◆孫策至上

 山積みになった書簡にうずもれ、一人の侍童姿の子どもが眠っていた。
 子どもの名は小春。遥か東国からきたと言うが、それが事実かは判らない。
 だが、その名が不思議な音を奏でているのは確かである。
 兎に角彼女は侍童姿をしてはいるが、少女である。
 あまりの無防備な様に周瑜は深く静かにため息を吐いた。

「小春、起きろ」
 肩に手をやり揺すると、ゆっくりと目を見開く。
『……後三分』
 そう言って目を閉じる。
 異国の言葉で訳の分からない言い訳を言う。
 毎度の事だ。
「寝るな!お前にはここの整理を任せたはずだろう」
「うう……したよぉ、どっかの暇人どもが新しい書簡やらなんやら運んできただけ〜」
 面倒くさそうに言いながら棚に整理された本と、奇妙に交互に重ねられた書類を指差す。

 始め、薄汚れた子どもを孫策が拾って来た時はどうしたものかと思ったが、彼女は非常に有能だった。
「仮にも上官に向かって暇人どもはないだろう」
「事実じゃんか」
 欠伸を噛み締め、小春は起きる。
 見た目は10歳そこそこであるが、中身は孫権と同じだと言う。
 周瑜はあまりそれを信じてはいないが、孫策は小春の言葉を信じ、傍に置いた。
「お前、部屋に帰ってないのか?」
「帰る暇あると思う?」
 子どもらしからぬ口調で肩を竦め、ぐっと背伸びをする。
「伯符は体力馬鹿だから気づいてないけどね」
 小さな身体で、ひょこひょこと動き、倒れた本を拾い上げていく。
 どうやらどこか怪我しているようだ。
「次は武官になんなきゃ」
「お前みたいなの戦場に出すことが恐ろしい」
「いいじゃんよー。ただの野望なんだから」
「伯符が許さないと思うが?」
「言い包めるもーん」

 本を開いたスペースに置き、小春は交互に重ねた書類を少し崩していく。
「はいよ」
「なんだこれは」
「暇人どもの暇人たる所以。……子どもだからわかんないとでも思ったのかねぇ」
 楽しそうに小春はにやりと判る。
「どんなに綺麗にしようとしたってどこかに必ず汚いところがある」
 小春は書類を周瑜に押し付けた。
 書類に目を通した周瑜は目を見開く。
「治ったつもりでもどっかで膿が出てくる」
「これ全部お前が見つけたというのか?」
「周瑜がいつくんのか待ってたけど、意外に遅くてびっくりだよ。しかもあれでしょ、伯符に言われてやーっと見に来たんでしょ?」
 小春の指摘するとおりだった。
「ざぁんねん♪私、思ってるほど優しくないよ〜」

 鼻歌を歌いながら本を棚へと今度は移動させていく。
「お前は何故ここまでする。何故耐える」
「あたしは伯符に助けられた。だから、この命、伯符のためなら幾らでも投げ打つ覚悟は出来ている」
 鋭い眼差しが、俺を射抜く。
 友と言えど、信用する気はないと眼が語っているようだった。

「私もだ」
「ならいいよ」
 あっさりと小春は周瑜を認め、本を机の上に置いた。
「ここの仕事は暇人にやらせてよね」
「何処に行く気だ」
「稽古の時間。言ったでしょ?武官になんなきゃって」
 楽しそうに笑い、書庫を出て行く。

 周瑜は書庫で一人ため息をついた。
「扱いにくい女だ」
 結局のところ、周瑜も彼女を外見どおりではないと認めているのだった。



⇒あとがき
 周瑜か子瑜あたりの頭脳派と交戦してみたくなってこうなった。
 私が頭良くないので今一訳のわからん作品になりました☆
20070503 カズイ
res

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