◆からまる

 それは本当偶然で、ちょっとした……そう、軽い気持ちだったんだ。

  *  *  *

 私の名前は小春。苗字はまぁ置いておこう。あんまり好きではないしね。
 私の家は世間一般で言ういわゆる金持ちと言うヤツだ。しかも成金ではなくて三代続く老舗企業の本家のお家柄。
 そのおかげで高校生にして自由気ままな一人暮らしが認められている。
 まぁそれも置いておいて。
 長男でもなければ長女でもない私には家の相続云々は正直どうでもいい問題な訳で、今後は適当にいい人をみつけて、その人と結婚して、まぁ子どもの一人や二人生んでおいて、老後の心配しながらまったり生きるだろうとでも考えている。
 女が社会でデカイ顔できる時代ではあるけれど、生憎私には社会でバリバリ働いてやる!なんて意気込みはない。
 親が稼いだものではあるけど、お金あるしね。
 まぁ、アルバイトとかパートくらいなら暇つぶしにやってもいいかなぁなんて思っているけど、いわゆる適当に生きたいこの時代の典型的な逃避人間の一人なわけなのよ。
 そんな私がどういう訳か出会ったのが彼だった。



 出会ったのは三日前。
 文化祭が近いために遅くなってしまった学校の帰り道、道端で倒れている彼を発見した。
 私も鬼じゃない。倒れている人は放ってはいけないという道徳的な精神の元、近づいた。
 とりあえず生存確認して、生きてたら救急車。死んでたら警察でも呼んでやるかとでも考えつつね。
 だけど近づいた瞬間、私はその考えをすぐ取り消した。
 どっちも呼んだらまずいと気付いてしまったからだ。

 星が見えないくらい明るく照らされた道に倒れていたのは男だった。
 服装ははっきり言ってコスプレじみていた。
 ゴスロリとかパンク系だとかそう言うのならそんなことは言わないけれど、彼はまさしくコスプレだと思わずにはいられない格好をしていた。
 ご近所さんにして親友にして悪友の、今巷で大人気(?)な腐女子の友人に勧められて暇つぶしに見ているアニメに出てきた男だったのだ、彼は。
 始めはえらく力の入ったコスプレか?と現実逃避してみたけど、コスプレにしてはちょっとそれらしすぎた。
 いわゆる……そう、逆トリップ!あれな感じに見えたわけよ。
 私は恐る恐る彼の肩に手を伸ばした。

「もしもーし?」

 軽くとんとんと叩くと、彼はぴくっと反応を示し、ゆっくりと起き上がる。
「っ……ここは……」
 掠れた声に背筋にぞくっと何かが走る。
 やたら色っぽい声で言われて思わず一瞬思考が飛びかけたけど、いかんいかんと彼の質問に答えるべく口を開いた。
「道端」
 首を動かしつつ、辺りに視線を巡らせる。
「夜、なのかい?」
「一応ね」
 不思議そうに街頭の明かりをじっと見つめている彼に私は手を伸ばした。
 彼は笑みを浮かべて一人で立ち上がった。
 どうやら私の手は不要だったらしい。
 というか、警戒されてるのか……ま、いいけどね。
「来る?」
 じっと私の服を見ていた彼は、私の言葉にしばらく考える様子を見せる。
「別に取って食いはしないわよ?ほら言うじゃない、据え膳食わぬは男の恥って」
「お前さん女だろう?」
 そんな言葉知らないけどさ。と彼は言う。
「その辺りはなが〜す♪」
「流すのかい」
「そ。後、私の名前は小春よ。あなたは?」
「……諸葛瑾」
 ビンゴ。
 やーっぱりあいつの大好物……じゃなくて大好きな鋼鉄三国志の諸葛瑾なわけね。
「ここはやっぱりあの句を読むべきかしら」
 ふふっと笑う私に諸葛瑾は眉間に皺を寄せた。
「『籠もよ、み籠持ち この丘に菜摘ます児 家聞かな、告らさね 我にこそは告らめ 家をも名をも』」
「……は?」
「知ってたかい?自分の名前を相手に告げるってさ、昔は相手に心を許すって言うのと同じ意味だったって」
 ここでヤツがいようものならキャーキャー騒ぎ出すところだけど……ネタわかんなきゃ意味ないよねー……
 って……あるぇ?
「っ」
 諸葛瑾の顔が一気に朱に染まった。
 おやおや、くどき文句にはお慣れでなかったと……
「お、お前さん何を言ってるんだい!」
「とっても乙女な反応ありがとう。ちょっとからかった」
「!!」
 やだ、癖になりそうじゃない。この反応具合v
 それにしても諸葛瑾ってこんなキャラだっけ?
 ……ま、いっか。
「うち、すぐそこだから。着いてくるならどうぞ」
 ここに居場所なんてないだろうけど。
 言外にいい含みつつ、私は諸葛瑾に背を向けた。
 彼は少し悩んだみたいだけど、結局すぐに私の後を追いかけてきた。

 建物をあれこれ不思議そうに見て歩く彼にふと思った。
「防犯カメラあったっけ」
 そう言えばと思い、彼を振り返った。
「なんだい?」
 格好はおかしいと言えばおかしいが、まぁどうにかなりそうな余地はあるよね。
 孫兄弟(露出に黒板)とか甘寧や関羽(破廉恥)とか曹仁(歌舞伎)とかに比べればどれほどマシかを考えると大丈夫な気がしてきた。
「んーん、なんでもない」
 私は再び歩き出した。



 本当、このときの私はなにも考えていなかったんだろう。
 彼との出会いが私の考え方を変えるなんて……適当な未来予想図を捻じ曲げるだなんてそんなこと考えられるはずもないけど。
 まぁ、とにかくこれが私と彼との出会い。

 世界が私たちを引き剥がそうとしても、からまった糸はどうにも解けない。
 そういう運命も、ありかなぁなんてすべてが終わった後思うんだ。
 また適当な未来予想図を今度は私と彼で当てはめて。
 だから今はまだ何も知らない灰色の無垢とは言いがたい乙女のままで……



⇒あとがき
 ……結局のところ何がしたかったのか自分でもよくわかんないww
 一応彼は諸葛瑾のつもりで書いては見たが、微妙。
 最初はなんか漫画読んだ勢いでこう書いてたんだけど、途中で書きたい欲求だけだったので力尽きちゃいました。あっはっは〜☆

(追記)
 よく書き直したな、自分ww
20071009 カズイ
20080116 加筆修正
res

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