◆万華鏡

 ほんの少し角度を変える。
 ただそれだけで違う姿を見せる。
 だけどいつも綺麗。
 それはまるであなたのようです。
 そう思うのは、私だけでしょうか?




「おい、なにぼーっとしてるんだ」
 私の前でだけ見せてくれる、通称黒柚木。
 って、私しか知らないから私の心の中の話だけどね。
 その柚木先輩がむっとした表情で私を睨んでいる。
 はて、なにかしただろうか。
「ちょっと考え事を……」
「考え事?俺がせっかく練習に付き合ってやってやるって言うのに」
「はぁ……」
 "別に頼んでませんが"とは口が裂けても言えない。
 にっこり猫かぶりの笑顔で笑っていても、口調はしっかり本性丸出し。
 それが私の前でだけと言うのがうれしくて、よくうぬぼれてしまう。

「で、なに考えてたんだよ」
「あー……怒りません?」
「話による」
「じゃあ話しません」
 怒りそうだ。
「話せよ」
 ……もう怒ってるよ。
 私が諦めるしかないね。
「万華鏡に似てると思ってたんです」
「主語がない」
「……柚木先輩が」
「は?」
 主語を付け足すと、柚木先輩は虚を付かれたように目を見開いた。
 こんな柚木先輩を見るのは、私が柚木先輩の本性を知ったとき以来のはず。
 アレ以来、私が報復に出ることはなくなった。
 他の女の子たちと違ってかまわれているだけでささやかな幸せを感じていたから。
 いじられようがなんだろうか何も言わなかった。
 まぁ、最低限飽きられないようには努力してるけどね。
「俺が、万華鏡に?」
「あれって綺麗ですよね」
 内向きに巻かれた三角形の鏡に反射して、奥にあるビーズが沢山在るように見せてとっても綺麗。
「まぁ、確かにな。だけどなんでそれと俺が似てるんだ?」
「……何度回しても同じモノは見えないんです」
 どうやら怒らずに話を聞いてくれるらしい。
 先輩に向けていた視線を練習室の窓の外に向けた。
「だから逆に誰も綺麗じゃないって思わないんです。どの角度から見ても綺麗だから」
 再び柚木先輩に視線を戻す。
「でも、蓋を開ければただの鏡と筒とビーズじゃないですか」
 最初仕掛けを知ったときは吃驚した。
 こんなものであんなに綺麗なものが見えていたなんて!
 本当に吃驚したんだよ。
「……そんなところが柚木先輩に似てると思ったんです」

「俺にはお前の考えは理解できそうにないな」
 突然ため息をついて先輩が言う。
 私にしては上手くまとめて言えたと思ったんだけどなぁ。
 もっと明確な言葉にしないとダメなのかなぁ。
「結局言いたかったのはですね、先輩はどんなに外面ってあ、ごめんなさい」
 睨まれちった。
「えっと皆に好かれるようにしていても、私の前だとありのままでいてくれるじゃないですか。そこが蓋を開けたときで、意地悪で、真っ黒黒〜な感じでも柚木先輩は柚木先輩で、まわりが外面に惑わされて気づかないだけで……、ふえ?」
 目の前は音楽科の制服。
 って、あれ?
「ゆ、柚木先輩?」
 私、抱きしめられてる!?
「小春……お前少し黙ってろ」
「う、はい」

 あ、先輩の鼓動……

 メトロノームがリズムを刻むように。
 とくりとくり。
 ほんの少し速いペース。
 柚木先輩、怒ってないや。
 よかった。
 私は目を伏せて、柚木先輩に縋った。
(好きです、先輩)
 決して言葉にはできない言葉を胸の中で呟いた。
 万華鏡の同じ姿を探すよりは簡単だろうけど、届かないと悲しいから。
 だから私は胸の中に秘めます。
 あなたへの想いを―――。



⇒あとがき
 修正前よりはわかりやすくなったはず!
 最後の方とか夢主が思ってるだけできっと柚木は落ち始めてるぞ☆
 以上、意味不明なのははたして柚木か夢主かわかんねぇ話終わり。
20031228 カズイ
20070412 加筆修正
res

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