◆スタートライン

 正直さっきから視線がウザイ。
 周りのやつらは皆、俺よりでかい。
 しかも男女関係なくだ。
 ……いや、俺が若すぎるだけだ。断じて俺が小さいと言う意味ではない。
 くそ……こうなったのも全部寝ションベン桃の所為だ。

―――ひょこ

「!?」
 机を挟んだ俺の正面に突然現れたその女はにぃっと笑った。
「なぁなぁ、あんた日番谷冬獅郎っち言うん?」
 変なイントネーションが彼女の口をついて出る。
 関西弁ってヤツだな。よく知らねぇけど。
「だったらなんだよ」
「皆陰のほうでこそこそ言うてるから、うちは堂々と聞いてみようって思うただけや」
 へらっと笑うそいつに、明らかに侮蔑の含まれた視線が向かっている。
 馬鹿だとでも判断しているんだろう。
 ていうか俺もこいつは馬鹿だと判断した。
「せや!うちは飯島小春。うちのことは呼び捨てでええから、うちも君のこと呼び捨てにしてええ?」
「別に」
「さよか。ほんならよろしゅうな、冬獅郎」
「そっちでかよ!」
 てっきり苗字で呼ぶのかと思ってたら名前で呼びやがった。
「なんや、今更ダメや言うても遅いで」
「んなのどうでもいい。けどな、呼び捨てにするって言ったら普通苗字だろ」
「そんな常識どうでもええやん。うちは気に入ったら名前呼びって決め取るんよ。せやからどうせすぐ呼ばんくなる苗字で呼んだかてしゃぁないやん」
 経験談やでと飯島はけらけら笑う。
 本当、コイツ馬鹿じゃねぇの?
「隣ええ?」
「好きにしろ」
「ほな座らせてもらうで」
 ひょいっと机を飛び越え、俺の隣に滑り込む。
 身軽だ。
 ってかてめぇは猿か!

「なぁ、やっぱ冬獅郎も護廷十三隊希望なん?」
「ああ」
 桃のヤツ五番隊の隊長に助けられてからずっと五番隊に入る入る言って本当に入りやがったからな。
「どこの隊希望してるん?」
「別に。どこでもいい」
 当面の予定は上り詰めて桃の邪魔をしてやること。
 別にそれ以外で死神になろうと思った理由はない。
「せやったら十番隊やな」
「は?」
「予感がすんねん。うちと冬獅郎、絶対同じところや♪」
「んな訳ねぇだろ」
 お前絶対このクラスに居ること自体奇跡なんだろ?
 思わずそう思っていたが、自信満々のコイツと俺が同点の主席で入学したという事実を知るのはそれから数時間後のことだった。

  *  *  *

「冬獅郎、なにぼーっとしとるん?」
―――ドサッ
「小春に関係ねぇこと」
 出会った頃を思い出してたなんて絶対に言ってやらねぇ。
「つーかこれはなんだ」
 ドサッと音を立てた山積みの書類。
 俺はそれを指差しなが小春を睨んだ。
「本当やったら冬獅郎がやるはずの十番隊の仕事。後は判子押せばええだけに纏めて持ってきたから安心し。……にしても、松本副隊長よう寝てるわ」
 気配を消して現れた上に小声で話してるお前が言うことか?
 俺だって気にしなきゃそのまま寝てら。

「小春」
「なんや冬獅郎」
「山本総隊長からお前を五番隊の後任隊長にって話あがってんだけど」
「いやや」
 どうする?と続けるよりも早く小春が拒否の言葉を口にした。
「んでだよ。別に悪い話じゃねぇし、無茶な話でもねぇだろ」
 実力だけでいやぁ、副隊長レベルでちゃんと通る上に、俺と一緒に卍解の修行して習得してんじゃねぇか。
 ちゃんとお前に隊長になれる資格くらいあるっつの。
 俺が唯一認めたライバルでもあるんだからな。
「うちは冬獅郎とずうっと一緒におるって決めたんや。せやから冬獅郎のおらんとこなんか行きたないねん」
 ぷいっと小春はそっぽ向く。
「小春、お前それって……」
「続きは言わんといて」
 小春の白い肌が鮮やかな赤に染まっている。
 耳まで赤くなってねぇか?
「副隊長が起きたら言い訳できんくなるやん」
 更に小さな声の言葉に、俺は声を殺しながら笑った。
「と、冬獅郎、何がおかしいんや」
 泣きそうになっている小春の腕を引っ張り、軽く唇を掠め取ってやった。
「こう言う意味で、ちょっとな」
 にやっと笑うと、小春は目を見開いた。
「なっ……。冬獅郎は雛森副隊長のことが好きやっ……っと」
 慌てて小春は口を抑え、松本がおきていないことを確認して、

「好きやったんとちゃうの?」

 と小声で聞きなおしてきた。
「馬鹿か。あいつは俺にとって姉みたいなもんだよ。まぁ、出来が悪すぎるがな」
 鼻で笑うと、小春はぽかーんと口をアホのように開けた。
「なんやの、嫉妬してた自分がアホらしいわ」
「ほー……嫉妬してたのか。雛森に」
「うっ」
 墓穴を掘ったとばかりに、小春は顔をしかめた。
「ま、そういうのは大歓迎だけどな」
「さ、さらっと言うなや!」
 顔を真っ赤にしながら小春は声を荒げた。

 慌てて再び口を両手で塞ぐも虚しく、松本がソファーから起き上がった。
「起きたか、松本」
「……隊長、飯島……何してんです?あたしの部屋で?」
「バカヤロウ。執務室はお前の部屋じゃねぇ。起きたんならさっさと代われ。俺はもう疲れた」
「はいはーい、うちも疲れた」
「お前は何をした」
「だから冬獅郎の仕事片付けてたって言うたやん!」
 ぷうっと頬を膨らませる小春。
 ……ドサクサに誤魔化す気だな。こいつ。
「隊長が五番隊の引継ぎ業務引き受けてくるからでしょ」
「うるさい。とっととコレ持って自分の机につけ」
「……!……もうこれだけなんですか!?あんなにあったのに……」
「うるせぇつってんだ。さっさとやれ!」
「えーっと、うちはこの辺で失礼します。自分の仕事残ってるし」
 そう言った後ぺこりと頭を下げ、小春は執務室を出て行った。
 おそらくは松本に気を使ってのことだ。松本は気づいてねぇけどな。
 俺となんかあったのだろうかと顔に書いてある。
 ……ったくこいつは。

「……あたし……随分眠ってたみたいですね……」
「……構わん。同期と後輩があんなモメ方すりゃお前もそれなりにキツかったろう」
「……同期……か……。……ねえ隊長。隊長は本当に……ギン……市丸隊長のことを……」

―――ガラガラバシーンッ!!

「「!?」」
 突然の音に入り口を見ると、やけに慌てた顔の小春が立っていた。
 つか戻ってくるの早すぎだろう。
 今度は何があったと言うんだ。
「冬獅郎大変や!」
「何があった」
「各牢番からの報告で阿散井副隊長、雛森副隊長、吉良副隊長の三人が牢からおらんくなっとるって……!」
 小春の顔にいつもの笑顔はない。
 余裕ないな。
 まぁ、これだけおかしなことが立て続けに起こってりゃしょうがねぇな。
「……行くぞ、松本」
「はい」
「冬獅郎、うちも……」
「お前は残れ」
「いやや」
「残れ!……隊長、副隊長両名が居なくなるんだ。副隊長補佐のお前くらい残していかなきゃまずいだろうが」
「……わか……わかりました」
 小春はきゅっと口を横に結んだ。
 納得はしてねぇ、か。
「すぐ戻る」
 変わりにそれだけ言葉を残して執務室を後にした。

「……隊長」
「なんだ松本」
「飯島となんかありました?あたしが寝てる間に」
「気のせいだろ」
 俺たちはただ、ようやくスタートラインに立っただけなのだから。



⇒あとがき
 日番谷くん大好きです。乱菊さんも好きです。
 ってなわけで微妙に原作に絡ませてみました(笑)
 そして私にしてはすごく珍しい関西弁ヒロインです。
 言葉おかしかったらどうしようとかなりドキドキしながら打ちました。
20050829 カズイ
20070813 加筆修正
res

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