12.笹豆腐

「華織、相談があるの」
 神妙な顔で委員長が話の封を切った。
 なんだろうと思いながら、私は委員長が姿勢を正すのに合わせて姿勢を正した。
「何?どうかした?」
「これなんだけど……」
 すっと委員長が私の前に差し出してきたのは、現代で言うなら同人誌と言われる類に部類される本だ。
 ただしこれは写本で、元本は図書室の中でも奥に隠してあり、下級生に見られて困る部分は削除しているのが写本だ。
 下級生でも上級生の許可を貰えば読むことが出来、また上級生の中でも図書委員に許可を取れば削除した部分も掲載された写本を借りることが出来る。
 委員長が持っているのは当然下級生に見られて困る部分を削除したものであるが、私はこれの削除していない方を読破済みだ。
 一年生のうちにあっさり自分の趣味をバラしたことで上級生に気に入られ、時には写本を作成する手伝いだってしている優秀な図書委員なのだ!恐れ入ったか!!
 ……って、仕事の内容が仕事の内容だから同学年のくのたまにそれを明かしたことはないんだけどね。
「読んだことある?」
「あるけど、どうかした?」
「これを読んでどうしても言いたいことがあったの。でも誰にも言えなくて……」
 委員長はショタコン趣味を隠しているから私と違ってこう言う話をする人が少ないらしい。
 実家に帰ればお姉さんが同じような趣味を持ってるらしいけど、学校では図書委員の一つ上の先輩と私くらいらしい。
 椛はまだまだ勉強中だもんね。萌えが理解できないとか言いながら私が貸した本を読む姿がなんとも可愛い。
 たまに修正なしの方を見せて悲鳴を上げられた日には……なんか滾ったね!!
「この主人公って二年い組の久々知兵助に似ていない?」
「まあ確かに」
「そしてもってこの相手役の子、二年ろ組の竹谷八左ヱ門に似ていない!?」
「……委員長、顔が近い」
 怖い顔で迫ってきた委員長に思わず仰け反って逃げた。
 椛はちょうど委員会で部屋に居ないからいいけど、居たら居たで何か面倒な事が起こりそうな……
「華織……」
 ふと開いた障子戸に視線を向ければ、初江が身体を強張らせていた。
「お、お邪魔しましたぁ」
 そそそと戸を閉める初江に私たちは慌てて戸を開けた。
「ちょっと何か勘違いして逃げないで頂戴!」
「って言うか私襲われるより襲いたい!」
「華織は余計な事言わないで頂戴」
 委員長が怒鳴りながら、慌てて逃げようとした初江を捕まえて戻ってきた。
 初江は居心地が悪そうに委員長の隣に座り、そわそわと居心地が悪そうに視線を彷徨わせた。
「で、話を戻すけど……」
「初江居るけどいいの?」
「いいの。ここからは多分意味が分からないだろうから」
「ならいいけど」
「いいの!?私、急に部屋に戻りたくなったっ」
 泣きそうな表情を浮かべる初江の顔は嗜虐心をそそる顔だ。
 素でも演技でも同じ顔が出来る初江は、私なんかよりよっぽど色に関して素養ありだと思う。
 泣きぼくろがあるからって全員が全員エロい子だと思うなよ!私がエロいのは脳みその中だけだ!!
 しかも私自身じゃなくて忍たまたちがうっふんあっはんだし!!
「―――笹豆腐」
「……そんな話もあったね」
 恐ろしく目が座った様子の委員長に私は苦笑しながら答えた。
 確か去年だったか、久々知くんと竹谷くんの二人の事を話すときに笹豆腐と口にしたのが始まりだ。
 竹谷くんの竹がイコール笹で、久々知くんイコール豆腐小僧って理由で笹豆腐なんだけど、これは現代で同人誌を読み漁ったり動画を見漁ったりしていた私からすれば普通の感覚なんだけど、委員長は「暗号みたいでカッコいい!」と他にもCPトークで盛り上がった覚えがある。
「これって、笹豆腐じゃないのよ」
「うん、そうだね」
「本が笹豆腐じゃないのは普通でしょ?」
「初江、本の内容の話だから」
 首を傾げる初江にそう言えば、初江は恥ずかしそうに頬を染めて、両手でそれを隠した。
 初江、それ超可愛い!!
「笹豆腐的内容を期待していた私からすればなんてこと!!と……思ったんだけど」
「結局読んじゃった、と?」
「……そう」
 委員長が借りた本を最後まで読まなかったことはない。
 それが例え己の意に反した内容であっただろうと、だ。
「ねえ、熊井先生の作品でちゃんとした笹豆腐ない!?」
「無いことはないけど……これだってちゃんと意味的にはあってるよ?」
「そう?」
 訝しげに眉を寄せた委員長に私はくすりと笑った。
「笹豆腐の魅力だよ」
「……笹豆腐に魅力?」
「そう!笹豆腐を意訳すれば確かに笹、豆腐の順だろう!でも実際の笹豆腐の形はなんだ!」
「豆腐、笹……ほ、本当だわっ」
「つまりあの二人はどちらでもいけると言う事だ!!」
 久々知が受けだろうと竹谷が受けだろうと……って言うか読むだけなら私基本的にCPに拘りはない。なんでどんと来い!だ。
「笹豆腐と呼んでは居てもどちらかわからない……それが笹豆腐の魅力じゃないか!!」
「す、すばらしいわ華織!その調子で次回作は笹豆腐で……」
「あ、ごめん。最近喜八郎が恐ろしく懐いてくれてるからって自慢してたから仙綾になりそう」
「なにそれ物凄く見たい!」
「意味が分からないんだけど……委員長、すごく目が輝いてるわね」
「輝きもするわよ!くのいち教室の図書管理をしてらっしゃる熊井先生の書く小説は繊細で読み始めると読み終わるまで時間を忘れてしまうほどのめり込んじゃうのよ!!」
「へ、へえ……そんなにすごいんだ」
「まあ内容は初江には未知の世界だろうけど」
「私、本苦手だからなあ……」
「うん、そう言う意味じゃないんだけどね」
「?」
 首を傾げる初江に私はふふっと笑った。
 熊井先生の書く本はすべてBLにばかり焦点を当てている。
 だから熊井先生が本を出していると知っている生徒が少ないのも仕方のない事だと思う。
 たまに仕事ほっぽりだして執筆にのめり込むからシナ先生に怒られる時もあるけど、シナ先生だって熊井先生のファンなのでよっぽど詰まってる時は優しく手助けをしてあげている。
 ちなみに去年あたりから私の妄想交じりの忍たまトークがよっぽど気に入ったらしく、そこから更に話を膨らませた本が出回っている。
 特に今年人気なのは現二年生……特に双忍コンビだ。
 私が不破くんと距離を取っている所為で、八割以上妄想で固められた二人の姿が熊井先生の琴線に触れたらしい。
 多分、今一番多いのは双忍で、続いて笹豆腐、不運関係のCP……となっている。
 善法寺くんは、私が「委員長って善法寺くんと似てるんですよ」って話してから熊井先生の中で妄想しやすい忍たまになったらしい。
 ごめん、善法寺くん。でも萌えをありがとう。数馬が入学したら会いに行きがてら茶菓子を持っていく事にするよ。



⇒あとがき
 閑話休題。こうして来年に続く、と。
 展開早くてすいませーん……ってぐだぐだともう12話過ぎたんですね。早いものです。まだ雷蔵といちゃこらできていないなんて!←
20110426 カズイ
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