◆ストロベリー
放課後の教室、開け放された窓の外を見つめる少女が一人居た。
窓の外を見つめているといっても、何かを見ているわけではない。
ぼんやりとではなく、少し上の空を熱心にずっと見上げているのだった。
大人びた少女の顔には夕陽のオレンジ色の光が当たり、一層神秘的に彼女を美しく引き立てている。
風にカーテンが強く棚引き、金澤はようやくはっと現実に引き戻された。
「あれ、金やんだ」
振り返った彼女は大人びた顔からいつもの表情へと戻った。
それにどこかほっとしたのは気のせいではないだろう。
「何してるんだ?飯島」
「外見てたんですよ」
「何か見えるのか?」
「生徒」
外を指差され、窓へと近寄る。
窓の外、確かに下校する生徒や、練習をする音楽科の生徒や部活生の姿が見えた。
だがそれも夕陽が赤く染まる時間とあって少ないものだった。
「楽しいかぁ?」
「金やんこそ、煙草吸ったり猫とじゃれたりして楽しい?」
「楽しいぞ」
「私は煙草は特に嫌いだからさ。全然楽しくないよ」
「まぁ好みは人それぞれだからな」
「そういうこと」
そう言うと再び足元を見下ろす。
「見てるだけで創作意欲がわく」
薄く微笑む少女は突然金澤の胸倉を掴んだ。
甘酸っぱい味。
(苺?)
「金やんも」
突然のことに思考がついていけなくなっている金澤に構わず、少女は近くのカーテンを引っ張り、風に靡くそれを背に見せ、擦り寄った。
「言葉にはしないよ」
少女が女に変わる、一瞬。
おっかなびっくり。
「卒業するまではとっておくから」
何も言わない俺から離れ、カーテンの奥の窓を閉じる。
「今は生徒だから、帰るね」
そしてひらひらと手を振りながら教室を出て行った。
彼女が座ったまま戻されなかった椅子にどかりと座り込む。
「ヤバイだろ」
机に左肘をつき、口元を抑えた。
随分と久方ぶりに顔に血が昇る感覚に金澤は目を伏せた。
ソノ想イ昔懐カシ甘酸ッパシキ。
⇒あとがき
……突然金やんネタがっ!!
苺の甘酸っぱさとキャンディーの味が使われています。
というわけでタイトルストロベリー。
ちょっと大人っぽい雰囲気を作ろうとして失敗したような感じ(汗)
20050201 カズイ
20080328 加筆修正