ろじくんとノータリンな幼馴染の場合
※成長(+1年)
廊下で丸まっている人影はまず間違いなく桃色の制服に身を包んでいるここにいるはずのない人間だ。
進行方向はその先であり、その人影を飛び越えるか横を通り過ぎればいいんだろうけど、俺にその二つの選択肢はない。
「おい公子」
げしっとその人影―――粟生野公子の背に足を乗せた。
「何で忍たま長屋で寝てんだ馬鹿かお前は」
「ろじくん、せなかいたいです」
すんと小さく鼻を鳴らした公子に溜息を零しながらも乗せた足は下ろさない。
小さく震えているらしいのを感じてようやく足を下ろして腰を下ろす。
「で、今日はなんだよ」
泣き虫な幼馴染は何かあるたびに俺たちがいる三年生長屋にやってくる。
俺がいるときは俺。俺がいないときは左近か久作に泣き言を零す。
そして何故か四郎兵衛相手にだけ姉貴風を吹かせたがるが、悉く失敗している……要は馬鹿なんだこいつは。
「じぶんがなさけなくてですね」
「お前が情けねえのはいつもの事だろ」
「うう、ろじくんはいつもどおりつめたいです」
「何で情けないとか思うんだよ。そっちを話せって言ってんだろ」
「せっかちです」
「公子がとろいんだろ。ばーか」
「ばかじゃないです。うー」
ぼろぼろと涙を流す公子の背をぽんぽんと叩けば、公子は更にわあっと泣いて俺にしがみ付いてきた。
結局今日も理由を聞かないまま大泣きに発展した事にこぼれそうになった溜息をぐっと凝らせ、公子の背を撫でた。
妹みたいだってずっと思ってた公子は先に背が伸びて、抱きついているよりも俺を抱きしめていると言う方が正しい言い方だ。
少しずつ女らしくなっていって、でも相変わらずとろいのも間の抜けた喋り方するのも変わらない。
公子は俺と違って今年一杯で忍術学園を辞めるって言ってるからそこには少しほっとしてる。
こいつにくのいちなんて似合わないし、なって欲しくない。
ムカつくけど俺は最近になってようやく公子を女の子として意識するようになった。
こんな風に俺に泣きついてくる公子にはそんな意識絶対ないだろうが。
「ろじくん、ろじくん」
「はいはい」
ぐずぐずと泣きじゃくる公子の背を撫で、俺は公子の甘い匂いを黙って堪能することにした。
泣いてる公子は俺の話なんかまともに聞きやしない。
変態だって言われようとこれだけで我慢してやってる俺を誰か褒めてほしい。
絶対好きって言ったらこいつ平気で好きって返して、挙句左近や久作と同列に並べるのだから。
「ろじくんだいすきですよー」
「はいはい、俺も大好きだよ畜生」
鈍感娘!さっさと中身も成長しやがれ!!
⇒あとがき
匂いフェチなろじとノータリンな幼馴染。
好きの度合いが違うのに悶々とするのってなんか青臭いなと思ったけど上手く掛けなかったよ……
20110129 カズイ