◆一人の夜
お父さんは出張。
お母さんは旅行。
とくれば、姉さんは私に言い訳を頼んで彼氏の家にレッツゴー。
そして私は一人ソファに膝を抱えて座り、映画鑑賞。
ちなみに明日が返却期限。
机の上にはポテトチップス。 なんてメジャーな装備でしょう(笑)
ちなみに夕食はいつも家事の手伝いしてたからちょちょいのちょいで作ってさっさと食べちゃったよ。
確か帰ってきてすぐに作って、食べて……30分くらいテレビ見てたけど、つまんなくなってお風呂に入った。
今の格好はオレンジ色のぴったりとしたプリントTシャツに黒い一部丈のパンツ。
お風呂上りって言うのと、暖房がきいて寒くないって言う理由でこんな格好。
髪は一応ドライヤーで乾かしたけど、まだ少し湿気てる。
って、そんなことはどうでもいいよね。
私が今見ている映画は、全世界で有名ななんとか映画祭のグランプリ?優勝?よくわかんないけど、を取ったとかでニュースで話題にもなった映画。
ヒロイン役を演じているのは正体不明の謎が多いことが売りの東洋人女優。
名前だけ聞けば中国人なんだけど、なんか日本人っぽい気もするし……ってこれもどうでもいい。
ヒロインは美人な超能力者。
小さい頃にある少年に恋をするけれど、ヒロインの能力を知り、気味悪がって振ってしまう。
それがトラウマになったヒロインは自分を偽って暮らすようになる。
そんなヒロインの前に突然現れたのはちょっと目を引く謎のソングライター。
実はFBIの潜入捜査官だった。びっくりだよ。
ヒロインの超能力に気づき、捜査に協力してもらうようになる。
そうして二人は様々な事件に巻き込まれながらも結ばれていくという話。
なんかね、相手役がね……柚木先輩にそっくり。性格が。
ヒロインが私にそっくりなんていいませんよ。
……くじけてもすぐに立ち上がるところとかは私にそっくりかもしれないけど。
どうしよう……めちゃくちゃシンクロして涙が止まんないよ〜。
―――トゥルル……
ぎゃ〜こんなとき(エンディングテロップ中)に電話!?
でも出ないと不味いよね。
お母さんとかからだったらお姉ちゃんの居ない言い訳しないと不味いもんね。
慌てて親機の元に走る。
ちなみに子機はこの部屋になり。
私の部屋だよ!
「はい、日野です」
『……泣いてる?』
少し心配そうだけど、やっぱりどこか黒い声。
これは……
「ゆ、柚木先輩!?」
『どうして泣いてるのかな?』
「あ、っと……その」
言えない。
私とヒロインを重ねてシンクロして泣いていたなんて。
しかも同情という涙。
相手役が二重人格だなんて……ねぇ?
『俺が質問してるのに答えないなんて……わかってるよね?』
何する気ですか!?
「そ、その、映画に感動したんですよ!」
あながち間違ってない。
詳細を……涙の意味を言っていないだけ。
『そう。ならいいけど、冬海さんに聞いたよ?今日、一人なんだって?』
「あ、はい」
今日は久しぶりに柚木先輩の送迎を断って先に帰っちゃったんだよねぇ。
スーパーに寄りたかったし。
そう言えば理由は言ってないや。用事があるとしか。
『言ってくれればよかったのに』
「え?」
『そしたらうちに呼んで散々いじめてあげたのに』
うわ、電話の向こう側に腹黒いものをたんまり抱えつつ、なんでもないというような白い笑顔で微笑む柚木先輩が見える。
「いえ!そんな迷惑かけられませんから」
『遠慮しないでいいのに……。ま、その代わり、明日ね』
こわっ!
明日なんて来なければいいのにっ。
『返事は?』
「う……」
『返事』
「……はい」
『いい子だね』
取り合えずご機嫌は取れたようだ。
セーフ。
『じゃあ、また明日。……お休み、小春』
甘い囁き。
ど、ど、ど、どうしよう!?
何気ない言葉なのに。
たいした台詞じゃないのに!
どうしてこうも胸が一杯になるんだろう。
テレビの音とツーツーと音のなる受話器の音以外ない寂しい家。
寂しさを紛らわすための映画はもう必要ない。
先輩の声を思い出し、私は一人の夜を胸一杯のまま満喫するのだろう。
明日の恐怖はすっかり忘れて。
⇒あとがき
乙女ゲーって囁きがたまらなくいい人がいますよね。
柚木先輩はそんな一人だと思います。
プレイ中背中ゾクゾクでしたから、私。
20040925 カズイ
20070407 加筆修正