36.告白

 隠の一族は主に四つの大きな勢力に分かれる。
 一つは椛と数馬が属する菫隠。菫隠一族はその四つの大きな勢力の中でも更に頂点に立つ位の高い一族だ。
 志島さんの一族である渡隠は菫隠の下位に位置する一族で、くらくんの一族である轟隠は数は少ないけれどその力の強さから四大勢力に数えられている。
 なのに何故志島さんがくらくんを轟隠の元に連れて行かなかったかは謎なんだけど……まあそれは置いておこう。
 そして残る二つは蛟隠に変わって名を馳せた鱗隠と、四国の山間地帯でひっそりと暮らしている、好戦的だが自らは手を出すことのない紳士的な一族・洞隠。
 礫隠一族はこの中で洞隠の下位に当たる一族だ。
 下位に当たるのだが、その性質は大きく異なり、菫隠と渡隠の関係と比べると正反対と言っても過言ではないと思う。
 渡隠は菫隠の村を拠点として全員が全国各地へと自由に渡り歩く自由な一族だ。
 大して礫隠は常に洞隠の監視を受けなければならない、隠よりも悪鬼に近い一族だと言う。
 個々の能力はとても弱いらしいのだけど、非常に頭のいい一族で、人を操る事に長けているらしい。
 その力で蛟隠一族を陥れ、滅ぼした事により今は一人たりとも洞隠の檻から逃していないはずらしい。
 だけど天女様からは礫隠の臭いがするらしい。
「推理その一、天女様の時代に礫隠の末裔が居た」
「実にしぶとい蛆虫の様な一族だもの。ありえなくないわ」
「推理その二、天女様は礫一族に殺された」
「あいつらが直接手を下すようには思えないわ。あいつらは卑怯の二文字で出来てるのよ」
「んじゃ、推理その三、天女様は礫一族に唆されて何者かに殺された」
「それが正しいんじゃない?」
「まあ確かにしっくり来るけどね。推理その四、殺されたことがきっかけで次元を越えた」
「それは無茶のある可能性ね」
「だよねー」
 委員長が持ってきてくれる昼食を心待ちにしながら色々考えてみるけど上手く話が纏まらない。
「まあ数日は天女様を泳がせて様子を見るべきね」
「数日ってどの位?」
「さあ。二、三日で済めばいいけど、そんな簡単な問題じゃないでしょ。礫一族が絡んでるんだから村にも連絡しなきゃ」
「僕たちに出来る事はありますか?」
「とりあえず臭いに耐えろ」
 それだけと椛は締めくくる。
 おずおずと尋ねたくらくんになんて物言い!
 ……まあ実際それ位しか今は出来ることないんだろうけど。
「私たちはしばらくこっちに籠るからおばちゃんの手伝いとかどうかな?」
「それ良いわね。他の忍たま使い物になりそうもないし」
「二人で手伝いか……」
 ちらりとくらくんと数馬が目を見合わせる。
「……頑張ろうか」
「……はい」
 今まではくのたまと忍たまで毎日交代でやってきた事を二人だけで回さなくちゃいけない。
 数日掛かるとは言うけどその数日は分からない。
「斯くなる上は土井先生に強力な結界札を持たせる代金として手伝わせる!」
「華織ちゃんがめついよ」
「才能の無駄遣いは勿体ないでしょ!使えるものは何でも使う。これどケチの常識です!」
 えっへんと胸を張れば、くらくんが苦笑を浮かべる。
「きり丸が真似するんできり丸の前では止めてくださいね」
「違うよー。元祖はきり丸くんだよー」
「嘘言わないでください。使えるものは本当に何でも使う華織先輩と違ってきり丸は優しい子だからそういう事はまだ無理です」
「バレたか」
「バレバレです」
 めっと言うように軽く私の頭を小突いたくらくんに私は思いっきり抱きつく。
「やんもうくらくん愛してる!」
「ありがとうございます。僕も愛してますよ、華織先輩」
「お願いだから突然いちゃつき始めるの止めて!?不破先輩もお願いですから自重してくださいっ」
 数馬が両手で顔を覆い、泣きそうな声で訴える。
「……数馬、そろそろ慣れなさいよ。何事も諦めが肝心よ」
 そう言う椛の目はどこか遠い。
 まあ数馬の前より椛の前でいちゃつく事は多いかな。
 だけど私たちの愛は誰にも止められないんだぜ!ひゃっほーう!
「取り敢えず天女様対策で二人は小波ちゃんと綾目ちゃんを手放しちゃ駄目だよ?」
「犬神は雑鬼たち連れて山に引き上げたみたいだし……」
 ふと椛が言葉を区切り、お梅ちゃんに結界を解くよう指示を出す。
 音もなく結界が消えれば、戸の前に立った委員長が足で戸を横に蹴った。
「話し合いは纏まった?」
「なんとなーく?お行儀悪いよ委員長」
「煩いわね。両手塞がってんだからいいのよ」
「初江もありがとー」
「……華織たち、本当に話し合いしてたのよね?」
 盆を三人分両手と腕に乗せて抱え、眉根を寄せる初江に私はへらりと笑った。
「途中でいちゃついてみたけどもね!」
「ちゃんとヤレっ」
「初江ちゃんたらこわーい」
「取り敢えず昼食にしましょう。不破と数馬くんをいつまでもこっちに置いておくわけにもいかないし」
「いーじゃんもーちょっとー」
「駄目。一応熊井先生に報告したけど、天女様に居ない事気付かれたらまずいから戻しておきなさいって」
「犬猫扱い……」
「似たようなものでしょ」
「椛ちゃんっ!」
 熊井先生、図書室に籠ってる割にもう天女様が忍たまを知ってること知ってるのか……
「ね、委員長」
「ん?」
「熊井先生、斜堂先生からお話聞いたのかな?」
「斜堂先生から?さあ……そう言う事は言ってなかったと思うけど」
「ふーん……熊井先生ってやっぱそうなのかもね」
「?」
 盆を下ろす初江と委員長を横目に私は自分の机の上に置いていた写本・陽だまり図書家族を手に取った。
 それを手に取って表紙を見せた瞬間、くらくんはぎょっとした顔で隣に居た数馬の耳を塞いだ。
 ……取り敢えず聞かせたくないんだろう。己の不名誉な話と言うかなんと言うか……まあ助かるけど。
「数馬以外はまあ知ってるだろうけど、これ熊井先生が書いた本ね」
「華織っ、流石に数馬くんが居る前では止めてあげて……」
「中身の話はまあおいて置くからくらくん、数馬から手、離してあげて」
「本当に本当ですね!?」
「大丈夫大丈夫」
 私は本をまた机の上に戻し、首を傾げる数馬に笑みを向けた。
「さっきの本ね、くのたまの図書室に居る熊井先生が書いてる本なの」
「熊井先生って確か図書室から出てこない先生……だよね?」
「そうそう。で、私が結局何を言いたいかと言うと、あの本の中に出てくる登場人物は私が熊井先生に話した忍たまを元にして書かれてるの」
「華織の見解交えた歪んだ話だったけど」
「まあそれも置いておいて……委員長はしっかり読んでるからもしかしたら気付いてるかもしれない。この本には足りてないものがあるって事」
「足りてないもの?」
 委員長は眉根を寄せて首を傾げる。
「確かに私が熊井先生に話す内容は限られてる。限られているからこそ熊井先生は知らなかった。この本に出てくる人物は誰?」
「出てくる?えーっと、中在家に不破に、能勢くんと……あ」
 委員長はそこまで言ってようやく気付いたらしい。
 私が主に話す忍たま以外は本の中に中々出てこないことに。私が名前を出していた場合はその例外だけど。
「そう。熊井先生は天女様と同じく特定の人間しか知らないの」
「斜堂先生が話してなかったらどうしてその事を知っていたか、よね。熊井先生を疑いたくはないけど何かあるのね?」
「これは私の推測だけど、多分先生方は知ってるんじゃないかな?熊井先生が天女様と同じ存在だって」
「でもどうして?」
「熊井先生がこの学園出身の元くノ一だからじゃないかしら。確か日向先生と一緒に戦忍として活動されていたけど、日向先生が忍術学園に就職が決まった時に一緒に来たはずだわ」
「流石委員長!美味しい情報ありがとう」
「日向先生と一緒に活動してたとか初耳なんだけど」
「私だってシナ先生からたまたま聞かなかったら知らなかったわよ」
「仮に熊井先生が天女様と同じ存在だったとして、熊井先生はどうしてこちらに来たんでしょうか」
「まあ確かに代償が分からない。もしかしたら代償がなかったのかもしれないし……でもまあ熊井先生は前から怪しいとは思ってたのよ」
「「?」」
 首を傾げる初江と委員長に私は黙っててもしょうがないかと腹を括った。
「南蛮の言葉に詳しすぎるんだよ」
「それだけ?」
「私もたまに使うでしょ?あれね、実は南蛮の言葉じゃないんだよ。英語って言ってさ、ポルトガルの言葉じゃないのよ。多分無意識にだろうけど、熊井先生たまに使ってんだよね」
 お互い、臭いものに蓋をしたいのは変わらないから、多分熊井先生も気付いてる。
 私がこうして皆に話す様に、多分、熊井先生も話してると思う。
 じゃなきゃ斜堂先生がヒント出してくれるわけないもんね。
「私は直に行かないけど、如意自在の身代わり人形使うよ。死霊をのさばらせとくのもアレだし、同郷者として私が片付ける」
「華織……」
 戸惑った様子を見せる委員長ににこりと微笑めば、初江も少し考えてこくりと頷いた。
「不破、華織の事ちゃんと守ってあげてね」
「はい。もちろんです」
「初江、あんた驚かないわけ?」
「もう今更でしょ。委員長って変な所で打たれ弱いよね」
「うっ……ちょっと戸惑ってるだけよっ」
「話はお終い。さ、早く食べましょ。折角のご飯が冷めちゃうわ」
 にこりと笑った初江に私はほっと胸を撫で下ろし、くらくんの隣に腰を据えた。
 大丈夫と言うように頭を撫でてくれたくらくんに私は胸の奥から溢れるものを押さえるように胸を押さえた。



⇒あとがき
 と言う訳で熊井先生もトリッパーだから先生たち納得してたんだぜ!って話です。
 さて、次からいよいよこんな風に話してる間に忍たまの間に根を張りだした天女様とバトル開始でございますわ!
 天女様死んでるから躊躇は要らないよね〜。はー……その点楽なようで面倒です。←自分でやったんだろ
20110615 カズイ
res

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