05.怪士丸の迷い

「……可愛いっ」
 年が10歳なのだと聞いていたから半ズボンでも問題ないだろうと、伏木蔵くんと平太くんと孫次郎くんは半ズボンにして、すらっとしている怪士丸くんは長ズボンにしてみた。
 皆髪が長いので男の子っぽいと言うよりは中性的な装いを意識して買ってみたんだけど、思った以上に似合っていた。
 中々に見事な仕上がりに満足した私は今度は四人の髪を現代風―――髪が長いのでどうしても女の子っぽくなってしまうのはご愛嬌だ―――に整えて出発の準備は整った。
 靴は四人お揃いのクロックスで悪いけど、一先ずと考えれば上等だろう。
 色はお店の品ぞろえの関係で青が二足と緑が二足。四人は仲良く誰がどの靴を履くかを決め、結局孫次郎くんと平太くんが青、伏木蔵くんと怪士丸くんが緑と言う事で決まったらしい。
「さて、では買い物に行きますか」
「「「はーい」」」
「……はい」
 四人の頭を再び撫で、家を出た。
 出かける前にいくつか約束事をしたから、驚いて目を見開くことはあっても大きな声を上げない四人はとっても偉いと思う。
「波留さん、波留さん」
「何?」
 くんくんと駅へ向かって歩いている途中、孫次郎が私の袖を引いた。
 その反対の手が指差すのは犬を連れた男の子だ。
 犬と一緒に走っているらしくぺこっと会釈をするとそのまま走り去っていった。
「可愛かったです」
「孫次郎くん生き物好きなんだね」
「生物委員ですから」
 にこにこと機嫌の良さそうな孫次郎くんに帰りにペットショップにでも寄ろうかなとのんびり考えながら再び歩き出す。
 向かうのはどうせショッピングモールなのでペットショップも本屋もドラッグコーナーもある。
 生き物好きな孫次郎くんはペットショップが気に入るだろうし、私の部屋にある本に興味津々の怪士丸くんは本屋が気に入るだろう。
 今朝救急箱を手に目を輝かせていた伏木蔵くんも薬局が気に入るかもしれない。
「ねえ平太くん」
「はいぃ」
「用具委員ってどんなことしてるの?」
「えっとぉ……用具の管理とかぁ補修とかですぅ」
「そっか……じゃあホームセンターにも寄ろうか」
「ホームセンター……ですか?」
「そう。木材とか建材とか……えーっと、補修する道具とか?そう言うの扱ってるお店よ」
 平太くんは泣きそうに細めていた目を見開いて、私を見上げる。
「平太だけずる〜い」
「伏木蔵くんはドラッグコーナー……薬とか医療関係の用品を扱ってるお店ね。最近は色んな絆創膏あるのよね」
「色んなぁ?どんなだろ……すっごいスリル〜」
 にこにこと機嫌が良くなった伏木蔵くんに怪士丸くんが眉根を寄せる。
「どうかした?」
「あ、いえ……。えっと、本屋さんはありますか?」
 怪士丸くんは首を横に振り、そう尋ねてきた。
「あるわよ。ちょうど欲しい本もあるから寄りましょうね」
「僕も読めますか?」
「うーん……推理小説だから多分大丈夫じゃないかな」
「推理小説好きなんですか?」
「まあ今日お目当ての本はどっちかって言うと主人公の素性に関する一騒動が楽しくてね」
 くすりと笑えば、怪士丸くんは首を傾げた。
「もちろん内容もとっても楽しいわ。そうだ、こっちに長く居るようなら市立図書館の場所も教えてあげるわ。家からそう遠くないし、一人でもいけないことはないと思うわよ」
「本当ですか!?」
 図書館と言う言葉に怪士丸くんが結構食いついてきたのでびっくりしながらも笑って頷いた。
 きっと本が好きなんだろうなってすごく感じた。
「夏休みの時期だし、私が会社に行ってる間の時間つぶしにちょうど良いかもしれないわ」
「会社……お仕事って今日はお休みなんですよね?」
「そうよ。明日と明後日は出勤だけど、明々後日はちょうど会社自体が休みの予定だったからお休み。休みが不定期な所があるけど、しばらくレギュラーしかないし大丈夫でしょ」
「迷惑かけてすいません」
 旬となった怪士丸くんに私は首を横に振った。
「子どもは気にしなくていいのよ。ただちょっと退屈な時間があるだろうから、そう言う時間を潰すものもついでに見ちゃいましょ。荷物が多くなるようだったらあいつを呼び出して……」
 あ、駄目だ。呼び出せないんだっけ……
「……波留さん?」
 思わず足を止めてしまった心配そうに私を見上げる怪士丸くんにはっと我に帰れば、伏木蔵くんと孫次郎くんがぎゅうっと両サイドから私に抱きついてきた。
「伏木蔵くん、孫次郎くん……ごめんね、帰り荷物重たくなるようだったらがんばって持って帰ろうね」
「僕、頑張りますぅ」
「五人で分ければ一杯持てますよぉ」
 ふにゃりと笑う二人に釣られるように私は笑みを作り、しゃがんで二人の身体を抱きしめ返す。
「よし、頑張ろう!」
 きゃあと可愛い声を上げる二人から手を離し、私は二人と手を繋いだ。

  *  *  *

『怪士丸』
 こそっと矢羽音話しかけてきた平太に僕は三人の後姿を追いかけながらちらりと平太に視線を向ける。
『何?』
『忍の三禁』
 咎めるような視線に僕はドキリと跳ねた胸を押さえた。
 伏木蔵に同じことを言ったはずの自分が図星だと言うように動揺するなんて最悪だと思いながら俯けば、平太が僕の手を引いて歩き出す。
 これじゃあ何時もと逆だ。
『……別にいいんじゃないかな』
「え?」
 思わず素で答えてしまい、胸を押さえていた手で今度は口を押えた。
『僕も、同じだから』
 そう言った平太は明るい様子を見せる波留さんの背を見上げ、切なげに眉根を寄せた。
『泣きそうだった。伏木蔵と孫次郎の気持ち、わからなくないから』
『平太、それでも僕らは……』
『だから、別にいいんじゃないかなって。ここに居る間は』
 困ったように笑ってそう言った平太に僕は目を丸くした。
 まさか平太の口からそんな言葉が出るとは思ってもみなかった。
『僕らは10歳の子どもで、波留さんもそう思ってる。どうせこの年の差は無理でしょう?夢を見る時間だと思えば……いいんじゃないかな』
『平太に同感。って言うか、僕、波留さんのこと好きだったのか。そうかそうか』
 納得した様子でこくこく頷きながら会話に混ざってきた孫次郎は、波留さんに不思議そうに「どうかしたの?」と問われて「なんでもないですぅ」と笑顔で返していた。
 さっき伏木蔵と一緒にだって抱きついておいてまだ自覚してなかんだ。
 今朝の様子で何となく波留さんに好意を抱いたんじゃないかとは思ってたけど……自覚してなかったってっ。
『この気持ちが恋かそうかって言うのは僕は良くわからないけど、少なくとも僕は波留さんを守ってあげたいって思ったから、ここに居る間だけはね』
『……そうだね』
 ここに居る間だけでも、お世話になる分のお返しも兼ねて、波留さんの心を守ってあげよう。
 伏木蔵や孫次郎と違って僕も平太もこう言う事は疎いから良くわからないけど、それ位……良いですよね。斜堂先生、日向先生。
 僕はこの場に居ない先生たちを思い浮かべながら空を見上げた。



⇒あとがき
 あれま。久しぶりに書くと何を書くつもりだったのか忘れて話が短くなっちゃいました。
 うーん、でもここから先は一話辺りが短くなるかもしれません。指先が調子載ってくれればまた長くなるかも?
 とりあえず二日目はまだ続きますが髪はこのまま切らない方向で行きたいと思いますので、お買いものする服も中性的なお洋服を買うかと。
 イメージ画は着色してないのでアップ出来てませんが、近いうち色を塗ります。……多分。
20110223 カズイ
res

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