◆愛の挨拶
ふいに屋上から流れてきたそのメロディに思わず笑みが零れた。
「小春先輩?」
隣に居た桂一くんが不思議そうに私を見つめる。
あまり変わらない高さの視線だけど、きっとこれから私を追い越して高くなるだろう視線に、私は自分の視線を動かす。
「桂一くんはヴァイオリン・ロマンスって知ってる?」
「一応、聞いたことはありますけど……」
「ヴァイオリン・ロマンス。香穂子が二代目だね」
「?」
不思議そうに桂一くんは私を見つめている。
彼は総合入賞を逃したものの、最終セレクションでは三位という成績を残した。
いつものように眠たそうなぼんやりとした表情はとてもそんな風には見えないけど。
「ほら、走ってるよ。月森くん」
「え?」
珍しく慌てた様な顔をして、香穂子と同じヴァイオリン奏者の彼は校舎に向かって走っている。
そんな彼を呼び止めようとしていたのは報道部の少女だ。
逃げられてしまい、仕方ないと言った風にため息を吐くと今度は私たちの方に気づく。
「報道部です。今回のコンクール参加で総合優勝した日野香穂子さんについてコメントもらえますか?」
駆け寄って来た菜美は私たちにマイクを向ける。
「ヴァイオリン・ロマンス叶ってよかったね。ってだけよ」
くすくすと笑い私はそう答えた。
「それじゃ記事にならないわよ」
「そんなに記事にしたいなら帰り際の二人に質問をたっぷりぶつければ?」
「それもそうね。で、志水くんは?」
「……日野先輩らしい音でしたね。コンクール期間中にどんどんうまくなって……びっくりしました」
「じゃあ、あんまり関係ないんだけど、二人はヴァイオリン・ロマンスについてどう思う?」
「素敵なことだと思うわ」
「あんまり興味ないです。僕には小春先輩がいれば……。ね、小春先輩」
「ありがとう、桂一くん」
きゅっと手を握り締め、柔らかく微笑む桂一くんにつられて私も微笑んだ。
「……ってわけだから帰るね。また明日、菜美」
「はいはい。バカップルはさっさと帰って結構ですよ。しょうがないから他の人にちゃんとしたコメントもらうわ」
「そうしなさい。じゃあね」
再び聞こえ始めた幸せな愛の挨拶を聞きながら、私たちは手をつないで歩いて帰った。
⇒あとがき
再びコルダネタ。
コルダ萌え中。
20040924 カズイ
20090713 加筆修正