八左ヱ門と尻を揉む先輩の場合
朝、食堂に向かう道中、音もなく背後に現れる先輩がいる。
一つ年上のくのたま教室の先輩―――粟生野公子先輩。
美人だしスタイル抜群な先輩の唯一の欠点は忍務で学園を離れている日以外の朝、必ず俺の背後に音もなく現れる事だろう。
そして必ずつうっと俺の背をなぞり、その手が尻に辿り着くとぐわしっと擬音が尽きそうなほどしっかりと揉まれた。
「八左ヱ門、お・は・よ♪」
終いとばかりに耳元にふうっと息を吹きかけられた俺は「にぎゃー!?」といつものように悲鳴を上げた。
毎日されてるのに毎度背筋にぞくぞくした悪寒と快感の間と言うか、良くわからないものが走って止めを刺される。
ちなみにその止めと言うのは耳元に吹きかけられる息もそうだが、それと同時に離れる手がしっかりと揉んだ俺の尻に残る感触だろうか。
なんで好き好んで毎日毎日男の尻を掴みたがるんだろうこの先輩は!!
粟生野先輩は美人でも有名だがこの変態癖でも有名な先輩だ。
基本的に毎朝被害に遭ってるのは俺らしいが、一週間以内に一度は忍たまの大半が被害に遭う頻度でこういった手癖の悪さを披露している。
中でも被害を多く受けているのがこの俺なわけで、他の人たちは俺を粟生野先輩に差し出して逃げるような奴も居る。
主に三郎とか勘右衛門とかな!!
「もう粟生野先輩!毎朝毎朝言ってますけどいい加減にしてください!!」
「だって八左ヱ門のお尻ってちょうどいいんだもの」
じっと俺の腰元を見つめる粟生野先輩に俺は思わず尻を両手で覆った。
もうこの先輩本当嫌だ!!
出会った頃、うっかりその美人具合に一目惚れしてのこのこ粟生野先輩に声を掛けに行った俺を過去に戻って一発ぶん殴ってやりたい!!
あれさえなければきっと粟生野先輩に俺みたいなボサボサ頭の大して魅力が―――いや俺の尻は彼女にとって魅力的なのか?いやしかし一般的に彼女いない歴=年齢の俺に魅力なんてないだろ!?
だから本当だったら俺は今頃他の生徒同様毎日じゃなくて一週間以内に一度程度しか被害に遭わないはずだったんだ!
本当過去の俺の馬鹿!!!
思わず涙目になりながら粟生野先輩から逃げる様に食堂に飛び込むと、にやにやと笑う三郎と申し訳なさそうに御免と手で謝る雷蔵の姿があった。
こいつら二人して俺を見捨てやがって……
「おかず寄越せ畜生」
「やなこった」
「でもその前に何にするかで迷ってるんだよね……」
べーっと舌を出す三郎と、いつも通りの雷蔵に俺はがくりと肩を落とした。
「隙あり」
「ひっ」
本日二度目の気配に気づいた俺は短く悲鳴を上げながら近くに居た雷蔵を思わず差し出した。
「こら八左ヱ門なんてことをする!!」
「お前が何時も俺にやってることだよ畜生!!」
「ちょっ、二人とも助け……ひゃ!?」
「……あら、予想外の反応」
雷蔵の裏返った悲鳴に食堂の空気がしんっと静まり返った。
多分、忍たまの半数以上が今お前に同情しているだろうよ。
「……八左ヱ門」
「ひいっ!?」
声の出てしまった口元を押さえた雷蔵の低い声が両手の隙間から零れる。
思わず雷蔵が発する殺気にびくつきながら俺は後ろに逃げようとしたが、それを三郎に邪魔される。
「観念しろ八左ヱ門。潮時なんだよ」
「意味わかんねえよ!」
「八左ヱ門……男だったら黙って一遍犯られて来い!!!」
「雷蔵様スイッチ入ったー!!って言うかなんか色々突っ込みたいけど突っ込めねー!!」
いやー!と叫びながらも雷蔵に捕まってしまった俺は勢いよく粟生野先輩に投げられる。
粟生野先輩はその豊満な胸で俺の顔を受け止めると極上の笑みを浮かべた。
「うふふ、朝から素敵なごちそうね」
「……ひぃぃぃぃぃ!!!!」
俺とんでもないのに捕まったー!!!!!
その日の午後、性も根も尽きた様子で教室に倒れる様に現れた俺に正気に戻っていた雷蔵が何度も謝罪したが俺の耳にはあまり届いていなかった。
⇒あとがき
とりあえず竹谷さんの尻が揉みたかったのでやりました。
あれ?青春ってキーワードどこに消えたんだろう?(^p^)
20110325 カズイ