伏木蔵とお馬鹿さんな同級生の場合

※現パロ&成長(+3年)

 大川学園の保健室にあるベッドは私立だけあって如何にも高そうなふかふかなベッドである。
 そこに猫のように丸まって眠っている少女―――粟生野公子が居るのは実は今日に限った事ではなかったりする。
 すやすやと寝息を立てる公子の姿をカーテンを引いて確認した本日の保健室当番である中等部一年ろ組の保健委員である鶴町伏木蔵はふふふと青白い顔で不気味に笑った。
「……また寝てるぅ」
 初等部の頃の公子であればこうして授業をサボると言う事は一切なかったのだが、最近はそれが目立っているように思う。
 伏木蔵は足音を立てないようそっとベッドの上で眠り続ける公子に歩み寄った。
 近くにある椅子が邪魔で、少しずらそうかと悩んだのはほんの一瞬で、伏木蔵は椅子に手を伸ばした。
 ゆっくり慎重に動かしたのだが、逆にそれが仇になったのかぎぎぎと椅子の足が床を引きずる音が思いの外大きく響いた。
 一瞬まずいと思った伏木蔵だったが、公子が起きる気配はない。
「すっごいスリル〜」
 にやける顔を押さえる事が出来ず、椅子を避けた場所に立ち、公子の顔を覗き見る。
「んん」
 小さく呻き声を零し、公子が寝返りを打つ。
 まるで近づいた伏木蔵を避けるように動いた公子が面白くなくて伏木蔵は唇を尖らせる。
 保健室のベッドは日干しをする日以外はいつ保健室のベッドを借りに来る生徒が来てもいいように敷布団は敷きっぱなしになっている。
 だが掛布団は綺麗に畳んで壁際に寄せて、その上に枕をぽんと置いている。
 そしてその掛布団では寝苦しいと感じる生徒のためにと二つあるベッドの間に用意されたサイドテーブルの上には毛布が二組、これまた綺麗に畳まれて重ねられている。
 これは畳み方には口うるさい中等部二年い組の川西左近が用意したもので、その形は崩れた様子がない。恐らく今日は誰もまだ保健室には来ていないのだろう。
 畳まれた掛布団の端を枕変わりに眠る公子の姿に伏木蔵は小さく溜息を零した。
 保健室の主である新野から苦笑交じりに鍵を預かった時点で何となくそんな予感はしていたが、あまりにも予想通りの寝姿に川西先輩の怒髪が天を衝くだろう。
 いつもなら左右均等にと言わんばかりにきっちりと並べられている掛布団は歪んで枕が今にもずれ落ちそうなスリルがあった。
 数日ほど前に公子と同じクラスである乱太郎が彼女に注意をしたのが四度目だったはずだ。
 仏の顔も三度までと言わんばかりに乱太郎にしては珍しく声を荒げて正座した公子に小一時間ほど説教したのは記憶に新しい。
 あの時は流石の左近も中等部の保健委員長である三年は組の数馬と一緒になって乱太郎を宥めていた。
 ちなみに伏木蔵はその姿をにやにや笑いながら傍観していた口である。
 公子には学習能力と言うものがないのか乱太郎に怒られてもこうして保健室で呑気に眠っている。
 今日は新野が居たからまだいいが、新野はこの大川学園全体の養護教諭主任であるため忙しなくこの保健室と他の保健室を出たり入ったりしている。
 いつその隙をついて不逞な輩が現れるかもしれない。だから乱太郎は怒っているのだが、はっきり言っても聞かないのが公子だ。
 第一保健室のベッドは病気や怪我をした人が使うものであり、睡眠不足以外は至って健康な公子が使用していいものではない。
 大体その睡眠不足の理由がゲームのやり過ぎとあまりにも下らないからまた乱太郎や左近の怒りを買うのだと言う事も学習していない。
「公子ちゃんって本当お馬鹿さんだよねぇ」
 ふふっと笑いながら伏木蔵はベッドの端に手を掛ける。
 ぎしっとベッドが揺れても公子が起きる気配はない。だがいつ起きるともわからないこの緊張感が伏木蔵の気持ちを高揚させていた。
「よっと」
 ベッドの端に乗せた腕を軸に膝を掛け、足元に引っかけるようにして履いていたスリッパをポトポトと落としながらベッドに乗りあがる。
 仲の良いクラスメートの二ノ坪怪士丸と比べると小柄な伏木蔵は実際並んでみると公子よりも背が低い。
 中学生の男女などその身長差が割と普通で、もう一年もすればすぐに追い抜いてしまうだろう。
 公子自体女子の中でもそう背が高い方ではないのだから尚更だ。
 伏木蔵は慎重に公子の身体に覆いかぶさるように公子の身体を跨ぐと、にたりと笑って公子の上がっている肩をベッドに押し付けた。
「ふえっ!?」
 突然の衝撃に公子は目を開くも、覚醒は仕切っていない様子で、うっすらと開いた目で伏木蔵を見上げる。
「お仕置きた〜いむぅ」
「は……ん?」
 公子の下唇を軽く噛む様に食み、伏木蔵は公子が覚醒しきる前に動きを抑えるべく両手首を押さえた。
「ふし……んんっ」
 改めて唇を重ね、声を上げようとした公子の言葉を奪う。
 色気がないのだから当然キスなどしたことないのだろう公子は伏木蔵の突然の行動に目を見開き抵抗を見せたが、キスの仕方が分からないためか段々顔を赤くさせる。
(鼻で息をすればいいのに気付かないなんてやっぱり公子ちゃんはお馬鹿さ〜ん)
 思わず笑みが浮かぶに気づいたのか、公子が眉根を寄せながら唇を開く。
 酸欠状態に陥る前の行動だったのだろう。息を吸い込む公子の呼吸に合わせるように唇を重ね直し、舌を差し込む。
 経験がないなら噛まれたりでもするかなと思っていた伏木蔵の考えと違い、公子はぎゅっとただ身体を強張らせ、舌を引っ込める。
 それを絡めるように引きずり、飴を転がすかのように弄ぶ。
 どちらの唾液ともわからない水音が絡み合いくちゅくちゅと卑猥な音が清潔感溢れる保健室に響く。
 保健室の入り口には使用中の札が掛かっており、不運な保健委員が集まる保健室に休み時間を狙って好き好んで現れる馬鹿は居ない。
 代わりに授業中に授業をサボるために訪れる大馬鹿が目の前の公子のように居るようだが、それはそれだ。
 伏木蔵としてはまだ続けても良かったのだが、無意識に鼻で呼吸をすることを覚えた公子の身体が思いの外強張っているのが分かって、ちゅっとわざとらしく音を立てて漸く唇を離した。
 荒い呼吸を必死に整えようとする公子が泣きそうな目で伏木蔵を見上げる。
 馬鹿だが優しい性格の公子は伏木蔵がどんな事をしようとそれを許して受け入れる。
 わかって居るからこそ伏木蔵はぞくぞくと背中に走った感覚に恍惚とした笑みを浮かべ公子の耳元に唇を寄せた。
「言ったでしょ〜?お・し・お・きぃ」
 びくっと身体を震わせた公子の耳朶に舌を這わせ、ふふっと笑った。



⇒あとがき
 伏木蔵は一ろ組のエロ担当だと思うのは私だけ?って言うかそう言う意味で将来有望だと思うんですよね伏木蔵って!!
 本当は保健室で寝る寝不足夢主設定は乱太郎のものだったんですが、乱太郎だと話がどうにも行き詰ったので急遽伏木蔵に話を買えたらあら不思議。健全があっさり不健全に。
 愛故に暴走しましたが、楽しかったです。エロエロ伏木蔵さんはまたそのうち書きたいです。
 って言うか残りの一ろっ子も卑猥な雰囲気醸させたい……平太無理っぺぇけど。←
20110609 カズイ
res

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