孫兵と冷え性の同級生の場合
※成長(+2年)
毒虫野郎こと伊賀崎孫兵には弱点がある。
優秀な彼にとってどうしようもない弱点は毒を持つ生き物を溺愛している事。
恋は盲目と言うが、多分そんな感じなんだと思う。
そんな溺愛して止まない毒虫たちの筆頭である蝮のジュンコが冬眠する冬。彼は必ず私の所にやってくる。
「公子」
「はいはい」
どうやってこうも無事にくのいち教室の長屋に辿り着けるのかは彼がいかに成績だけは優秀かを知るだけであって深くは聞かない。聞いたこともない。
少し冷える風と共に部屋の前で佇んでいた孫兵をとりあえず部屋の中へと招き入れた私は温石を包んだ袋を孫兵に持たせる。
末端冷え症な私は布団の中に温石をいくつか隠しているので、もう一つ新しいものを布団の中から引っ張り出し改めて暖を取る。
「今日も冷えるね」
「……ああ」
鈍い返事を返す孫兵に内心溜息を吐きながら布団の上に座る。
お互い寝間着姿ではあるけど色っぽいことがあったためしがない。
何しろ孫兵の一番はジュンコで二番目以降しばらく毒虫の名が続く。
私は彼の中で一体何番目なんだろうと考えるだけ無駄だ。
それでも人の中では上の方ではないかと思うのは、こうして孫兵が必ず私の所に来てくれるから。
「なあ公子」
「ん?」
「……寒いな」
「そりゃあ今日は何時もより冷え込んでるけど……」
孫兵はふと私の身体を抱きしめ、ぎゅうと強く腕に力を込める。
突然の行動に思わず目を瞬かせていると、確かに冷えた孫兵の身体が私に密着していた。
「今日に限って寝間着姿のまま来るからだよ。なんで制服のままこなかったの?それか袢纏」
私は自分で作った袢纏を羽織ってるから多少は温かいけど、それでも指先や足先は相変わらず冷えている。
「だけど急に寂しくなったんだ」
「ジュンコがいないもんね」
仕方ない仕方ないと私は口にし、孫兵の背に手を伸ばしてとんとんと背を叩いた。
幼子をあやす様にすれば孫兵は私の肩口に顔を埋める。
この二年で随分と大きくなった身体はあっさりと私を包み込んでしまう。
最初はドキドキと高鳴っていた胸も、いつしかただズキズキと痛むようになった。
「公子はいいな……」
「なんで?」
「冬でも僕の傍に居てくれる」
孫兵の嬉しそうな声音に泣きそうになる。
期待しちゃうからそう言う言い方は止めて欲しいのになあ……まあ毒虫野郎で鈍感野郎な孫兵に行ったって仕方ないけど。
「お前は僕の前からいなくなるなよ」
「なにそれ」
嫌でも卒業は一年先に待っているのに。
卒業したらよっぽど運と実力がない限り同じ就職先になることはない。
運が悪ければ敵同士になったりだってするのに……
「って、孫……っ」
つうっと冷たい指先が私の首筋を這ったかと思うと、襟首から寝間着の中に手が滑り込む。
露わにされた肩口が冷たくてふるりと身体を震わせていると、孫兵の唇が私の首筋に触れた。
私だってくのたま五年生だ。
当の昔に房中術の授業は始まっているし、孫兵と同じ就職先になれないかななんて淡い期待を抱いていい成績を修めようと努力してる。
……つまり授業以外でも他の人に抱かれてるって事なんだけど、孫兵が度々こうして私の部屋を訪れる冬以外、私は誰かと褥を共にしている。
だから手馴れているつもりだったのに、触れているのが孫兵だと思うと身体がくのたまらしく反応してくれない。
ちゅくっと音を立てて首筋を吸われると首筋に鬱血跡が残るのを感じた。
お前は僕の物なんだと言うようなその行為に私はどうにかなってしまいそうだ。
「や、だ……孫へっ」
恐怖と羞恥心にふるふると震えながらも私の身体は孫兵の背に手を伸ばしたままだった。
孫兵も私の物だったらいいのに。
春になったら二人でジュンコを迎えに行けるのかな?
変わり行く二人の関係に泣きそうな思いを抱えながら、私は孫兵から触れてきた唇に応える様に目を伏せた。
冷たい指先は孫兵の熱を受けても尚、冷たいままだった。
⇒あとがき
やることやってもぐるぐる悩んでいつまでもくっつかない二人に焦れたジュンコ姉さんが頑張ればいいよこの二人。
同学年の面々もこの二人いつになったらくっつくんだろうってはらはらしてればいいよ。三年生可愛いはあはあ。
20110318 カズイ