作兵衛と不思議な同級生の場合

成長(+3年)

 粟生野公子と言うくのたまを猫の様だと称したのは生物委員でもある孫兵だ。
 ……まあ、わかんなくねぇけどな。
 思いついたと言うようにふらりと現れ、気づいたら居なくなってる。
 懐いてるようで懐いてないつーか……まあ確かに猫の様と言えば猫のようだが……どっちかって言うとぬらりひょんじゃね?
 大体あいつが姿を現すときは飯時や誰かが菓子持ってる時だ。
 誰に断りを入れる訳でもなく勝手に人の物―――大体数馬のか俺のを掻っ攫って消えていく。
「猫じゃねえだろ」
「なにが?」
「うおお!?」
 突然目の前にぶらりと上体が落ちてきた……と言うか屋根にぶら下がって何してやがんだこいつは!
「……にゃあお?」
「誰が猫の鳴きまねをしろと言った!」
「誰も?」
 首を傾げ、ぶらーんと身体を数度揺らした後、公子はようやく廊下に降りてきた。
 つか、こいつどうやって屋根にぶら下がってた?何も持ってねえよな?
「つーか、俺、今は何も持ってねえぞ」
「知ってるよ。だけど今はお腹空いてないからいい」
「やっぱりぬらりひょんだろ!」
「何がぬらりひょん?」
「……こっちの話だ」
「ふーん」
 大して気にしていない様子の公子は降りた姿勢のままの身体をゆっくりと起こし、欠伸を一つ浮かべる。
「手は口」
「む」
 公子の手を無理やり口に当てさせれば、公子は眉根を顰めた。
「……作兵衛、私は作兵衛の幼馴染ではないよ?」
「んなこたあわかってるっつの。女がはしたねえつってんだよ」
「むむ……じゃあ何?作兵衛、寂しいの?」
「……は?」
「手の掛かる幼馴染と喜三太が纏まって」
「あー……別に寂しくねえよ」
 むしろ手が掛からなくなって少し楽になった。
 無自覚と決断力のある方向音痴二人の世話にこの馬鹿、それから委員会の後輩たちの面倒もみてりゃ少しは楽したかったって話だ。
 寧ろ最初の二人はいい加減六年になったんだから落ち着いてくれと思う。
 ……まあ、三之助は痛い目見てから大分落ち着いたが、左門はまだまだ餓鬼だしなあ。
「じゃあ、お母さんみたいだよ作兵衛」
「じゃあってなんだじゃあって!」
「私はそう言うのは望んでないんだけど」
「お前の希望なんざ知るか」
「むう……つまんない」
「何がだよ」
 公子はすっと俺との距離を詰め、俺の襟首を掴んだ。
 突然掴まれたことで驚いていると、公子の顔が一気に俺の至近距離に迫り、気付いた時には公子の唇が俺の唇に触れていた。
「!?」
「片栗の匂いがする」
 ぺろりと公子は自分の唇を舐る。
「それはさっき大福喰ったから……っていきなり何すんだてめえは!!」
 俺は公子の頭を軽くではあるが叩いた。
「食い物にがめつ過ぎだろうが。恥じらいを持て!」
「……本当つまらない」
「は?」
 公子は唇を尖らせぷいっと顔を背ける。
 その顔に反省の色は見られない。
「公子、お前なあ……」
「作兵衛は幼馴染ばっかり見過ぎ」
「はあ?」
「いい加減ちょっとはこっち向けバーカ!」
 ぺーっと舌を出して公子は素早い逃げ足でその場から姿を消した。
 あいつの足は二つ下の乱太郎に並ぶほどだ。俺が簡単に追いつけるとは思わないので、俺は仕方なくもその場で溜息を吐いた。
「こっち向けって……意味わかんねえ……」
「いや、熱烈な告白でしょ?」
「うおぅ!?」
 何時の間に俺の背後に立ったのか、数馬がにこにこと楽しそうに言う。
「孫兵も鈍いけど作兵衛も十分鈍いよね〜。あはは」
 何かいい事でもあったのだろうか、妙に機嫌のいい数馬は鼻歌でも歌いながら自分の部屋の方へと向かって行った。
「……熱烈な告白?……あれが?」
 公子の方が馬鹿だろ。
「そう言う大事なことははっきり言え!」
 なんてまどろっこしい奴だ。
 俺は深く溜息を吐いた後、公子の真意を問いただすべく走り出した。
 幼馴染から手が離れて寂しいなんて思う暇はない。
 あの迷子コンビと公子の所為で―――。



⇒あとがき
 作兵衛はきっと無自覚でおかんな所為で自分に向く感情には鈍いんだろうな……って思った結果がこれ。
 この時代コンスターチはないだろうなと思って片栗にしました。
 片栗の花好きです。でも粉狙ってちゅーするのは嫌です。←
20110331 カズイ
res

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