14.数馬の心配

「あ!」
 ふと上がった声の方に視線を向けると、次屋三之助らしき少年を縄で縛った数馬が居た。
 その反対隣りに居た少年が首を傾げ、次屋三之助らしき少年の後ろからも少年がひとりひょこりと顔を出す。
 え?三年生勢揃い?なにこれ目が幸せ!!
「何で居るの!?」
「な、なんでって……左門くん連れてきたんだけど」
 ショック過ぎる。数馬の口からそんな言葉が放たれるなんてっ!
「なんだ数馬、華織さんと知り合いか?」
「知り合いって言うか……」
 もごもごと口を動かす数馬に私は思わず肩を落とした。
「ど、どうした華織さん!泣いちゃだめだぞ?」
「泣かないけど……数馬、酷い」
「酷いのは華織ちゃんだよ!何で来るのさ!」
 どうやら怒っているらしい数馬に私はガーンッと石を投げつけられた気分だ。
「椛ちゃんから散々言われてるでしょ!?忍たま長屋には……わひゃ!?」
 余計な事を言おうとした数馬の足をお梅さんが引っかける。
 お梅さんが見えないだろう他の子たちは突然転んだ数馬に目を丸くし、慌てて駆け寄る。
「痛た……」
「何にもないって言うか歩き出そうとして転ぶとかどんだけ器用なんだよ」
「煩いなあ、こっちにだって事情があるんだからっ」
「不運って言う?」
 のんびりとした声音に腹を立てた数馬がぺしりと次屋三之助らしき少年の足を叩いた。
 そのやり取りの後ろで、首に巻きついてた蛇がふよふよとお梅さんの姿を目で追って首を動かしている。
 自分が見られていることに気づいたお梅さんはぱあっと花開かせるように笑みを浮かべ、ふいよふいよと蛇の近くを漂う。
 そのうち威嚇されないだろうかと内心ハラハラしていると、蛇は害がないのだと判断して目を伏せて大人しくなった。
 それに寂しさを覚えたのか、お梅さんはしゅんとなって静かに姿を消した。
「ちゃんと距離置いてるし、たまにはいいじゃない。華織ちゃんは数馬くん切れで死にそうなんです。……また来ちゃ駄目?」
「うっ……そんな甘えたこと言っても駄目なものは駄目!」
「ちぇっ」
 唇を尖らせれば、次屋三之助らしき少年が小さく吹き出す。
「あんたおもしろいのな」
「縄で繋がれてる君にだけは言われたくないよ」
「そうだぞ三之助!どうして縄に繋がれてるんだ?また迷子か?」
「は?迷子?誰が迷子だよ。厠探して歩いてたら藤内が勝手に結んだんだよ」
「お前が作兵衛に迷惑かけるからだろ!?」
 僕の所為じゃない!と怒鳴る少年に私は目をぱちくりと瞬かせる。
「あ、すいません。僕は数馬の同室で浦風藤内と言います」
「私は今野華織だよ」
「なんだ、数馬の姉ちゃんじゃないんだ」
「姉ちゃんじゃないもん」
 ぷいっと顔を反らす数馬にぐさりと私の胸に矢が突き刺さる。
「数馬、酷い……いつからそんな反抗期にっ」
「反抗期じゃないよ!ただ……」
 ごにょごにょと言葉を濁し唇を尖らせる数馬に私は首を傾げた。声が小さすぎて聞こえないぞ?
「あ、俺は次屋三之助です。よろしくお姉さん」
「よろしく。で、そっちの子は?」
「僕は伊賀崎孫兵です。こっちは蝮のジュンコです」
 そう言って伊賀崎くんはジュンコちゃんを見つめ首を傾げた。
 恐らくさっきのお梅さんへの反応に対してなのだろう。
 この子達は皆見鬼ではないだろうに、数馬に対して不運の一言で片づけて友達づきあいをしてくれているのだろう。良い子たちだ。
「ほら、左門くん。さっき部屋で会った子、数馬に似てたでしょ?」
「僕、数馬だと思いました!」
「椛ちゃんの事?会ったの?」
「会ったぞ!数馬にそっくりだった」
「それ本人に言ったら怒られるからやめてね」
「怒られはしなかったがむっとしてたな」
「……だろうね」
 がくりと数馬が肩を落とす。
「私と同室の三反田椛って子が数馬の叔母さん。で、私の親友で相棒なの」
「相棒?えっと、三年の鉢屋先輩と不破先輩みたいに?」
「そうそんな感じ。椛も数馬と一緒で不運だからいつも一緒に居るの。皆も数馬の側に居てあげてね」
「華織ちゃんはお願いだから椛ちゃんから離れないで」
「大丈夫よ、椛は部屋に残してきたから、動いてなければ不運に見舞われないわ」
「そう言う意味じゃないってば」
 眉をへにゃりと八の時に落とした数馬に私は首を傾げる。
「もう、少しは自覚してよぉ」
「ちゃんとわかってるわよ。大丈夫大丈夫」
「華織ちゃんがそういう時は絶対わかってない時だよ。僕心配してるんだからね!」
「いざとなったら数馬の所に逃げ込めば問題なし!」
「問題大ありだよ!?」
 勢いよく突っ込みを入れる数馬に首を傾げる。
「信用ないね、彼」
「先輩もだけど華織ちゃんのその楽天的な考え方が信用ないのっ」
「なんか事情あるみたいだが、なんかやばい先輩でもいるのか?だったら僕たちで守れば問題ないだろ」
 何をそこまで心配することが?と左門くんは首を傾げる。
「馬鹿左門!俺たちじゃどうにか出来ない程の先輩だから数馬がそこまで怒るんだろ!?くのいち教室と忍たまは敷地が区切られてるから出てこなきゃ問題がないって……」
「でも上級生になったら条件付きで出入りできるって聞いたよ?」
「え?マジ?それすげー」
 小首を傾げた浦風くんに三之助くんが両手を叩く。
 ……それって夜這いのことじゃね?
 誰だ、純粋な一年生にそんな事教えたの!七松くんか!?やるなら中身はアレでもそっち系の話には初心過ぎるほど初心な平くんにやってよ!面白いのに!!
「私、もう四年生よ?五遁術の成績だっていいし、そっちの事は椛か数馬と一緒に居れば問題ないでしょ?」
「そうだけど……ううっ」
「数馬、諦めた方が良いんじゃない?」
 苦笑しながら浦風くんが数馬の肩を叩く。
 数馬は「でも……」と言い淀むけど、ちらりと私を見上げて溜息を吐いた。
「わかったよ。でも長屋に居る時を狙ってね?長屋なら他の学年が来ること少ないし」
「そうだろうけど……あれ?数馬の所には挨拶来てないの?」
「多分孫が居ること知らないんじゃない?」
 眉根を寄せる数馬に首を傾げた。
「あ、本当に親同士の知り合いなんだ。椛が詳しく話してくれなかったから気にしてなかったけど」
「華織ちゃんはもう少し自分の事ちゃんと考えて、本当」
「んー……でも面倒だもの。進退疑うことなかれよ?」
「……それで左門が迷子だったんだけど」
「……すいませんでした」
 じっとっと見上げる数馬に私は頭を下げた。
 うう、可愛い数馬には敵わない。



⇒あとがき
 三年生ズは意味わかってないけど、とりあえず夢主の事を自覚が薄い危ない先輩!僕らが守ってあげなきゃ!とか思ってます。
 ……可愛いなあ。
 数馬は数馬で椛同様に轟隠である雷蔵を警戒しまくっています。挨拶に来てないのはまあ数馬が言った理由もそうですけど、別の理由もちょっとあったり……まあそれは後々。
20110427 カズイ
res

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