三之助と迷子先の家主の場合

※現パロ+成長(+6)

 その少年は、ある日突然、前触れもなく私の前に現れた。
「なあ、ここどこ?」
「……私の家です」
 思わず「です」なんて最後に付けたけど、少年は明らかに私よりも年下の中学生だった。
 ブレザーのおかげか、同年代に比べると少し成長が早かった所為か多少大人びては見えたけど、四月と言う季節のため制服が真新しい糊のきいた感じだったため何とも言えない犯罪臭さを感じさせた。
 そんな最初の出会いからもう六年。
 当時中学一年生だった彼―――次屋三之助は高校三年生になっても相変わらずの迷子少年だった。

  *  *  *

「公子ー飯ー」
「勝手に人の家に上がるなバカタレ!!」
「潮江先輩みたいなこと言うなよな。なんだ、今日は素麺か」
「素麺で悪かったわね!暑いのよ!もう!」
 勝手知ったる我が家と言うように三之助は玄関からではなく夏の暑さに開け放っていた庭から上がってくる三之助に私は溜息を零す。
 こうして家に来たと言う事は恐らく家に帰りつけなかったのだろう。
 三之助はどうしてか自分の家に帰ろうとすると必ずと言っていいほど私の家に辿り着く。
 最初は「なんでだろうなー」と大きな問題として捕えていないなんて呑気な子だとは思ったけど、三之助の友達を見ていると何となく可哀そうだから、迷子捜索の協力をしている。
 今日はメールが来ていなかったところを見ると無事に学校には行ったんだろう。
 一応受験生だし、学校に辿り着かないのは問題だろうから作兵衛くんが心配してほぼ毎日朝迎えに行っている。
 当の本人は高校生にもなって過保護だとぶー垂れているので作兵衛くんに変わって私が殴ってやっている。
「食べていくんなら家に電話入れときなさいよ」
「家の前に着いた時点でメールした」
「家主の意思は無視か」
「どうせ一人なんだから食材余ってるだろ?俺腹減ったー」
「畜生っ、学生の胃袋に収まる量があると思うなよ!」
「嘘つくなよ。この間お中元で大量に素麺貰ったって言ってたじゃねえか」
「Shit!」
「発音良く悪態つくなって。ほら飯ー」
「呼んでもない客の癖に我儘な!これ食べてなさい。まったく……」
 私は食べかけの素麺を三之助の前へと移動させ、渋々立ち上がった。
「きゅうりと卵焼きも食べたいなー」
 この暑いのになんてことを言うんだこの馬鹿は!!
 思わず「死ね!」と罵声を浴びせ、私は台所に立った。
 亡き祖父の遺産の中から庭の整った昔からお気に入りだった、一人暮らしするには全く手狭ではないこの家を選んだ私は、金の亡者だった親族と早々に縁を切って一人悠々自適な生活を送っている。
 古い家なので建てつけがちょっと悪かったり、トイレと風呂はちょっと改装しなきゃいけなかったりと、多少のお金は掛かったけど、大学時代にキャバ嬢として稼いで溜めたお金がそこに役立った。
 今は普通に自宅でプログラミング関係の仕事をしている。ちょっと前までは普通にOLだったんだけど、高校時代の同級生に会ったのが運のつき、不眠不休が付きまとう面倒な職種に着いてしまった。
 まあ主に自宅で作業させてもらってるから義父と一緒に缶詰状態の彼よりは多少ましだろうけど。
 ちなみに三之助と会ったのは今の仕事になる前のOL時代。
 仕事の余りの疲労感に、庭の景色に癒されようと軒先に座っていた時だった。
 あの出会いからもう六年……時がたつのは早いものだと思う。
「なあ公子」
「何よ。もう食べ終わったの?」
 突然私の背後に現れた三之助に、私は眉根を寄せる。
 元々高かった背はあっという間に私を追い抜き、今じゃしっかり見下ろされている。
 この身長差に何度ドギマギさせられたことかわからない。
 申し訳のない事に干支一つ分くらいは年下だと言うのに、私の心は学生時代に置き去りになっていたらしい。
「今日泊っていい?」
「そう言いながらいつだって勝手に泊ってってるでしょ?」
「まあそうなんだけど」
「ったく、親御さん心配させないようにちゃんとメール入れなさい」
「って言うか、言ってある」
「家主に相談なしにまたか!」
「でも大事な日だし」
「?」
 はて、何かあっただろうか。
 思わず首を傾げれば、三之助は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「毎年何だかんだではっきり言わなかった俺が悪かったけどそりゃねえだろ」
「だから何が?」
「……俺の誕生日」
「……高校生ってそこまで誕生日気にするもの?」
「今回は特別だろ!?」
「なっ……何よ突然声荒げて……」
 いつもどこかのんびりした空気を持っている癖に。
 怒るのは何時だって私。声を荒げるのも、手を上げるのも全部私。
 滅多にないと言うか過去を振り返って見ても三之助が私に向けて声を荒げたことはなかった。
 例えば作兵衛くんだとか、他の友達だとか、ウザイ軟派男だとか……兎に角私以外に声を荒げることはたまにあったけど、私自身に声を荒げたのは確か初めてだ。
「俺、もう子どもじゃないんだぜ?」
 そう言って三之助が突然私の身体を抱きしめる。
 あっさりと身体を包み込んだ三之助の唇が私の首筋に触れる。
「っ」
 ぬるりとした感触が首筋を這うと、背筋にぞくりと快感が走る。
 高校生ともなればそう言う経験がなくはないだろうとは思っていたけど、私と三之助の間にそんなものは今まで一切なかった。
 どっちかって言うと近所のお姉ちゃんと生意気な餓鬼って感じの仲の良さだったと思っている。別段近所でもなんでもないんだけど。
 ちゅくっと耳に届く音と強く吸われる感覚に身体を震わせていると、三之助の唇が耳朶を甘噛みした。
「やっ、さ、んの、すけっ」
「今日からは俺の事男として見てよ」
「んん」
 つうっと掌が背筋を撫で、ジーパン越しにお尻を撫でる。
 どこでこんなテクを覚えてきたんだ!糞餓鬼!!と思わず罵りたくなる位にその掌が気持ちよかった。
 気持ちいいんだけど、私だってもういい年だし、三之助の所為で六年近くは確かにご無沙汰ではあったけど、経験がないわけじゃない。
 頭の端に残ってる理性がこれ以上は駄目だって訴える。
 私は啄む様に口付をする三之助の肩を両腕で必死に押した。
「……俺、もう18なんだけど」
「未、成年っ」
「保護者の許可有ればいいんだろ?」
「それ結婚!って言うか言ったの!?」
「だって俺、公子以外考えられなかったし」
 キスより先に尻揉んできた奴が何故照れた!!
「なあ、公子。結婚を前提に付き合って?って言うかまず俺を男としてちゃんと見て?」
「なっ」
「それにもう俺が居ないと調子狂うだろ?」
「……畜生、降参だよっ」
 六年間の月日は伊達じゃない。
 確かに三之助は隣に居て居心地が悪くなる相手じゃないし、居ない方が確かに調子が狂うのだ。中学も高校も研修旅行は耐えられたけど修学旅行の時とか散々だった!
 どうせ中坊に一目惚れした駄目な大人だよっ。
「誕生日おめでとう」
「まあ明日だけどな」
「……今のは聞かなかったことにして」
「んー。日付変わったらもう一回聞く」
「泊るの本気かよ!」
「ん。でもってちゃんとヤらせてね?」
「ばっ……ねーよ!」
「いやいや、照れないでよ公子さん。俺が照れちゃう」
「いやー!痒いー!!公子さんとか言うな気持ち悪い!!!」
 ぞわぞわと粟立つ両腕を擦れば、三之助が唇を尖らせる。
「失礼な」
「うっさい!」
「……絶対公子の方が煩い」
「ああもう黙って!恥ずかしくて死ぬ!痒くて死ぬ!!」
「死なねえよ。公子は俺に愛されてるから」
「意味わかんないし!!」
 大人には青春って痒いんだぞ!!



⇒あとがき
 18歳のプロポーズってなんだかときめく。しかも年上相手にとかますますときめく……とか思ったら手が勝手に。おおっと!!
 段々収集つかなくなって最後投げましたけどちょっと楽しかったです。
 大人の青春も……ありですよね?痒けりゃOK。←おい
20110510 カズイ
res

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