◆紫陽花

 凛とした顔立ち、水色の涼やかな着物。
 ぴんと伸ばされた背に見ている方も背を伸ばすような女性が柚木家の門をくぐった。
 彼女―――小春さんがこの家に通うのは週に二度。華道の稽古のときだけだ。
 だがこうして時折別の用事で訪れたりするくらいには柚木家と交流があった。
 ふと目が合うと、少し目を伏せ口元に小さく笑みを浮かべて首を縦に動かした。
「こんにちは」
 小春さんのほうが俺より四つばかり年上で、高校に入学したばかりの俺と違い、短大の二年目だ。
「こんにちは。祖母に用事ですか?」
 いつもの猫を被った姿で、小春さんに声をかける。
「いえ、今日は梓馬くんに」
 思わず驚いて黙り込んでしまった俺を見て小春さんはくすくすと笑った。
 その反応に少しむっと来たが、表情に出さず、首をかしげて問い返した。
「僕に、ですか?」
「入学祝、あげてすぐだったから、何にしようかと迷ったんですけどね」
 どういう意味だろうと考えていると、小春さんは手に持っていた巾着を開け包装紙にくるまれた正方形の何かを取り出して俺に渡す。
 その包装紙はどこかのお店の、というわけではない。
 おそらく小春さん自身が包装したのだろう。
 バイトでそういう事を習ったことがあると話していたことを思い出した。
 大きさは巾着に入るくらいなので、手のひらサイズ。
 中身は軽く、少し動かすとカサカサと音がした。
「これは?」
「手作りで申し訳ないんだけどけど、誕生日プレゼントです」
「あぁ……」
 そういえば、今日は誕生日だったと思い出した。
 休日と誕生日が重なっていたから忘れていた。
「開けてみても?」
「ええ」
 恥ずかしそうに頬を押さえた小春さんに許可を取って、丁寧に包装紙を開いていく。
 透明な箱が見え、最後の一箇所に手をかけて開く。
 箱の中にあったのはビーズで編みこまれた紫陽花だった。それも今小春さんが着ている着物と同色の青い紫陽花。
 ここまで小さくて手の込んだものをよく作れるものだと感心したようにそれを見つめた。
「あんまりお金かかってなくてごめんなさいね。ビーズ細工がマイブームなの」
「いえ、とっても綺麗です」
 貴方と同じで。
 その言葉は仕舞っておこう。
 もう少し、貴方の身長を追い越せるまで。



⇒あとがき
 姫条か、柚木かで迷いました。結局、クリアしたことのない姫条を避け、柚木に決定。
 ……うーん。微妙テイスト。
 柚木の身長はは高校で伸びたものとして書いてます。夢主自体の身長も170cm弱と高めの設定で、お願いします。
20040617 カズイ
20090713 加筆修正
res

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -