06.未来の不運委員長様

 菫隠の村の結界を抜け、ごくごく普通の小道を女二人でとりとめない話をしながら歩く事二日。
 そろそろ忍術学園の近くだと地図を確認して歩き出して10分ほど過ぎた頃だと思う。
 何やら男の子の泣き声とそれを宥めようとする女の子の声が聞こえた。
 私は椛と思わず顔を見合わせ、四つ辻を曲がり、その声の元へと向かった。
 そこに居たのは水に濡れた姿をした女の子と、水に濡れているだけでなく何やらボロボロな様子の男の子の二人が居た。
 多分その向こうにある川に落ちたのだろうとは思うけど、男の子の方はどうした?って感じだ。
「どうかしたの?」
 私がそう声を掛けると、二人とも驚いた様子でこちらを見た。
「いくら暖かくなってきたからって水に濡れたままじゃ風邪を引くよ?」
 私は荷物の中から手拭いを二つ取り出し二人に一つずつ差し出した。
「あ、りがと」
「助かったわ。私の荷物は無事だけどこの子の分まではなかったもの」
 そう言って、女の子はにこりと笑みを浮かべた。
 顔は十人並み……と言ったら失礼だけど、綺麗に笑う子だなあ。
「何?あなたたち川に落ちたの?」
 眉根を顰め、椛が言えば、男の子がこくりと頷く。
「正確には落ちたのはこっちの子だけ。私は助けるために川に飛び込んだんだけど……」
「大事な地図……流されちゃって……」
 うるりと瞳に涙を滲ませた男の子に女の子が慌てる。
「ああもう泣かないでよ!無くなったのは地図だけなんでしょ!?」
「そうだけど……地図がないと、僕……。折角、苦労してここまで来たのにっ」
 ぽろぽろと涙を零し、可愛い顔の割に男らしい泣き声をあげる男の子の顔を私はじっと見つめた。
 まるで少女と見まごう可愛らしい顔に、水気に負けないウェーブを持つ黒髪。加えて不運。
「ねえ君、目的地はどこなの?」
「ちょっと華織。あんたこの子の世話焼くつもり?」
「だってこの不運っぷり、まるで椛を見ているようじゃない」
「不運で悪かったわね!私は好きで不運の星の下に生まれた訳じゃないわよっ」
「ふう、ん?」
 椛の言葉に男の子は顔を上げる。
 きりっとしているようで丸い目でじっと椛を見つめる男の子に、椛は「うっ」と小さくたじろぐと、足元にあった小石に足を取られて後ろ向きに倒れた。
 私は咄嗟に椛の腕を掴み、彼女が転ばないように足を踏ん張った。
「ほら不運じゃない」
「くっ……」
「君も不運、なの?」
「うっさいチビ!」
「もう、椛ったら……威嚇しちゃ駄目でしょ?美人は凄むと怖いんだから」
「そっち!?」
 驚く女の子に私の胸がきゅんと高鳴った。
 何この子、突っ込み属性?なんておいしいの。
 平凡な外見で突っ込み属性。十人並みの顔だけどとっておきの笑顔は綺麗で、面倒に自ら突っ込んでいくとか……どこの夢ヒロイン?
 この子が私たちと同じ忍術学園目指してるって言うんなら、私絶対この子の恋、全力で応援する!恋するかは知らないけど!!
「ちょっと華織。何に胸ときめかせてるかは知らないけど帰ってきなさいよ」
「はっ!ありがとう椛!……で、話戻って目的地はどこ?」
「えっと、忍術学園ってとこ」
 その言葉に女の子は目を見張った。
「なら目的地は一緒だね」
「え!?ってことはあなたたちも忍術学園に向かってたの!?」
「なによ、あなたもなの?」
「う、うん……すごい偶然ね」
「本当だね。すごい……」
「ねね。私は今野華織。こっちは三反田椛。君たちは?」
「僕は、善法寺伊作だよ」
 そう言って男の子はへにゃりと笑った。
 ビンゴ!やっぱりこの子善法寺伊作だった!
 この不運っぷり間違いないとは思ったけど……椛と同レベルの不運かあ……この頃からこれってすごいね。流石未来の不運委員長様。
 しかし一年時のこの笑顔の可愛さ何!?半端ない破壊力だ!!
 うちの数馬も十分破壊力半端ないと思ってたけど保健委員って何?笑顔の殺人鬼?私を萌え殺す気!?
「私は宇角初江よ。二人は一緒に来たの?」
「そうだよ。ねえ、折角だから四人で一緒に行きましょ?」
「でも僕……」
「地図がないのに一人で辿り着けるわけないでしょ。ここは素直に華織の好意に甘えとけば?」
「遠慮はいらないよ?今は椛一人だけど、普段は不運の申し子を二人も相手にしてるんだもの」
「二人!?まだいるの!?」
「椛の甥っ子でね、三歩あるけば不運に当たるのよ」
「……それはっ」
 ごくりと宇角さんが唾を飲み込む。
 マジか!?と思わず言いたくなる不運の申し子が二人から一人に減ってまた二人に戻っただけだから私にとっては如何って事はない。
「まあそんな訳だから宇角さんはそう気にしないで平気だよ。さ、受付が締め切られないように急ぎごう!」
「そうね。遅刻したらそれこそ本当の不運だわ」
 宇角さんが頷くのを合図に私たちは再び歩き出した。

  *  *  *

 ようやく辿り着いた忍術学園の看板を見上げ、少しの感動とこれからの六年間に期待を膨らませながら私は忍術学園の門を潜った。
 入り口から入ってすぐの受付で受付中だった少年の後ろに並ぼうとして少年もろとも盛大に転んだ善法寺くんと別れ、私と椛と宇角さんの三人はくのいち教室の敷地へと向かった。
 あれきっと留さんだよね!いきなり留さん押し倒すなんて善法寺くん、君やるじゃん!!
 くのたまは忍たまと違って組分けがないらしく、先に長屋に通された私たちは一度荷物を置いて、受付でもらった制服に袖を通すことにした。
 花柄模様をあしらったピンク色―――椛曰くピンクと言うのは桃色ではなく撫子色らしい。正直どっちでもいい―――の長袖の制服に身を包んだ私と椛は揃ってくのいち教室の一年生の教室に向かった。
 くのいち教室も忍たま同様に一年から六年生まで学年はわけられているけど、授業は他の学年と一緒にやることもあるそうだ。
 他の学年と授業を行う事でくのたまの恐ろしさが受け継がれているのかと思うと酷くわくわくした。
 教室には既に何人かの女の子たちが居た。
 これからの生活に緊張しているのか、きょろきょろと視線を彷徨わせている子、早くも友達を作ったのかお喋りをしている子、制服と一緒に支給されたくのたまの友に目を通している子。皆それぞれ自由に教室の中で座っていた。
 教室の中には机は特に見当たらず、ここで間違ってないよなと思いながら私は教室の中に足を踏み入れた。
 適当に空いている場所を見つけて腰を下ろすと、椛は私の正面に座った。
 恐らくまだ時間があるだろう。少しお喋りをしても問題ないだろうと思い、私はぐるりと教室内を見渡した。
「これで全部かな?」
「さあ。とりあえず宇角……とか言ったかしら。居ないわよ」
「ああ、そう言えば」
 川に飛び込んだせいで服が濡れていたから着替えるのが遅れてるのかな。
 宇角さんとは部屋が違うと言う事で早々に別れて、別に約束したわけでもなかったからこうして二人でまっすぐ教室に来た。
 まさか私たちの部屋に私たちを呼びに行ったとかそんなこと……
「あ、今野さんに三反田さん」
 ふと、教室にくのたまがまた一人増えた。
 さっきまでのびしょ濡れっぷりからどうにか回復したようだけど、まだ髪が湿っている様子の宇角さんだ。
「さっきぶり。遅かったね」
「二人の部屋に寄ったからね」
 そう言って宇角さんは私たちの近くに腰を下ろした。
「なんとなく二人の事だから先に行ってるんじゃないかとは思ったんだけど、一応ね」
 苦笑を浮かべる宇角さんに私の胸が再びきゅんとなった。
 本当この子可愛い。なんて良い子なの!?
「宇角さん、私宇角さんのこと初江って呼んでいいかな?」
「別に構わないわよ。私も華織って呼んでいいかしら?」
「もち!」
「餅?」
「ああごめん。もちろん!」
「華織、たまに変な事言うけど慣れればどうってことないから。あ、私のことも椛でいいわ」
「あれ?さっきと違ってなんだか素直」
「華織が名前で呼ぶなら私も呼ぶ」
「……あ、そう言う」
 椛の言葉に初江は苦笑を浮かべながらも納得した。
 椛、ツンデレっ子の癖に数馬の事以外は私の意見採用しちゃうんだもんなあ。可愛いったらありゃしない!
「全員そろったようね」
 椛と初江の可愛さに一人悶えていると音もなく若い方のシナ先生が現れた。
 なにこれ超美人!
 思わずぽかんと現れたシナ先生を見上げたけど、他の皆も同じような感じだ。
「私はくのいち教室担当の山本シナです。みなさん、今日からよろしくね」
「「「はい」」」
 咄嗟に返事をしたのは三人。
 私と椛と……あ、さっきくのたまの友を読んでいた子だ。
 きりっとした顔立ちの女の子はどこか伊作に似た印象の子で、ふわふわの髪だとかそれっぽいけど、どっちかって言うとアニメ版の伊作?って感じかな。
 男前な空気を感じるけど、それと同時に庄ちゃんの学級委員長気質を見た気がする。
 少し遅れて他の子たちが慌てて返事をすると、シナ先生は満足そうに頷いた。


⇒あとがき
 取り敢えず伊作とだけ絡みました。留さんは多分的な感じでちらっと(笑)
 六年生大好き!留三郎もっとう……げふんげふん。まあ叫びたい萌えは一杯あるんですが、これ以上焦らすのは私が耐え切れないので、さくっと次は一年後に飛びたいと思います。
 早く五年生を苛めたくてたまらない!!このためだけにトリップした上に六年生くのたまになるようにしたんだからやらなくちゃ!!
20110423 カズイ
res

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