07.郷愁

 ドラッグコーナーでキズパワーパッドを購入し、ペットふれあいイベントに寄って猫や兎やひよこと言った可愛らしい動物たちと戯れ、レストランで食事をした。
 子どもだからお子様ランチかなと思ってたけど、味覚は大人なのか二人で一つずつの定食を仲良く食べる姿はとても可愛らしかった。
 そんなお腹一杯なまま、私たちはショッピングモールの一角にある本屋に来ていた。
 この本屋は古本に文具にDVDにCDと少量のゲームコーナーまである意外に大きな本屋で、割とよく来ている。
「ふわあ……」
 目をきらきらとさせながら綺麗に表紙を並べる入ってすぐの新書コーナーを見上げる怪士丸くんに私は思わずくすりと笑う。
「気に入った?」
「沢山あるんですね」
「そうだね。でも図書館はもっと本があるわよ?」
「楽しみにしてます」
「うん、楽しみにしてて」
 よしよしと頭を撫でれば、怪士丸くんは少し俯き、赤くなった頬を両手でそっと押さえた。
「波留さん、あっちの方見てみたいですぅ」
「怪士丸くんはどうする?目当ての本はこの辺りだからまた後で寄るけど……」
「少し見てていいですか?」
「じゃあ僕一緒に居まぁす」
 新刊のコーナーの近くにあった動物の絵本が気になるらしい孫次郎くんがにこりと笑う。
 その目線はちらちらと動物の絵本に向かっている。
「じゃあ行こうか平太くん、伏木蔵くん」
「「はぁい」」
 レジのある中央の前に文具コーナーがあってその更に前が雑誌コーナー。レジを挟んで反対側がメディアコーナーになっている。
 店内の一番奥が漫画と古本のコーナーになっているけど、私が向かおうとしたのは雑誌のコーナーだから奥まで行く必要はない。
「私一人だとメニューが大体似たり寄ったりだからさ、何か食べたいのある?」
「食べたいものですか?」
「そう。料理本とか置いてあるから」
 そう言って料理本や雑誌が並ぶ一角を指差せば、伏木蔵くんがそれを覗き込み首を傾げる。
「見たことなぁい」
「……ボーロ?」
「ボーロとは違うかな。えーっとケーキとかクッキーとか、それはお菓子の雑誌だよ」
 ボーロって確か子ども向きのおやつの事よね?
 室町時代にもあったのかしら?……帰ってからちゃんと調べよう。
「見ても大丈夫ですか?」
「軽く中身を確認するのはいいよ。本を汚したり折ったり傷つけちゃだめだよ」
「「はぁい」」
 仲良く返事をした二人の頭を撫で、私は作り置き関係の料理本を探す。
 木曜日は休みだけど火曜日も水曜日も仕事だから四人のお昼ご飯に向きそうな料理を下調べしておこうと思う。
 怪士丸くんは図書館に行きたがってたし、お弁当にしておいた方が便利かな……
「あ、お豆腐……」
「といえばぁ?」
「久々知兵助先輩」
「だよねぇ」
 くすくすと笑う伏木蔵くんが手に持っている本は豆腐料理の本だ。
 経済的にもお腹の満腹度にも優しい豆腐と言う見出しがついているその本を見ながら上がった名前に首を傾げる。
 覚えのない名前だけど、もしかしたら昨日見たかもしれない。
「学校の先輩?」
「豆腐が好き過ぎて自分で豆腐作ったりしてる先輩ですぅ」
「そっか、それはえらいね」
「……えらい、ですかぁ?」
「うん。好きだからって作るなんてそう簡単な事じゃないでしょ?ましてや豆腐なんて私作れないよ」
 カッテージチーズなら作れるけど、豆腐ってどうやって作るんだっけ?
 確かにがりが必要だったわよね?
「情熱って時に凄いよね。伏木蔵くんたちはそう言うのないの?」
 きょとんとした顔になった伏木蔵くんは同じくきょとんとした顔の平太くんと顔を見合わせた。
「ないね」
「……うん」
 困ったように眉根を寄せる二人に、私は二人の近くで腰を下ろして二人の頭を撫でた。
「二人ともまだ10歳なんだからこれから見つければいいのよ。私が自分の好きな事に出会ったのも二人位の時だもの」
「「波留さんの好きな事?」」
「ま、出会えたと言うより出会わされたって言うのが正しい気もしなくもないけどね」
「「?」」
 思わず笑う私は再び立ち上がってお弁当向きの本を一冊手に取った。
「後でホームセンターに寄るからその時に教えてあげる」
 今は秘密よと口元に手を当て、「漫画のコーナーの方にも寄ってみる?」と二人に声を掛けた。
 こくりと控えめに頷いた平太くんと「はぁい」と返事をした伏木蔵くんを連れて私は漫画のコーナーに向かった。
 漫画と言えば原作が漫画だったはずだけど、ここにも置いてあるのかしら?
 漫画業界の中ではあまり出版物が多い版元ではないから手前に置いてあることはないけど、二人の視界に入れて良いものかちょっと悩む。
「なんか絵が多い……」
「まあそう言う本だからね。中も絵が多いよ。あっちの方がDVDとかのコーナーになってるけどあっちに行ってみる?」
「えっと……はい」
 平太くんはこくりと頷き、ちらりと名残惜しそうに漫画のコーナーを見ながら伏木蔵くんもこくりと頷く。
 よかった。避けてるってばれなくて……


   *    *    *


 本屋では雑誌とフリーライターが主人公の推理小説を購入し、今度はホームセンターへとやってきた。
 奥の方まで行けば木材があるのがここから見えて、平太くんは小さく「おおっ」と感嘆の声を上げる。
 うんよかった。
「ここでは何を買うんですかぁ?」
「うーんと、服を買うのに邪魔にならない程度に材料を買うよ」
「材料?」
 首を傾げる孫次郎くんに私はくすりと笑った。
「孫次郎くんと怪士丸くんには話してないけど、私には好きな事があるの」
「ここと関係あるんですか?」
「そう。奥の方に行ったらそれがあるよ」
「奥……」
 じっと四人はホームセンターの奥を見つめ首を傾げる。
「まあとにかく行ってみよう。四人とも刃物は大丈夫だよね?」
 忍者だし、手裏剣とかよりはまあ危なくないと思うけど。
「慣れてますぅ」
「苦無で」
「委員会で一杯苦無扱ってるんで……」
「刃物より毒虫の方が危険ですからぁ」
 うん、相変わらず個性あふれる返事でよろしい。
「って言うか孫次郎くん、刃物より怖い毒虫扱ってるの?すごいね」
「伊賀崎先輩が大好きですからぁ」
 ふふっと笑いながらどこか遠い目をする孫次郎くんに同情の目が集まる。
 そうか、そんなに多いんだね、毒虫。
 とりあえず行こうかと歩き出せば、四人はあっちへこっちへと視線を彷徨わせる。
 文具に日用雑貨に自転車、カー用品に寝具装飾。木材、建材に園芸用品とペット用品少々。
 専門店に比べたら品数がぐっと少なくなるけどそれでもいろんなものを一度に買い揃えたい時はホームセンターって便利だ。
「……木材?工作でもするんですかぁ?」
「惜しい!」
「惜しい……うーん」
 考えこむ四人にくすくすと笑いながら木材の中でもそう大きくない木材を取り扱う一角に足を踏み入れ、掌に載る程度の朴材[ほうざい]を手に取った。
「必要なのはこれだけ。道具はうちにあるからね」
「波留さんそろそろ教えてくださいよぉ」
「あ」
「あ?」
「どうしたの怪士丸」
「僕、わかったかもしれない」
「え〜?何々〜?」
 ちらりと不安そうな上目使いで怪士丸くんは小さな声で答えた。
「……木彫り、ですかぁ?」
「ビンゴ!怪士丸くん正解!!」
「!!」
 怪士丸くんは私の声に目を見開き、心底驚いた様子だった。
 当たると思わなかったのかな?
「あ、もしかしてビンゴの意味が分からなかった?」
「いえ……そんな口癖の先輩がいたので」
「へえ……流石忍たまと言うか……」
「えっと、くのたまですよ?」
「そう言う意味じゃなかったんだけど、そっか、くのたまかあ……女の子の忍者ってカッコいいよね」
「くのたまもくのいちもとーってもこわいんですよ〜?」
「敵にまわしちゃいけないんですぅ」
 楽しそうな伏木蔵くんと、顔色をより青くさせながら目尻に涙を浮かべる平太くんになんとなく納得はした。
 スリルなくらい怖いんだ、くのたまって。
「でもその先輩はすごく優しかったんです」
「そっか……」
 寂しそうに告げる怪士丸くんに早く元の世界に帰りたいのかなとは思ったけど、それを口にする事は無かった。



⇒あとがき
 補足、「ビンゴ!」は「もち!」と並ぶ隠の華ヒロインの口癖です。
 あんまり表だって使ってないですが、怪士丸の前でうっかり言ってそうだしいいかと言う事で。
 卒業後の二人の話は隠の華が落ち着くまで触れないようにと思いつつ……実はまだ何も考えてないだけって言う、ね。まあいつも通りですわ。
20110718 カズイ
res

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