◆考え事
多分物心つくかつかないかと言う頃だった。
弟の孔明が生まれて母を取られた気になっていたあたしの前に彼女は現れた。
年はあたしと同じで、名前は小春。
迷子だった彼女を連れて帰ったあたしは彼女と家族になった。
新しく彼女に与えられた名は葛蒼。
彼女はあたしの妹になった。
よく笑い、よく泣き、まぁとにかく感情のままに行動を起こす。
そのくせ芯はしっかりしていて、やると決めたことはやりとおす。
葛家が諸葛と名を改める時も、あたしが孔明と小春を置いて行こうとしたときも彼女はあたしについていくと決めた。
そして今も隣に居る。
文と武。諸葛家は元々文を取ることが多いけれど、彼女はどちらかと言えば武を選ぶ子だ。
片手に持つ短槍は小春の手に馴染んだもので、その身軽さと奏して試験官をうならせたほどだ。
試験と言えば、孔明の弟子と会った。
そう言えば小春が耳打ちしてきたんだよねぇ。
「子瑜、陸遜ちゃんって孔明が好きそうな感じだよね」
あれには笑ったなぁ。
然しもの孔明も変わり者でまっすぐすぎる小春の前では昔っからただの弟だもんね。
「あのさ」
「んー?」
声を掛けられ隣を見れば、小春は短槍を膝の上に載せて、こちらを向いてぽつんと言葉を続けた。
「どこが似てるわけ?」
さも不思議そうに言って詰め寄る。
しかも顔は大真面目。
言葉が抜けてて一瞬わからなかったけど、それは確実にあたしと孔明のこと。
「あたしに聞かれても、ねぇ?」
苦笑して答えるしかないでしょ?
似てると思ったのは陸遜ちゃんなんだから。
そう言えばオマケのように小春のことを理解した陸遜ちゃんに頬膨らませてたっけ?
視線?
口調?
癖?
仕草?
ぽんぽんと同じところ違うところと次々と上げてあーでもないこーでもないと言う小春を見ながらあたしは笑った。
こうやって考え込む小春をあたしは止められない。
まぁ、止める術が無いわけじゃないんだけど、邪魔したら怒るんだよねぇ。
それもかーなーりしつこくね。
だからあたしは小春を止められない。
むかしはこうなったときの小春に置いてけぼりを食らったみたいで寂しかったけど、慣れたらいろいろ楽しみがあるんだよね。
小春のころころ変わる表情とか、呟く内容とか。
それにしても、あたしと小春と違って、あたしと孔明は血のつながった兄弟。
小春よりは付き合いがちょっとだけ古いわけだし、血もつながってるし、似てるところが多いのはおかしくないんだけど。
ま、弟の孔明のほうが出来がいいってのは確かだけど。
「あーもう!」
どうやら考え事は終わったらしい。
結果は不満ってとこかな。
「やっぱりずるいわ!」
「は?」
彼女の中で何がどうなったのか、いまいち理解しがたい。
ま、これもいつものことなんだけどね。
「だって私の方が子瑜と長く居るのに子瑜と似たところないんだもん」
……あれ?
いつからあたしと小春のことになった?
「……!」
あたしは赤くなった顔を隠すように左手で口元を押さえ、顔を逸らした。
「子瑜ー?」
不思議そうに小春が問い掛ける。
その頭を左手でぽんぽんと無言で叩いた。
天然はこういうとき反則だよ。まったく。
⇒あとがき
最初に書いたのが満足行かずに書き直しました!
孔明に嫉妬する子瑜と夢主。夢主はきっと自分の気持ちに気づいてない。
それを判っていて子瑜は何も言わないんだと思います!!←あれ?これ補足?
20070528 カズイ
20070530 加筆修正