は食満先輩の……その後の言葉が知りたいのに、無情にも授業開始の鐘が鳴り、授業担当の先生が教室に滑り込んできた。
 美土里の奴はあれで口が堅い。多分さっき口を滑らしかけたのは勢い余ってだろうから、きちんと問いただせば返事はないだろう。
 八左ヱ門が何か知ってるとは思えないし、だとすれば八左ヱ門に情報をリークした兵助が……とも思ったが兵助も多分詳しい事は知らないだろう。
 兵助の奴、俺が美沙と一緒に来たことに不平をこぼしてからきちんと美沙から距離置いて通学してるらしいし。
 あああ、気になるっ!!!



⇒あとがき
 ちょいと短めですが三郎サイドのお話書いておきました。
 留三郎、殆ど喋ってないのにお邪魔虫率上がってますね。うふふ、楽しいvv
20110322 初稿
20220801 修正
res

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