13.迷子と保護者

 忍術学園に入学して四年目……ついに数馬が入学しました!
 うわーい!どんどんぱふぱふー!!
 ……と、浮かれていても実際には会いに行けないのが悲しい運命です。
「私何かしたかな……」
「反抗期じゃない?」
「えー?だって忍術学園には一緒に来たじゃない。ううっ、折角数馬が近くに居るのに数馬が足りないー」
 数馬より私の方が数馬離れできてない……と言うよりも、忍術学園に入ってから休みの日に会うくらいで、基本は文を交わすだけの日々だったから欲求不満になったみたいだ。
 10歳になった数馬は相変わらずふくふくしていて、長く伸ばした菫色の髪を揺らしながら振り返る姿は犯罪的な可愛さを誇っていると思う。
 そんな数馬が急に来ないでと言いだしたのは入学してすぐの頃だった。
 まだくのたまの恐ろしさを知らない数馬が来ないでなんて……くのたまの恐ろしさ知ったらますます離れて行っちゃうかもしれない!
「どうしたらいいの椛っ」
「知らないわよ。私としては数馬の所に行かないならそれでいいもの」
 くすくすと楽しそうに私にべったりと甘えるように抱きついてくる椛も可愛い。
 可愛いんだけどもやっぱり数馬が足りない!!
「うう、数馬ぁ」
「ここかぁ!!」
 すぱんっと突然障子戸が開き、私は思わず目を丸くした。
 私にべったりと抱きついていた椛も腕の中で目を丸くしていた。
 障子戸を開けたのは大きな目と太い眉をした男の子だ。制服は一年生のもので、数馬が着ていたものと一緒だ。
「む?数馬……お前女だったのか!?」
「誰が数馬よ」
「君、数馬のこと知ってるの?」
「知ってるぞ!影が薄いからいっつも同室の藤内が手を繋いでるんだ!」
 元気一杯に説明してくれた少年に私はその姿を想像して思わず口元を押さえた。
 数馬ったらなんて素敵な萌え提供を……じゃなくて、友達ちゃんと出来たんだね。お姉ちゃんは一安心よ!!
「所で君は忍たまでしょう?どうしてここに?」
「僕は厠を探していたんだが、厠が見つからないんだ」
「厠どころかここは忍たまの敷地内ですらないわよ。あんた迷子?」
「みたいだ!」
 からからと笑う少年に、椛は呆れ顔だ。まあ仕方ない。
 彼は決断力のある方向音痴、神崎左門の様だし……大方、言葉通りに迷子になって今頃同級生が心配している事だろう。
 彼を忍たまの敷地に送っていけば数馬にも会えるだろうし……
「よし、私が忍たまの敷地内に案内してあげる」
「本当か!?助かるぞ」
 嬉しそうな少年に歩み寄り、私はまず頭を殴った。
「本当ですか?助かります。でしょ?」
「いったぁ〜……うう、助かります、です」
「ふふ。よくできました」
 殴った頭を擦れば、少年は目を輝かせて私を見上げる。
 ん?君はマゾだったのかい?
「姉ちゃんみたいだ!」
「まあ……姉ちゃんだし、ね」
 そう言えば数馬にお姉ちゃんって呼ばれたことない。
 私も多聞さんや蒼珠さんのことお父さんとかお母さんって呼んだことないけど……これはちょっとさみしい事に気づいてしまったぞ?
 まあ蒼珠さんの場合はお母さんの年ではないから呼びにくいのもあるし、多聞さんを今更お父さんって呼ぶのもなあ……どっちかって言うと師匠、って感じなんだよね。
「うーん……まあいいや。椛、私ちょっと行ってくるね」
「えー?」
「帰ったら甘えて良いよ。その前に数馬堪能してくるから」
「……それが嫌なのに」
 唇を尖らせる椛にくすりと笑いながら、私は椛に軽く手を振った。
「行ってきます」
 そう言って少年の手を取り、私は歩き出した。
 少年もそれに続いて慌てて歩き出す。
「なあ、姉ちゃんの名前は?」
「きゅんっ……じゃない。えっと、今野華織よ」
 思わず少年の姉ちゃん呼びに胸をときめかせて本音が口から飛び出たけど、私はちゃんと彼に名乗った。
「……うん、華織さんだな。覚えたぞ!」
「よしよし」
 思わず空いている手で撫でれば、少年は「えへへ」と照れたように笑った。
 なんだろう、この可愛さ!半端ないんだけど!!
「僕は神崎左門だ。左門と呼んでくれ!」
「左門と呼んでください、よ。一応先輩なんだから敬ってちょうだい」
「む、わかった」
「目上の人には敬語を忘れないで、丁寧な姿勢を見せると良いわ。忍たまにも頭の硬い人いるしね。そう言う人に気に入られておくと結構便利よ」
「へー……華織さんはすごいなあ!じゃなくて、すごいですね」
「ふふ。まあ無理はしなくてほどほどでいいわよ。そう会う事もないだろうし」
「なんでですか?」
「私がくのたまで、君が忍たまだから。敷地が違うでしょ?ほら、あの門と垣根が境界線」
「……そう言えば門を潜った気がする」
「それが原因だね。ちゃんと注意しておかないと、先生に怒られるから気を付けてね」
「はい!」
「うん、元気のいい返事だ」
 左門くんは撫でて撫でてと言うように頭を差し出してくる。
 本当可愛いな畜生!!
 私は左門くんの頭巾の下の髪をくしゃくしゃにする勢いで頭を撫でた。
「わわっ」
 流石にやりすぎたのかふらふらする左門くんは、「おお」とか「うお!?」とか言いながらどうにか態勢を戻す。
「えへへー」
「うふふ」
 にこにこと笑う左門くんに笑い返し、私は再び左門くんと手を繋いで忍たまの長屋の方へと向かった。
 生徒数の関係で長屋は学年が上がることに移動するらしく、一年生が使用する長屋は去年と同じ場所だろう。
 穴掘りの最中に、穴の中の居心地がよほどいいとその場で居眠りし出す喜八郎を何度長屋に送り、平くんに感謝された事か!
 中身ナルシストだけど可愛いんだよ平くん!根は真面目だし、上級生にだって意見できる度胸あるし。
 ……ナルシストな部分が本当邪魔をしてる。後空気読まないところ。だが、問題ない!可愛いから!!
「あ、左門!……と、えっと……ちわっす」
 左門くんを見つけて走り寄ってくる一年生の姿に私は足を止める。
 私の姿に気づいた彼は、びくびくしながらぺこりと頭を下げる。
 恐らくくのたまに会うのは初めてだろう彼はそわそわとしながら私と左門くんを見比べる。
「作兵衛、この人は華織さんだ。僕をここまで連れてきてくれたんだ」
「そうなんですか!?それはすいやせんでした。お手間を取らせて申し訳ありませんでした」
「ううん、平気よ。それより君はとてもしっかりしてるんだね。私は今野華織。くのいち教室の四年生よ」
「よ、四年生っ。通りで大人っぽい……あ、いえ、なんでもないです」
 かあっと頬に朱を差した男の子に私はニコリと微笑んだ。
「あ、失礼しやした。俺は富松作兵衛と言います。左門とは同室です」
「そうなんだ。よかったね左門くん。探してくれる友達がいて」
「はい!作兵衛は良い奴なんです」
「お、お前っ」
 更に頬を赤くする富松くんに私はくすくすと笑った。



⇒あとがき
 まずはろ組の二人から〜。
 迷子コンビどっちにしようかと思ったんですが、遠慮なく障子戸開けるのは左門だろ。と言う事で左門になりました。
 三之助はまた次回!はあ、本当なんで三年生以下って天使ちゃんたちなんだろう……目の保養目の保養。
20110426 カズイ
res

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