お豆腐先輩と天然被りな策士の場合

※現パロ&成長(+3)

 高等部からの編入組である私でも知っている位、一つ年上の久々知先輩の豆腐好きは有名な話だった。
 部活の関係で仲が良い綾部くんがよく先輩の事を豆腐先輩と呼んで語るので、私は釣られるように先輩の事をお豆腐先輩と呼んでいた。
 でも実際にお豆腐先輩と話したことはないし、遠目で見る事も両手で足りる程度じゃないだろうか。
 だけどなんだか妙に気になって、思わず豆腐菓子を作ってしまった事がある。
 綾部くんからは不評だったけど、事情を知らない立花先輩は手放しで褒めてくださった。
 そんなお豆腐先輩が私の目の前に居る。
 今朝、下駄箱の中にあった呼び出しのカードには誰と名前は書いていなかったけど、あまりにも予想外の人が居て私は思わず目を瞬かせていた。
「おと……久々知先輩?」
「?……ああ」
 思わずお豆腐先輩と呼ぼうとして慌てて言い直した私にお豆腐先輩は僅かに首を傾げる。
「こ、これくださったのも?」
 私は白い封筒の中に入っていた、同じく白いカードを取り出してお豆腐先輩に見せた。
「俺」
 こくりと頷いたお豆腐先輩に私は思わずカードとお豆腐先輩を見比べた。
 白いカードには簡潔に「放課後、裏庭で待っています」とだけ書かれていた。
 それを覗き見た綾部くんは「まさかね」と呟きながら何も教えてくれなかったし、平くんは何やらぐだぐだ言ってたけど、それどころじゃなかった私は、いつもなら八割くらいは聞いている話を全部聞き流してしまった。
 後でちゃんと謝ったけど、多分綾部くんは筆跡からカードを書いた人がお豆腐先輩だと分かったんだろう。
 何しろ綾部くんもお豆腐先輩も幼等部から大川学園に居るんだから筆跡位理解できるのかもしれない。
「入れ間違いとかじゃ……」
「ない」
 きっぱりと言い切ったお豆腐先輩に私の心臓がどきりと跳ねる。
 接点はなかったけど、やっぱり格好良いし、憧れの先輩だった。
 そんな先輩が料理を作る以外は大して取り柄のない私みたいな子に……告白?
 思わず緊張して身体が強張るのを感じながら、私はじっとお豆腐先輩の言葉を待った。
「―――粟生野さん」
「は、はい!」
「もしよかったら、なんだけど……」
 言いにくそうに色の白い肌に朱を走らせたお豆腐先輩の豆腐の如く色の白い肌をした顔をごくりと生唾を飲みながら見上げる。
 お豆腐先輩は私の視線に耐えられなくなったのか、僅かに視線を逸らし、「あー」と特に意味のない言葉を吐き出す。
「俺と一緒に、だな」
「はい」
「その……」
 言い淀むお豆腐先輩の後ろで何かがぴょこぴょこと動くのに気付き、私は眉根を寄せる。
 お豆腐先輩の後ろ、校舎の陰からひょこりと顔を出して綾部くんがこちらに向けてひらひらと手を振る。
 何しに着てるの!?と思わずぎょっと目を見開いていると、久々知先輩がぎゅっと拳を握り、決意を決めた様子で私をまっすぐ見据えた。
「お、俺と一緒に豆腐屋巡りしてくれないか!?」
「……え?」
 思っても見なかった台詞に、綾部くんを止めようとしていたのだろう平くんが綾部くんを巻き込んでどさりと地面に倒れた。
 その音にお豆腐先輩がぎょっとして後ろを振り返る。
 私は思わず目を瞬かせ、お豆腐先輩と同じように二人を見つめた。
「……おやまあ」
「きーはーちーろー!」
 のんびりといつもの調子で声を上げる綾部くんに平くんが怒った様子を見せる。
 結局二人とも同罪だと思うのは気のせいじゃないと思う。
「邪魔をしたのは滝夜叉丸の方でしょう?僕はただ見てただけー」
「お、お前ら聞いて……」
「粟生野が心配で様子見てたんでーす」
 滝夜叉丸邪魔、と平くんを払い、綾部くんは制服に着いた砂埃を叩いた。
「告白かと思って見に来たのになんで粟生野を豆腐屋巡りに巻き込むんですか。止めてください」
「こ、告白……!」
 顔を赤くし、狼狽えるお豆腐先輩に綾部くんが再び「おやまあ」と呟く。
「と言うか何でお前に言われなきゃいけないんだ!」
「反応が遅いです。粟生野は大事な作法部専属の料理研究部員なんですから立花先輩の許可なく呼び出さないでくださーい」
「何でそこで立花先輩が出てくるの?」
「何でって……これっぽっちも気付いてないんじゃないかとは思ってたけど、すごいね、粟生野って」
「ん?」
 綾部くんの言葉の意味が理解できないと言うように私は首を傾げた。
「僕、豆腐のお菓子嫌いじゃないけど、毎回は嫌だからね」
「いや、流石の私も豆腐のお菓子のレパートリーそこまで多くないよ?」
「……まあ、部活の事忘れなきゃ良いんだよ。うん」
「良いのか!?」
「良いんじゃない?」
「それじゃあ、僕は立花先輩に粟生野に変な虫がついたと報告してきますんで」
「変な虫!?」
「では」
 ぺこりと頭を下げ、何やら喚いている平くんを引きずりながら綾部くんはその場を立ち去った。
「虫ってどこにもついてないのになあ……」
 おかしいなと制服を確認する私に、お豆腐先輩が「え?」と然も不思議だと言わんばかりの声を上げ、そんな視線で私を見る。
「ついてます?」
「……いや」
 お豆腐先輩は引きつった顔で首を横に振った。
「俺が悪かった」
「?」
「ちゃんと言い直させてくれ」
「はい?」
「……粟生野の事が、だな……気になるんだ」
「はい」
「だからその……一緒に豆腐屋巡りに行きたいんだ。行ってくれるか?」
「部活のない日ならいつでも」
 にこりと微笑み頷けば、お豆腐先輩は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そ、そうか!」
「でも、気になるってなんでしょう?」
「……!!!」
 お豆腐先輩はまるで梅豆腐のように赤くなった。
 さあ、どうぞ。はっきり言ってくださいお豆腐先輩♪



⇒あとがき
 久々知のお相手は天然を装った策士な夢主になりました。きっと前世はくのたまですね。間違いない。
 天然装ってるんで仙蔵の気持ちにも気付いてるけど無視してるとかそんな感じだと思います。
 立花先輩は良い先輩であって別に好きじゃないんだよねーみたいな?……鬼やこの子。
 そして久々知は絶対告白下手な奴だと信じてる!!
20110510 カズイ
res

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