若旦那と恋する幼馴染の場合
成長(+3年)
俺の一つ年上の幼馴染の会話には必ずと言っていいほど金吾の名前が挙がる。
昔はそうでもなかったけど、最近急に増え始めた。
「……公子って金吾の事好きなの?」
嫌な予感がして、不安にざわめく胸の鼓動を無視して俯きながらそう問うた。
金吾の肉じゃがおいしかったと至福の表情を浮かべていた公子の口から肯定の言葉が聞こえなければいいって思った。
だけど、公子は信じられない!と言った様子で言った。
「え?何で今更!?」
心底驚いたらしい公子の言葉に俺はがくりと肩を落とした。
こいつはこういう奴だよ本当に!!
「金吾いいよね。剣に一生懸命な所が格好良いし、鍛えてるくせに綺麗な肉付きだし……はあ、本気で食べたい」
「人を食いたいとか怖ぇよ」
「意味違うし!卑猥な意味で食いたいの!」
「公子さん今お昼!時間帯考えて!!」
「同級生と猥談で盛り上がるどこかの馬鹿旦那さんに言われたくないでーす」
「誰が馬鹿旦那だ!そしてそれは男の性だ!!」
「威張れることじゃないわよばーか」
公子はけらけらと笑い、ふと寂しそうに空を見上げた。
「……公子?」
「まあ……なんて言うか、さ……」
言い辛そうに公子は言葉を探す。
「団蔵にもいい加減ばれちゃったわけだし……言おうかな、って……思う」
どうだろう?と言うように公子は俺を見る。
加藤村の子どもたち皆のお姉ちゃんだった顔でも、一つ年上のユキちゃんたちみたいに俺たちを苛める意地悪なくのたまの顔でもない女の顔をした公子に、ぞくりと身体中を何かが走っていく。
欲情するっつーか……とにかく女の顔だった。
だけど公子が本当にそう言う意味で求めてるのは金吾であって俺じゃない。
公子にとって俺は結局他の奴らと同じ俺は弟分で、苛め甲斐のある忍たまのままなんだ。
かっと熱く走ったものが急激に冷えていくのを感じながら、俺は公子の真剣な瞳に詰まった息を静かに吐き出した。
「……金吾は良い奴だ」
「うん知ってる」
「でも、あいつ女の子の免疫少ないからな」
「うん、だから好き」
「俺はお前みたいな女が金吾に好かれるなんて正直思えねぇ」
「……それもわかってる」
はっきりと言えば、公子の視線が落ちる。
俺はお前にそんな顔をして欲しいわけじゃないんだ。
「でも、あいつは押しに弱い!」
「え?」
「ガンガン押して、でもいざと言う時は斜め後ろに立つ。……そんな女なら多分落ちるぜ」
ずきずきと痛む胸を無視して、いつものにかりと明るい笑みを浮かべて締めくくれば、覚悟を決めたせいで一杯一杯になっていた様子の公子の肩から少し力が抜けるのが分かった。
「おら、わかったら今すぐ行って来い馬鹿姉貴」
「煩い馬鹿旦那っ……でも、ありがと」
柔らかな、多分久しぶりに見るんじゃないかってくらいの笑顔。
くのいちとして、じゃなくて加藤公子としての普通の笑み。
その笑みを見れただけで俺は満足だよ。
俺は走り出した公子の背を見送り、自然と流れ落ちた涙の後を強く擦った。
「あー!俺も恋してー!!!」
⇒あとがき
あえて馬鹿だ……ごほん。団蔵は失恋の方向で。
今回の夢主は金吾のお相手と共通って言う設定が……って言うか実は全部の話が微妙に繋がってるんですぜ。
……嘘です。たまに繋がらないかも知れません。←どっちだよ
20110331 カズイ