39.隠れた才能

 一年ろ組の教室はあのい組とは組に挟まれているけれどとても静かすぎる教室だった。
 斜堂先生の後を着いて歩く私の姿に下級生の忍たまがぎょっとしたように時折こちらを見る。
 上級生はさして気にした様子はなかったけど、下級生はちゃんと異常に反応できているから案外結界札授業作戦は成功するかもしれない。
 教室の戸を斜堂先生が引くと、ろ組の子たちの息を飲むような音が微かに耳に届いた。
 緊張しているのだろうか?
 不安に思いながら斜堂先生を見るけど、斜堂先生はいつも通り何も変わらないと言った様子で教室の中へと入っていき、私もその後に続く。
 教室の中へと一歩足を踏み入れると、私の制服の色にびくりと身体を震わせ、ろ組っ子たちは近くの子と抱きしめあって怯えていた。
 あー……新鮮な反応だ。しかし可愛いな畜生。
 ぐるりと10人居る生徒の姿を見回すと、その中で一人驚いた顔でこちらを見ている怪士丸くんの姿があった。
 ひらひらと手を振ると、怪士丸くんははっと我に返り私と斜堂先生の顔を繰り返し見る。
 ああ可愛いなあなんて思っていると、斜堂先生がじとっとした目でこっちを見てきたので、小さくこほんと咳払いをして目を伏せた。
 いかんいかん。私今教育実習生。略して教生だから。
「皆さんおはようございます」
 斜堂先生が声を掛けると、びくびくしながらも「おはようございますぅ」と声を揃えて返事をした。
 いやあ下級生ってなんでこうも可愛いかな。
 まあくのたまが忍たまには見えないところで可愛くないと言うか男前と言うか……うん、言わないでおこう。私たちの四人が可笑しいんだ。
「今日からしばらくの間のくノ一教室の六年生の今野華織さんが教育実習に入ります。予定より早くなったので皆さんにはお知らせできませんでしたが、今日の午前中の座学は今野さんの授業に変更します」
「くのたまの先輩の授業なんてすっごいスリルぅ」
「伏木蔵っ」
 にこにこと一人楽しそうな鶴町くんを後ろから怪士丸くんが注意した。
 なんて貴重な光景なんだろう。委員長が見たら鼻血吹きそうだわ。
「では今野さん」
「はい。同じ委員会の怪士丸くん以外は殆ど初めましてですね。私はくのいち教室六年生の今野華織です。基本的に下級生は座学に簡単な実技を交えた授業を行いたいと思いますのでよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げると教室の雰囲気が少し落ち着いた。
 その事に少しほっとしていると、すっと初島くんの手が上がる。
「はい、なにかしら初島くん」
「あれぇ?僕、名乗りましたっけぇ」
「……うん、まあ名乗ってないけどね」
「ですよねぇ」
 にこにこと……マイペースだね、君。
 思わずそう思いながら初島くんに「それで?」と言葉を促す。
「基本的に下級生はと言う事は他の学年にも行くんですかぁ?」
「時間を分けて全学年を回ります。これは私の授業の特殊性によるもので学園長先生の許可を受けて通常よりも長く教育実習期間が設定されています」
「ほええ……じゃあ六年生相手にもですか〜?」
「その通りです鶴町くん」
「僕の名前も知ってるなんて今野先輩ってすごぉい」
 感動した様子の鶴町くんに私はくすりと笑う。
「くのたまにとって情報は命だからね。二年生以上は忍たまの全校生徒の名前と顔を覚えてるわ。私だけじゃないのよ」
「くのたま怖すぎてチビリそうぅ」
「あー、下坂部くん、そんなに怯えなくていいからね」
 思わず苦笑を浮かべながら私は斜堂先生から借りたチョークケースを開く。
 白いチョークを選んで取り出すと、黒板に向かってチョークを走らせる。
「兎に角授業に入りましょう。私が教えるのはこれ」
「さんようどう〜?」
「字も意味も違うってばぁ。華織先輩が書いたのは陰陽道だよぉ」
 こてんと首を傾げた鶴町くんに怪士丸くんが溜息を吐きながら突っ込む。
 ……そうか、鶴町くんはボケで怪士丸くんは突っ込み担当だったのね。華織ちゃん吃驚よ。
「怪士丸くん正解よ。陰陽道は陰陽寮に所属する陰陽師たちが駆使する、飛鳥時代の頃の明で生まれた自然哲学思想、陰陽五行説を起源としてこの国で独自の発展を遂げた自然科学と呪術の体系よ」
 ざっと説明したらみんな当然目を白黒させた。
 は組じゃなくても難しい話よね。
「まあ陰陽道は四年生から始まる授業だから難しい内容だから詳しい説明は掻い摘んでしていくんだけど、私が一年生に教えるのはこれ」
 授業用に作った比較的簡単な結界札だ。
「それはなんですかぁ?」
「これは簡単な結界札よ。不浄……まあ要は霊的にばっちいものを祓ってくれるお札よ」
 ばっちいものを祓うと言う言葉にろ組の子たちの目が輝く。
 おいおい、そんなにばっちいものが嫌いなのかい?斜堂先生の教育の賜物なの?これ。
「まずは札に書く内容の意味を知らなければ作れないのでまずは内容に関して触れていきます。皆紙を出してください」
 そう指示を出すと、「はぁい」と元気なのか元気じゃないのかよくわからない返事が返ってきた。
 私は斜堂先生の補足するようにと言う指示を受けたりしながら札についての内容をろ組の子たち全員に教えていく。

 結果として全員がまともな札を作れたのは全学年中この一年ろ組だけだったことをここに記しておく。
 色んな意味で優秀だよ、一年ろ組っ子め……隠れ天才集団かここは。



⇒あとがき
 一ろ生徒人数捏造だけで留めました。
 本当は一人か二人捏造してやろうかと思ったんですが、私が訳わからなくなるので止めました。
 そろそろ夢主と雷蔵さんといちゃつかせたいですっ。
20110704 カズイ
20110707 加筆修正
res

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