38.作戦会議

 天女様こと水落茅がこの忍術学園にやってきて二日目の朝。
 夜の内に長屋に戻ったくらくんと数馬はくのいち教室の敷地内にはもう居ない。
 未だ布団の中でぐっすりと眠っている椛は今日の授業だけ免除で明日は普段通り皆と一緒に授業を行うことになっている。
 そして私は昨日の内に熊井先生に接触し、教師陣の許可を取って今日から身代わり人形を手に毎日忍たまの敷地内に侵入することになった。
 侵入と言っても名目上はきちんと教育実習を掲げているので誰にも文句は言わせない。
 まあ実際予定より時期が早まったんだけど、まあそれはそれ。
「気づかれず上手くいくんですか?」
「その辺りは真っ先に土井先生で実験済みですから」
 不審げな顔をする安藤先生にそう返せば、今朝の内に戻ってきて早速天女様に接触されたらしい土井先生が苦笑している。
 ちなみに今私が居るのは忍たまの職員室なんだけど、集まっているのは一年生担当の先生だ。
 私が担当する授業は当然陰陽術であるため本来なら上級生相手の講義、及び実技になるんだけど、今回の件もあるから下級生から順当に授業と言う名目で結界札を作らせて怪しまれず結界札を握らせようと言う作戦だ。
 結界札と言っても私が作るものと違ってお粗末なものだから個人の実力によっては結界札として役に立たない場合もあるだろう。
 だけど少しでも正気の人間が増えれば状況は変わってくる。と言う事で学園長先生の許可も戴いている。
 先生方に強くお願いしてあるのは正気に戻った生徒への精神面の補助と、今後の生活態度に関しての指導だ。
「私の結界札に何の疑問も思わないなら、素人が作る結界札にも用心はないでしょう」
「しかしそれなら何故彼女はこのような力を持ったのか……」
「彼女自身に力は力は無いようですからね。容姿とかは元々自分の物みたいですけど、魅了する力はまず間違いなく他者から与えられた力でしょう」
 朝早くから打ち合わせをするために忍たまの敷地内にやってきた私は、愛されている様子の天女様を見に行った。
 五年生の長屋の空き部屋に世話になる事になったらしい天女様は寝ぼけ眼ではあったけど、忍たまに囲まれてにこにこしていた。
 うへえ、よくも知らない相手に囲まれてよく楽しそうでいられるなあって思ったかな。
 だってそうでしょ?襦袢姿ってある意味現代ではブラとパンツ一枚で男の前に居るって事よ?
 よく見れば忍たまの笑顔は下心満載で、私だったら気色悪すぎて逃げてるわね。
 好きでもない不特定多数の男の人にそう言う目で見られて喜ぶって、天女様はよっぽどの尻軽か淫乱の雌豚なのね。
 ああでも朝から襦袢姿のくらくんを見れて華織ちゃん幸せよ!!
「……今野さん、それはセクハラです」
「いやん。斜堂先生ったら人の思考に侵入しちゃいやですよー」
「……熊井先生と思考回路が似てるもので、つい」
「つい?」
 ついってなんですかついって。
 すっと目を反らした斜堂先生に日向先生がからからと笑う。
「日向先生……」
「いえ、すいません。ふふっ」
 どうにも笑いが治まらない日向先生をじとりと見つめ、斜堂先生はふうと深く溜息を吐いた。
「熊井先生の事はとりあえずおいて置いて……最初の授業はうちのろ組と言う事ですが、その次はどうしますか?」
「それはもちろん理解力のある優秀ない組が……」
「いえいえー、実戦経験の豊富なは組が……」
 にこにこと笑いながら言った後、睨みあう安藤先生と土井先生に、山田先生と厚木先生が目を合わせて溜息を零した。
 うん、先生方は見事に通常運営ですね!
「は組の夢前くんとか札作り上手そうな気がしますし……」
「それじゃあ……」
「は組は最後にしておきます」
 にこりと笑って土井先生の言葉を交わせば、土井先生はがくっと肩を落とした。
「ま、様子見ないとわからないですけど、彼女、きっとは組は良く知ってると思いますし、あんまり早く手を回すのも良くないと思いましたので」
「それも一理あるな。今野、他の学年の方はどうするつもりだ?」
「そうですねー、数馬が寂しそうなので三年生は早めに授業しときたいですね」
「不破くんの居る五年生からじゃないんですね」
「そこはちゃんと弁えてますってー」
 何しろ天女様は五年生にべったりの様子だし、くらくんはくらくんでその所為で自分を押さえて鉢屋くんたちと一緒に居るからね……
 困ったように眉根を寄せながら一緒に居る姿は見ていてとってもおいしいんだけどもね!!
「申し訳ないですけど上級生は後回しです。餌をしっかり撒いとかないと尻尾掴めませんから」
「それもそうだな」
「では私は三年生の先生に話が行くように手を回しておきましょうかね」
「ありがとうございます山田先生」
 私は山田先生に頭を下げ、斜堂先生を見た。
 斜堂先生がその視線を受けてすっと立ち上がるのを見ながら、私は授業用にと大慌てでくのたまの図書室から持ち出してきた本数冊を片手に立ち上がった。
「それじゃあ行ってきます」
「頼んだぞ」
「はい」



⇒あとがき
 斜堂先生は夢主の扱いに困っていればいいと思いまして……熊井先生のキャラがこっそり軌道修正されました。
20110629 カズイ
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