28.フラグ

 季節が一巡りし、先輩たちが居なくなった。
 卒業したの先輩は全部で四人。本当は後一人居たんだけど、秋休みに帰った実家で戦に巻き込まれ、命は助かったものの左腕を無くされたために自主退学された。
 私たちは誰一人欠けることなく忍術学園の最上級生になった。
 実質、去年から立場的には最上級生とそう変わらない権限を与えられていたからあまり実感がわかないと言うか、そう変わらないと言うか……まあ少なくとも次の世代を鍛えないとなとは思ってる。
 新五年生の代表である美土里ちゃんはまず間違いなく卒業まで残るだろうし、しっかりしてるから任せられると思う。
 他の五年生はあまり期待できないけど、四年生の奈乃香ちゃんって見た目の割に初江と同じお母んタイプな子だけど、色忍志望らしくしっかり色気もあるんだよね……美人なのも相まって成績も良いみたいだし。
 まあ次の代表を選ぶのはあくまで委員長の役目だから私は誰に決まるか静観するけど、今の委員長にとっては代表よりも先に新一年生漁りの方が重要事項みたいだ。

「今年の一年生は可愛らしいわね……」
 うっとりと校庭で遊んでいる忍たまの主に一年生たちを見下ろす委員長の横で私もそれを見下ろす。
 と言っても視界に入るのは一年は組の生徒だけなんだけどね。
 一年い組の生徒は長屋や教室、図書館と言った場所で予習や復習に余念がなく、一年ろ組の生徒は斜堂先生の影響か、去年と違って日陰で目撃される場合が多い。
「ちなみに委員長の今年の一押しは?」
 去年は能勢久作くん、一昨年は浦風藤内くん、その前は……名前は忘れたけど見た目からして真面目な子だった記憶がある。
 平くん真面目なんだけど見た目派手だったから後からじわじわ来たらしい。
 まあ確かに暴君……じゃないや、七松くんと一緒に居る時の平くんって可愛いもんね……
「一年い組の今福彦四郎くん。一年は組の黒木庄左ヱ門くんも可愛いんだけどなんて言うの?二年生と同じツンデレ要素が絡んだ瞬間心が大喝采を始めたわ」
「あー……さいで」
 つまり真面目タイプのツンデレがお好み、と。
 二年生の三人は確かに委員長のドストライクだったもんなー。その分私は時友くんを可愛がらせていただいたけれどもね。
 先輩が七松くんな所為か体当たりの勢いが最近酷いんだけど可愛いから許す!
「い組の子たちって外で遊ばないからつまらないけど、は組の子たちは毎日元気一杯で本当可愛いわよね……涎出ちゃう」
「そこは落ち着こう、委員長」
「……加藤の私服が理解できない」
「椛も感想可笑しいから。まあでもわかる気がするな……どうして中が見えないのかねぇ」
「でもあの見えるか見えないかの際が堪らないっ」
 悶える委員長と反対側で椛がじっと加藤くんを見ている。
 これは私離れの良い機会か?なんて思うけど、年離れてるから不運と同レベルでショタコンを否定しそうだ。
「やっと見つけたと思えば……お前ら何してんだ?」
「あら、親父。何か用?」
 背後から眉根を寄せた険しい顔で現れた潮江くんに心底嫌そうな顔で委員長が問うた。
「誰が親父だ!柳田!」
「煩いわねぇ。誰が見ても15に見えない顔で近づかないで頂戴」
「駄目よ委員長。流石の潮江だってそんな事言われたら傷つくわ。でも確かに同じ年には見えないけど」
「そうね。十分老け顔だわ」
「てめぇらっ」
「親父の顔見てたらなんだか気分悪くなってきたわ。私帰る」
 じゃあと委員長はあっさりと去っていき、椛がちらりと私に視線を向ける。
「華織はどうするの?」
「んー。くらくんの所に寄ってから帰るから先に戻ってて」
 むすっとした顔になった椛の額をぴんと指で弾けば、椛は拗ねた顔のままその場を去って行った。
 その背を見送り、私はぽんぽんと委員長が座っていた場所を叩いた。
「まあ座んなさいよ」
「……………」
 眉根を寄せながらも潮江くんは私の横に座った。
 素直に座るって事は、流石の潮江も感づいちゃったって事かな……ま、他の忍たまに比べれば過ごした時間が長いもんね。
「初江の事、私も詳しいわけじゃないわよ?」
「!」
 何故と言った顔でこちらを見る潮江くんに私はくすりと笑った。
「わざわざこんな場所に居る私たちの所に来たって事はそれ位しか浮かばないわ。あんたたち必要以上私たちに近づこうとしないじゃない」
 伊作は別だけど、皆私たちに何されるかわかったもんじゃないと必要以上近づかない。
 でも私や委員長ほど忍たまに悪戯をしたり酷い事をしないし、手を貸すところはしっかり貸す初江は忍たま受けがいい。
 見た目ははっきり言って十人並みなんだけど、些細な事にも気が回り、時には母親のように叱ったり頭を撫でてあげたりする初江は良く好かれている。
 椛はそもそも忍たまと関わろうとしないからはっきり言って論外と言えるかもしれない。
 一緒に授業組む度に不運を撒き散らすし、忍たまにとって一番組みたくない相手が椛なのは言わずと知れたことだ。
「気付くにしたってちょっと遅いんじゃない?」
「わかってるよ、んなこたぁ」
 イラついた様子の潮江くんは私たちの雰囲気とは対照的にきゃっきゃとはしゃぐは組の子たちを見下ろす。
「……気付いたのは俺じゃねえ」
「加藤くんとか?」
 丁度見下ろしてるし。
「……田村だ」
「田村くん?」
 まあ、潮江くんの次に会計委員での付き合いが長いけど、なんか意外。
「何だかんだで五年も付き合いがあるってのに、田村が気付いて俺が気付けなかったのは正直情けねえ。でもそれ以上に情けねえのは初江が何も明かしちゃくれねえのが情けねえ」
 潮江くんも年相応なんだなって思ったけど、言い方がおっさん臭いのは仕様なんだろうか。
 親父受けもたまにはいいな……熊井先生に提案しよう。
 いやしかし、田村くん相手にもんもん悩んでるのもいいかも知れない。
「伊作の奴も感づいてるみたいだが、あいつも口を割らねえ」
「そりゃそうだ。善法寺くん昔っから口堅いもん」
 ああ見えて本当不思議な子だ、善法寺伊作。
「……何だかんだで五年だぞ?そんなに俺は信用ないのか?」
「って言うか私たちも善法寺くんも本当の所は知らないのよ」
「は?だってお前ら……」
「いつも通り過ごして、初江が言いたくなるの待ってるの。まあ当然シナ先生はご存じみたいだけどね」
 潮江くんは俯いて何も言わなくなった。
 潮江くんは純粋に初江の事を心配してるんだろうけど、だからと言ってそれを前面に出されたら、多分初江はますます自分の殻に閉じこもってしまう気がする。
「潮江くんが心配してくれるのは良いんだけど、もうちょっと見守ってやってよ」
「あ?」
「周りがとやかく言ったって初江の場合は逆効果って奴よ。心配しなくてももうちょっとしたら爆発するわよ」
「ばっ!?」
「感情がだからね。初江だって普通に15歳の女の子だもの。……潮江くんだってそうでしょ?」
「……………」
「ま、兎に角見守ってやってよ。じゃ、私も行くよ」
 立ち上がり、ひらりと潮江くんに手を振って校舎の屋上から飛び降り、近くの木を伝って地面へと舞い降りた。
「進路変更、ってね」
 今頃長屋に居るだろうくらくんの部屋に行く前に、私は田村くんが居るであろう演習場へと足を向けた。
 何処かの情報屋じゃないけど、多少の助言は構わないだろう。
 新四年生はアイドル学年で、自尊心の強いと言うか、我の強い扱いにくい学年だと言われているけど、彼らは意外と冷静に物事を見ている。
 ふざけた仮面の下に仮面を被った可愛い悪戯小僧たち。
「年下攻めってのも有りよね〜」
 鼻歌でも歌いながら、私はすいすいと宙に指を動かす意味のない動作を繰り返す。
 こんな時代だから、戦なんてものは何時何処で始まっても可笑しくなんてない。
 死は私たちのすぐ側に何時だって存在する。
 だからこそ、私は初江の未来に希望を抱く。
 彼女はきっと私たちの中で誰よりも早くくノ一を辞めるだろう。
 その時、隣に立つ男が潮江くんなのはなんだかしっくりと来ない。
 だから私はちょっとの助言を彼に与えるのだ。
「ごめんね、二人とも」
 向かい始めたフラグ、ちょっとへし折らせてもらうね。



⇒あとがき
 実は「悪い女」の過去にこんなことがあったから離婚後に久しぶりに会う夫婦みたいな会話になっちゃったんだよ的な……ね!
 夢主の言いつけ守った潮江くんは初江ちゃんの事が好きなんだけど、立ちかけたフラグへし折られた所為で一生片思いのままです。
 潮江さんはこの先ずっと初江ちゃんに複雑な思いを抱えながら、ストーカー女とかと最終的に結ばれて「あれ?俺何してんだ?」って暫く立って我に変えるんじゃね?って妄想したらめがっさ萌えたのは私だけ?(^p^)
 まあこれで初江ちゃんには「悪い女」フラグが立ちました。やったね!このために四年生とも仲良くなったんだぜ!ってのは後から考えたいい訳なんだぜ!!←
20110525 カズイ
res

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