08.委員長の秘密

「私、ビスコイトを持ってくるわ」
 椛と二人を残して一旦教室へと上がると、私は椛が作ったビスコイトを入れたお皿を手に縁側に戻ると、尾浜くんが笑顔で迎えてくれた。
 うふふ、この顔が今から歪むのかと思うととっても心が弾む。
「はいどうぞ。作ったのは椛だけど」
「わあい!いただきまーす」
「……いただきます」
 遠慮なくビスコイトを手にした尾浜くんと違い、久々知くんは恐る恐ると言った様子でビスコイトを手に取った。
 食べていいんだろうか不安に思っている様子の久々知くんに手を貸してよかったと思いながら私は尾浜くんの反応を待った。
 尾浜くんは勢いよくビスコイトを口の中へと放り込むと、なんの疑いも持たずに噛み砕いた。
 そして数度噛み砕いた直後、小さな爆音が彼の口の中で響き、久々知くんは驚きのあまり手からビスコイトを落とした。
「残念。久々知の方は失敗ね」
「警戒心が強いんだもの、仕方ないわ」
 ぽかんと口を開いて久々知くんは私たちを交互に見つめる。
 尾浜くんは突然の事にまだげほげほとまだ咽ている。
「大丈夫よ久々知くん。ちゃんと調節してるし……」
 私はビスコイトと一緒にこっそりと持ってきた豆腐をすっと久々知くんの目の前に持ち出した。
 皆には何故トラップのために豆腐を用意するのだと不思議がられたけど、これは一種の賭けだ。
 私の知識には極稀に誤りがある。それは主に落乱と忍たまで得た知識に加えその二次創作やら三次創作やらの知識がが混在しているためどれが正しい情報なのかが確定できていないためだ。
 だけど目の前に豆腐を出された時の久々知くんの目の輝きを私は見逃さない。
 こいつガチで豆腐小僧だ!!
「ちゃんと冷やしてあげるわ、よっ!と」
 私は豆腐を鷲掴みすると、遠慮なく尾浜くんの顔に叩きつけた。
「た、たうふっ!!」
 久々知くんの悲鳴のような叫びに椛が目をすっと細め、眉根を顰めた。
 恐らく椛はまだ久々知くんの悲鳴の意味を理解していないんだろう。
「ちょっ、二段攻撃!?今野先輩酷いですっ」
 ぺっぺっと口の中に入った豆腐を吐き出す尾浜くんに久々知くんが「ああっ」と涙を浮かべ始める。
「か、勘ちゃん……ずるいっ」
「は?何言ってるんだよ兵助……」
「お、俺……俺が……たうふぅ」
 他にも遠くで上がり始めた悲鳴に皆順調そうだなあと呑気に考えつつ、尾浜くんにふらふらと泣きながら歩み寄る久々知くんに視線を戻した。
「あう、うえ……たうふぅぅぅ」
「ちょっ、へい……うわっ!?」
 突然抱きつかれた尾浜くんは、久々知くんの勢い+体重と言う重さを耐え切れずに後ろ向きに倒れる。
「えっぐ、ひっぐ……うわああああんっ」
 ぼろぼろ涙を流す久々知くんに抱きつかれ……と言うか、抱きつぶされている尾浜くんが「ぐえっ」と蛙が潰れたような悲鳴を上げる。
「ああああああ」
「やだなにこれ超面白いっ」
 久々知くんのあまりの泣きっぷりと尾浜くんの潰れ具合に胸がきゅんきゅんした。
 二段攻撃どころか結果的に三段攻撃くらいになってごめんね尾浜くん!でもおいしいもの見れた!!
「ちょっと華織、あんた何したらこうなるのよ」
 ターゲットを泣かし終わったのだろう委員長が私の背後から声を掛けてくる。
「私はちょっと豆腐を尾浜くんの顔に叩きつけただけよ。直接攻撃より精神攻撃の方がくるでしょ?」
 そう答えると、委員長が「まあそうだけど……」と言葉を濁らせ、久々知くんを見下ろして眉根を寄せる。
「お、おでのだうふ……」
 ぐずぐずと少しずつ収まってきたのだろう泣き声に私も久々知くんを見下ろす。
 さて、泣き虫な久々知くんは何をやらかしてくれるだろうとわくわくしてみていると、豆腐まみれの尾浜くんの頬に口を寄せた。
 なにこれキター!!!!!
「……華織、あんた狙った?」
「狙ってないけど、目が幸せっ」
 思わず両手を組んで、尾浜くんの顔に着いた豆腐をぺろぺろと勿体なさそうに食べる久々知くんを私は脳裏に必死に焼き付けた。
 畜生!どうしてこの時代のカメラは高価なものなんだ!!
「へ、いすけ……やめ……くすぐった……ひっ」
「ぶっ」
「……ぶ?」
 何か吹き出す音に私は隣に立っている委員長を見た。
 真っ赤な顔で口元を押さえ、ふるふると震えるその様はいつもの彼女らしからぬ仕草である。
「……委員長?」
「はっ!」
 どうやら呼びかけによって正気に返ったらしい委員長がいつものクールな表情を取り戻す。
 この反応、どこかで見覚えがあるぞ?
「委員長って、もしかしてショタ……」
「ああああああ!!!」
 いつもは冷静な委員長が突然大きな声を上げるものだから、ゆっくりと戻ってきたくのたまたちが不思議そうにこちらを見ていた。
 そうか、委員長はショタコンだったのか。
 通りで他の子たちの恋愛話に混ざらないと思ったら……
「……類は友を呼ぶ」
 ぽつりと椛が言った言葉に委員長ががくりと肩を落とした。隠してたかったのかな?
 でも私ずっと委員長はこっち側の人間じゃないかと思ってたんだよね!
 図書室で借りる本がなんだか私と趣味近かったし……彼女、確実にただのショタコンじゃない。私と同じBL好きだ!!!
「ああもういい加減にしろよ兵助!」
「わっ!?」
 ばっと尾浜くんが久々知くんを弾き飛ばした。
「俺、もうっ……うわあああああん!!」
「あ、たうふっ」
 泣きながら逃走した尾浜くんを久々知くんが追いかけた。
 この状況で最後まで豆腐とか何この子、超ウケるんですけど!!



⇒あとがき
 本人たちは一切その気ではないけど、どう見てもBLっぽい雰囲気を醸し出してるのが堪らなく好きです。
 どうぞ僕らで妄想してくださいって言ってるみたいで堪らない。
 しかも豆腐を顔に叩きつけられたらそれもう見た目ケフィアですからぁぁぁぁぁ!!!

 ……と言う妄想が私にやれと囁いたのでやっちゃいました。
 次、ようやくお待ちかねのぴかぴかの一年生☆雷蔵さん登場です。きゃっふぉー\(^o^)/
20110424 カズイ
res

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