黒門くんとただの同級生の場合

※成長(+5年)

「粟生野。お前、彼氏いないだろ?」
 ぽんと投げられた台詞に私は開いた口がふさがらなかった。
 何を突然と思いながら目の前に立つ忍たまを見上げる。
 少し前までは私の方が見下ろしていたはずの、忍たま六年生の黒門伝七くんだ。
 すらっとした細身に赤みがかった髪を揺らし、どこか楽しげな顔をして言い放った黒門くんは意地悪な人が集まる作法委員会の副委員長様だ。
 六年間図書委員を務めた私は忍たま長屋にあまり用はなく、授業か蔵書の交換等でもない限り忍たまの敷地内に訪れることもなかった。
 当然彼との接点も授業でほんの少しであり、授業で必要な内容以外話したことはない。
 たまにやってくる食堂の当番の時だって私は厨房の奥に好んでいるので本当に接点が思い浮かばない。
 なのになぜ突然彼氏いないだろ?と……疑問形の癖に断定的な言葉を言われなくてはならないのだろう。
「大あたりの癖になに黙ってるんだよ」
 そう言って眉根を寄せる黒門くんに私は首を傾げる。
「答える必要、ある?」
「は?」
「えっと……黒門くんと私、友達ですらないよね?なんでそんな話になるの?」
 良くわからないよとそう言えば、黒門くんはますます眉間の皺を深くした。
 私変な事言ったかな?事実だよね?
 不安に思いながらも黒門くんを見上げれば、黒門くんは私の頭をがしっと掴んだ。
「い、痛い!痛いってば!」
「お前ムカつくっ」
「意味が分からないし、痛いし、止めて!」
 二ノ坪くんに頼まれてた本を片腕で抱えたまま黒門くんの手を引きはがそうとするけど、男女の力差はどうしようも出来なくて、指が食い込んで痛い。
「いいか粟生野、確かに僕とお前は友達じゃないが、お前は僕のお気に入りなんだよ」
「へ?」
「わかったらさっさと返事」
「はい?」
「よし!」
 満足げな黒門くんはようやく手を離してくれたけど、よく意味が分からず再度首を傾げた。
「私、犬でも玩具でもないよ?」
 笹山くんの彼女みたいに絡繰りに振り回されるなんて生活真っ平だよ。
 私は平凡に、いや、寧ろ地味ーに生きていたいの。この気持ちお分かり?
「なんだよ文句あるのか?」
「ありまくりだけど何か?」
 はっきりと答えると黒門くんは再び手を伸ばし、私は咄嗟に本を二人の間に挟んでみた。
「……それ止めろ」
「え?」
「別に頭掴まないから、止めろ」
 恐る恐る本をどけて、もう一度黒門くんを見上げれば、赤い顔をしてそっぽ向いた黒門くんがいた。
「分かれよ馬鹿!」
 いや、怒らないでよ。
「えーっと、つまりお気に入りって言うのは好きってことで良いの……かな?」
「他に何かあるのか?」
「笹山くん風に言うと玩具じゃない?」
「兵太夫と僕を一緒にするな」
 嫌そうに眉根を寄せた黒門くんは、ぽすんと私の頭に手を置いた。
「絡繰りに嵌りまくる馬鹿がいるから付き合ってみようと思うとか言いだすあの馬鹿と一緒にするな。僕は二年に上がって初めて粟生野に会ってからずっと見てたんだからな」
 段々尻すぼみになりながら言う黒門くんの様子が可笑しくて私は小さく吹き出した。
「笑うな」
「ごめん。でも見られてるの気付かなかったな……。これじゃあくのいち失格かな?」
「ふん。そんなものお前に気取られないようにしていた僕が優秀なだけだ。……で……返事は?」
 自信満々に言った黒門くんだけど、最後は真っ赤になりながら小さな声で言ってきた。
 男の子に言う台詞じゃないけど、なんだか可愛いななんて思いながら私は頷いた。
「とりあえず、よろしく。かな?」
「なんだよそれ!」
「だって友達ですらなかったもの」
「ぐっ」
 詰まった黒門くんの後ろにちらりと笑いを堪えている六年生の制服が見えた。
 あれ、多分黒門くんと同じ組の人たちじゃなかったかな?
「なんだよ粟生野」
「後ろ、覗き見されてるよ」
「え?……お前らあ〜!!!」
「逃げるぞ一平、彦四郎!」
「了解!」
「粟生野さん、伝七のことよろしくね!」
 走って逃げる三人組を黒門くんは追いかけようとして足を止めた。
「追わなくていいの?」
「追うに決まってるだろ」
 じゃあなんで足を止めたのさと思っていると、腕を引かれて頬に黒門くんの唇が触れた。
「後でやっぱり無とか言うなよ!」
 早口でそう言って立ち去って行った黒門くんをぽかんと私は見送った。
 赤みがかった髪が視界から消えてもしばらくそのままで立ち尽くす私は手の中の本を思わず落としてしまったことで正気に返った。
「図書室、行かなきゃ」
 ふらふらとした足取りで再度歩き出した私は、赤くなっているのではないだろうかと不安になりながら黒門くんの唇が触れた頬にそっと手を這わせた。
「……熱い」



⇒あとがき
 伝七が良くわからない\(^o^)/
20110129 カズイ
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