30.善法寺くんのお願い

「あ、そろそろ札持っていかなきゃなあ」
「それって例の団子屋?」
「そそ。この間は逢引ついでに届けに行ったけど、昨日からくらくんたち長期実習で居ないし……」
「私行く!!」
 勢いよく包丁を持った手を上げる椛に私は笑みを向けた。
「んじゃ二人で仲良く行きますか」
「華織大好き!」
「はいはい私も大好きだからとりあえず大人しく包丁握ってて頂戴。怖いから」
 それぶん投げて同じ不運スキルの持ち主である善法寺くんの方に飛んで行ったら可哀そうだからね。
「……華織ー、ちょっといい?」
「何?」
 カウンターで注文を取っていた初江が私に声を掛けてくる。
 善法寺くんたちの注文が決まったなら戻って来るところだろうけど、何故か手招きされた。
「何よ」
「華織さ、定期的にお札届けてるお店あるじゃない。そこってアルバイト募集してないかな」
「アルバイトぉ?」
 何でまた突然と思って首を傾げれば、善法寺くんが両手を合わせて私を拝む。
「神様仏様今野様。一生のお願いです僕をそこに連れて行って」
「……何で?」
「桂男の術の一環で色々探してるんだけど見つからないんだよぉ」
 泣き混じりの善法寺くんの言葉に初江が苦笑を浮かべる。
「なんかね、せめてアルバイトとして潜り込んで学ぼうとしてるらしいんだけど、悉く不運が発揮されるらしくってさ」
「もうこの際職種は何でも構わないから助けてよぉ」
「何でもいいの!?」
「……あ」
「……伊作」
 たらりと冷や汗を流す善法寺くんに、隣に立っていた食満くんが額に手を当てる。
 見事な墓穴をありがとう!
「んじゃ、次の休みに女装して校門前に集合ね」
「女装!?」
「あ、もちろん食満くんもね」
「何で俺も!?」
「個人的にじっくりがっつり見たかったのよね、食満くんの女装」
「じっくりがっつりってなんだ!?」
「まあいいじゃない。その課題って何個か出来るようにならなきゃいけないんでしょ?」
「そうだけどよ、女装って……」
「だって私が良く行くお店って従業員女性だけだもん。男の子連れて行ったら可愛い美紗ちゃんが委縮しちゃうじゃない」
「いや、あの子は委縮しないでしょ」
「椛、余計な突込みはなしよ!」
「美紗って……」
「若き菓子職人にしてお店を支える看板娘よ!」
 と、そこまで宣言したところで食満くんの顔がさあっと青くなる。
「む、無理!俺ぁ行かねえぞ!?」
「ちょ、留三郎だけ逃げようったってそうはいかないからね!」
「いや、本当駄目なんだって!その店って間違いなく池上屋だろ!?」
「あれ?食満くん知ってるの?」
「知ってるもなにも……っ」
 ぐっと食満くんは言葉を飲み込み、頭を抱え込んだ。
「無理無理。つーかねえ。ありえねえ」
 ブツブツと呟く食満くん。
 どうやら美紗ちゃんと何かあるようだけど……私が逃すはずがない。
「これは決定事項でーす。問答無用で椛と二人で善法寺くんと食満くんの二人を拉致しまーす」
「協力してくれるんだね!」
「食満くんの様子の可笑しさに免じて全面協力してあげる」
「……相変わらずのドSで」
「んもー!それくのたまには褒め言葉よ」
 けらけらと笑いながら、私は近くの席で仲良く食事をしていたきり丸くんに視線を向ける。
「きり丸くーん。女装平気なら次の休みに割の良いアルバイト連れて行ってあげるわよー」
「ほんとっすかー!?」
「善法寺くんの不運を補佐しながらだからちょーっと大変な分、私から色つけてあ・げ・る」
「まじっすか。あひゃっあひゃっあひゃ!」
 目が銭になっているきり丸くんに、隣に座っていた猪名寺くんが「もう、きりちゃんったらー」といつもの突っ込みを入れてる。
 委員長がここに居たらきっと目が幸せって喜ぶんだろうけど、委員長は居ない。
 忍たま五年生の実習の監督の手伝いとして木下先生に浚われていったのは昨日の事だ。
 今頃戦場でこそこそと先生たちと一緒になって五年生の監視をしている事だろう。
 ……多分、心の中で盛大に悪態をつきながら。

  *  *  *

 そうしてやってきました休みの日!!
 私と椛はいつも通りの格好で、きり丸くんは山田先生の授業と言うよりもアルバイトで実際に使用した経験を生かした可愛らしい女の子の女装だった。
 普段であれば女装してアルバイト等、担任で保護者変わりの土井先生が許さないけど、今回は私と椛、それに善法寺くんと食満くんが一緒と言う事で簡単に許可が貰えたらしい。
 男にしては可愛く纏まった女装でやってきた善法寺くんと、悪乗りしてついてくる気満々の立花くんに無理やり引っ張られてきたらしい食満くんは、何と言うか美しかった。
「なにこれ予想外のふつくしさ」
「愉快な女装を期待していた所悪いが今回は私が手出しさせてもらったぞ」
 食満くんが着ているのは私が先日借りた錆浅葱色に袖と裾の方に少し業平格子があしらわれた小袖だ。
 短い髪だけど、椿油でも使ったのか妙にキラキラしていて姉御!と呼びたくなる美人っぷりだった。
「本人ってばれたくねぇんだよ」
「美紗ちゃんに?そう言えば聞きそびれたけどどういう関係?」
「……言いたくねぇ」
「まあ勝手に穿り返すけどね」
「いやもうこればっかりは本当勘弁してくれ……っ」
 がくりと肩を落とす食満くんに立花くんが良い笑顔を浮かべた。
 ……なんだただの仙留か。
「大丈夫だ、問題ない」
「何が!?」
「もっとやれって話。さー行くわよー!」
「はーい!」
 元気に歩き出した私にきり丸くんが元気よくついてくる。
 椛も慌ててついてくるし、善法寺くんと立花くんも食満くんを引っ張ってついてくる。
 仙留どころの話じゃないわよね!3P!?3Pなのね!?
 そう言えばこの間の熊井先生の作品でこの三人絡んだのないな……よし、今度この事話して是非とも形にしてもらおーっと♪
「ご機嫌っすね、華織先輩」
「そりゃあね〜。あ、ついでに美紗ちゃんの所のお団子奢ってあげる」
「あ、いや、そこまで……」
「ただし、食満くんと美紗ちゃんの間を上手く引っ掻き回せたらね」
「それだけでいいんですか?任せて下さい!」
「ちょっ、きり丸そこは返事すんな!」
「やっすよー。華織先輩は俺の大事なお得意さまなんすから」
「この……」
「諦めろ留三郎。今回に限り私はきり丸の味方をするぞ」
「やめろ!お前が手ぇ出すと洒落になんねぇんだよ!」
「じゃあ素直に吐くが良い」
 何故上から目線なの立花くん。
 でも立花くんいいからもっとやれ。私が許す!
「華織、笑みが崩れ過ぎ」
「いやぁ楽しくってつい。そう言えば皆の事はなんて呼べばいいのかな?」
「仙子で構わん」
「きりでお願いしまーす」
「うーん、普段授業では伊子って使ってるかな」
「……留子」
「ぶっ、留子……!」
「何でそこで笑い堪えんだよ!笑いたきゃ笑え畜生!!」
 やけくそになった食満くんこと留子ちゃんはずんずんと大股気味に、でも女性らしい歩幅で先へと進む。
 ……何だかんだで様になってる事が驚きだよ食満くん。



⇒あとがき
 天女編の間の話がぐだぐだと思いの外長くなってますが、とりあえず団子屋さんの娘がWGF夢主なんですよって話。
 とりあえず次、鉢屋さんとWGF夢主の話をちらっと出しつつそろそろ天女編への伏線を明らかにしていきたいと思います。
 そろそろ話が繋がってる物語の謎が解けてきた人居るんじゃないかな……とか思ってみたり。まだ難しいかな?結構ヒント出しまくってるんですけどね。
20110531 カズイ
res

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