◆彼女の問題発言

「ど、どうしよう!」
 不意にそう叫んだ小春に誰もが首を傾げた。
「おい小春、お前訓練中に……」
「ちょうどいいや、呂蒙!」
 くるっと身体を反転させ、怒鳴る太史慈よりも小春の近くにいた呂蒙を捕まえた。
「ちょっ、小春!?」
 わたわたと慌てる呂蒙と正面から向き合い、小春は真面目な顔で言った。
「呂蒙、今すぐ私を抱いて!!」
「っ!?」
 小春の問題発言に呂蒙は急速に顔を赤くし、許容範囲を超えたのか、完全に硬直していた。
 症状は確かに酷くはあるが、なにもそれは呂蒙に限ったことではない。
 その声が届く範囲にいた誰もがその発言に硬直したり、武器を取り落としたり、ぽかんと口を開けたり。とにかく様々な反応を見せていた。
 唯一の女性武官である小春のその言葉は多大な被害をその場に与えまくっていた。

「小春!!!お前ふざけんのも大概にしろよな!!つーか、真昼間から何大声で叫んでんだよ!!!」
 彼女に宿を提供している凌統が真っ赤な顔で怒鳴った。
 その横で彼の義兄である陸遜が同じく真っ赤な顔で口をぱくぱくとさせている。
 あれほど師とのいちゃつきっぷりを見せ付けておいてその反応は卑きょ……ではなく、不思議なものである。
 唯一無事そうなのは、どこか楽しそうにくつくつ笑っている諸葛瑾くらいである。
「諸葛瑾!てめぇも笑ってんじゃねぇよ」
「だって、ねぇ?」
 諸葛瑾は小春を指差し、まだ収まらない笑いを堪えるべく口元を押さえる。
「あれ、ただの言い間違えだよ?」

「え?私何か間違えた?間違ってないよね」

 至極真面目な表情で答えた小春に太史慈は目を閉じ、痛む頭を思わず押さえた。
「ちょっと、呂蒙ー?」
 ガクガクと呂蒙の服を掴んで揺さぶってみる。
「むぅ……はっきりしないんなら私が抱くよ?」
 ガシャンッとまた誰かが武器を取り落とす音が続く。
 異様な空気は、必死に堪えている様子の諸葛瑾の笑い声が妙に響いていている気がするほど静かだった。
 そんな中、呂蒙ははっとして口を開いた

「抱かれるくらいなら僕が小春を抱くよ!」

 呂蒙の"思わず"な叫びに不本意で地面と仲良しになった武官が一体何人居たことだろう。
 さすがの幾多の戦場を抜けてきた猛者たちと言えどもさすがに真昼間に大声で話すには幾分おかし過ぎる話についていけなかったようだ。
 当の呂蒙は己の発言に気づき、わたわたと慌て始める。
「きゅんっ。ああもう私が抱きてぇよ!可愛すぎだよ呂蒙!!」
「小春!?」
「だからやめろっつってんだろうが小春!!!」
 凌統の怒鳴り声に、ぴたっと動きを止めた小春はじとっと凌統を睨む。
「な、なんだよ」
「別に凌統でもいいんだよ?身長的にももちろん私が抱く側よね」
 己に歩み寄ってくる小春に、思わず凌統は陸遜の背に隠れた。
「ちょっ、凌統!?」
「陸遜ちゃんでもいいや。抱かせろ?」
「小春……冗談、だよな?」
「冗談なし」
 ひくっと陸遜は頬を引きつらせる。
「小春、こっちは空いてるよ」
 両手を広げた諸葛瑾に小春は足を止める。
「却下!」
「あれれ?」
 こっちこないの?と言うような目で首を傾げる諸葛瑾に小春はきっぱりと言った。

「だって諸葛瑾とか甘寧とかって、抱かれた瞬間孕んじゃいそうだし。だから却下」
「酷いなぁ〜」
「っていうかそこに甘寧を出すか?」
「だって居ないし。サービスサービス♪」
「意味がわかんねぇよ!」
 凌統のずびしと効果音がつきそうな突込みを避け、小春はまだわたわたしている呂蒙に歩み寄った。
「あ、あの……小春……」
 かぁっと顔を赤くする呂蒙に小春は両手を広げた。
「抱いて?」
 ちょこんと首を傾げた小春に呂蒙は思わず突進するかの勢いでぎゅーっと抱きしめた。
「小春っ」










 阿鼻叫喚。











「はぁ……やっぱ抱かれるのはいいねぇ」
 を、まるで無視したかのような小春の発言。




「へ?」




 呂蒙の間抜けな呟きがそれに次いで響いた。
 一瞬遅れて凌統や陸遜も「は?」と思わず呟く。
「それってどういう……」
「?……その言葉通りだよ?」
「わー、皆やーらしー」
 からかうような諸葛瑾の棒読み。
 そこで小春も合点が言ったらしく、咄嗟に呂蒙から離れる。
「は、破廉恥な!」
「それはお前だっつの!!!」
 凌統の突っ込みに誰もが頷きたくなったのは仕方の無いことかもしれない。

 その後、小春は凌統と太史慈にこってり絞られた。
 当然と言えば、当然なのかもしれない。






「ね、呂蒙」
 二人の説教が終わった後、小春は帰ろうとしていた呂蒙を捕まえた。
「呂蒙にその気があるならいつでも抱かれてあげるよ」
「小春、その誤解を招く言い方はよくないよ」
 呂蒙は苦笑を浮かべ、やんわりと小春の手を解く。
「本気でならって話だよ」
「なお悪いよ。……って……………え?」
 首を傾げる呂蒙の唇に無理やり自分の唇を重ね、小春は「じゃあね」と手を振った。
「……ご愁傷様」
 ぽんと太史慈が呂蒙の肩を叩く。
「断言するよ。あんた尻に敷かれる」
 あははと笑い、諸葛瑾も呂蒙の肩を叩いた。
 その二つを皮切りに無言の同情票が次々に呂蒙の肩に集まった。

「えぇぇぇぇぇ!?」



⇒あとがき
 以上柊たんに捧げる相互記念(※)夢小説でした。
 って、ご、ごめんなさい。果てしなく平謝りの連続コマンドしなきゃ!
 こんなのが相互お返しでごめんなさい。
 ギャグにしたいなと思ったらこんなことになっちゃいました。てへv←キモいよ。
 『セクハラ』以上の問題作でごーめーんーなーさーい!!!
 こんな奴と仲良くしてくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
20070610 カズイ
※PCの、です
res

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