◆ピアノ狂想曲
「ねぇ、土浦くんってホモなの?」
扉を開けた瞬間、突拍子もなく聞いてきた同じコンクール参加者である飯島小春の言葉にその場がしんと静まり返り、俺は思わず聞き返す言葉を吐き出すまでに数秒の間を要することになった。
コンクール参加者昼休みに全員集合と言われて来たと言うのにいきなりなんなんだ。
「……お前今なんつった?」
「だからさ、土浦くんってホモなの?」
耳遠い?と嘲るように言う飯島に俺は額に思わず手をあてた。
「んでそうなるんだよ」
畜生、柚木先輩と金やんあたりからの同情の視線を感じるぜ。
「土浦ってそうだったの!?」
「違います!」
だから信じないで下さい火原先輩。
「って月森、お前は露骨に引くな!」
「……そうだな、すまない」
「目をそらすな!本気で謝るな!……大体なんでそんな話になるんだよ」
前半は月森に言って、後半は飯島に向けて叫ぶように言った。
「だってピアニストってユダヤ人かホモかダメなピアニストの三種類だけだって、この本に」
そう言いながら飯島は手に持っていた本の一節を指さした。
「……ホロビッツかよ」
ああ、そうだこんな言葉あったな。
柚木先輩も金やんもこれを知ってたんだろう。
だから同情の視線か、畜生!
月森はその言葉にようやく納得したと言う顔をしているし、日野と火原先輩は思いっきり首を傾げている。
冬海は冬海で怒鳴る俺が怖いのか日野の後ろでずっとおろおろしている。
志水は……言うまでもなくぼやっとしている。
「有名な一節って書いてあったからてっきりそうなんだと……」
「そうだったんですか?土浦先輩」
「真に受けるな志水!」
俺は火原先輩相手に否定したばっかだろ!?
いつものようにぼやっとしてるからてっきり話を聞いてないと思ったのに!
ああ、また冬海がびくっと思いっきり怯えてるし……いや、これはいい加減なれた。
「でもま、それを言ったら私もホモになっちゃうね。あ、いや、女だからレズかな」
同じピアニストである飯島―――うっかりしてたがこいつもピアニストだった―――は、あはは!と笑い飛ばし、手に持っていた本に視線を戻す。
だがその本はすっと金やんに取り上げられた。
「あー!」
「コンクールの話し合いで呼び出してんのにサボるなよ。俺もサボりたくなるだろ」
「えー?金やんがサボったら誰が話すのさー。コンクール担当の癖にー」
ぶーぶーと頬を膨らませる飯島に金やんはいつものようにだるそうに言葉をつづけた。
「だからちゃんと話をしようとしてるんだ。頼むから一回で聞いてくれ」
みんな揃ったんだから。
金やんのひどく面倒くさそうな声に「はーい」と飯島は馬鹿っぽく適当に返事をした。
おい、誰か教えてくれ。
なんでこいつが音楽科一のピアニストでコンクール総合優勝が目に見えてるの天才少女なんだ?天災少女の間違いだろう?
俺と同じ年なのにコンクールでいい音出してたこいつに憧れてたってのに……ああ、認めたくねぇ!!
思わずそう思った第四セレクション直前の昼休み。
⇒あとがき
突発的に『富士見二丁目交響楽団シリーズ』読んでたら懐かしのホロビッツの言葉を見つけたので引用しました。
『半神』って言う舞台でホロビッツが出てきたんで調べたことありましたんで、これで三度目だったのですが、いい具合に土浦ピアニストじゃんと思いだして書いてみたらあっさり完成しました。
本当は夢主を日野にしてただの二次創作にしようかと思ったのですが、夢が少ないので夢にしてみました。←いい加減な!
このテンション書いてて楽しかったですけど。タイトルは適当ですし(笑)
20080524 カズイ