◆NG!

 その日、青道高校のとある教室には、少女の口から吐き出された何やら物憂げな溜息から緊張が走っていた。
 少女の名は飯島小春。青道高校の三年生である。
 一年の終わりから生徒会執行部に所属し、二年になってすぐ会長の座に座ることとなった彼女は口調が若干男前で、運動音痴ではあるものの容姿は平均以上、成績優秀であるがそれを鼻に掛けない。
 きっぱりとした物言いは一見冷たくもあるが相手への思いやりがある。
 だがそんな彼女がため息をついたのだ。何か聞いてくださいと言わんばかりである。
「飯島、お前なぁ……さっきから溜息ばっかでウゼェんだよ!なんか言いたいことあるならはっきり言え!!」
 自分を見て溜息を吐く小春についに怒声が響いた。
 言わずともがな伊佐敷純である。

「伊佐敷、愛しているぞ」

 小春による真顔の告白。
 ちなみにこれは本日の溜息と同じ10回目である。
「だからお前その冗談いい加減笑えねぇんだよ!」
 背後から発せられる悪寒の原因の鋭い視線に耐えながら、伊佐敷は再び怒鳴った。
 小春は全くと言っていいほど魔王降臨に気づいていないが、クラスメートたちは恐ろしさに震えていた。
 そう、緊張の原因は彼女の溜息の所為ではなく、彼女の溜息から発生してしまった魔王降臨と言う大事件に、であった。
「愛している人に愛していると言って何が悪い」
「突拍子がねぇ!意味が分かららん!とりあえず俺が死ぬ!!」
「伊佐敷の方が突拍子ないと思うが?」
「お前よりはましだぁぁ!」
「伊佐敷は強肩強打と言われているが、強肩の部分を狂犬に名を変えた方が……」
「んな話どこから生まれたんだコラァァ!」
「これにハマっているのか?」
 すっと小春は伊佐敷に向け一冊の本を取り出した。
「何銀魂出してきてんだよ。畑が違うだろうがぁ!つか銀魂のノリじゃねぇ!!」
「落ち着け純。とりあえず飯島、何かあったのか?」
 誰も止められなかった―――約一名わざと止めなかったようだが―――伊佐敷と彼をいじり倒す小春に結城がようやくストップかかけた。
 突然無言になった小春は再びため息をついた。
「初めてなんだ。この胸のときめき」
「は?」
「じゃあさっきまでの台詞はあれか?俺いじめか?コラァァ!」
「純は落ち着け」
 結城は小さくため息をつき、小春の話を促した。
「野球部の練習風景を見た瞬間、私は気づいたのだ。彼は私に出会うために青道に来たのだと」
「へー……どこのどいつ?それ」
 黒い笑みを浮かべ、辺りに冷気を巻き散らかしながら、亮介は言った。
 いわずともがな、魔王とは彼のことである。
「小湊には関係ないだろう」
 小春はまったくと言っていいほどそれには気づかず、きっぱりと言った。
 亮介を中心に気温ががぐっと一気に下がった。
「と」
 小春が呟くまでの短い時間の出来事だった。
「言いたいところだが、そうも言えないな」
「で、誰なんだ?」
「小湊少年だ」
「「「「は?」」」」
「知らんのか?小湊、貴様の弟だろ」
「春市のこと?」
「そうか、春市と言うのか!」
 きらきらと輝く目。
 小春は「春市くん」とうっとりと呟く。
 魔王はさらにご乱心である。
「私は見たのだ。あの愛らしい笑顔……お前と血が繋がっているかと思うと不思議だぞ」
「小春、何気に失礼だよ」
「あれは天使、お前は魔王だ」
(あんたは鬼だ!)
 さらりと言うのはいいが、この教室は氷河期を迎えようとしていた。
「はぁ……だがうらやましいものだ」
「?」
 ため息をついた小春は、何故か微笑んだ。
「あんな弟、私も欲しいものだ」
「……弟?」
「そうだ。私の弟は私なんかよりもデカいんだ。まったく……小学生とは到底思えんぞ。奴は」
「???」
「どういうこった?」
「あー……つまり、小湊の弟を自分の弟に欲しいだけなのか?」
「その通りだ、よくわかったな、結城」
「お前がまぎらわしぃんじゃぁあ!」
 伊佐敷はキレた。
「結城はわかったぞ!」
「いばんな!胸張るなぁぁ!!結城はお前と同じタイプだからわかるんだぁぁ!!!」
 机まで投げた。
「「どういう意味だ」」
「お前ら双子みたいに反応すんじゃねぇ!!」
「「双子に失礼だ」」
「だぁぁぁぁぁ!!」
 伊佐敷は頭を掻きむしった。
 クラスメートたちは伊佐敷に同情するも、口は挟めなかった。
「ねぇ」
 さっきまでの黒いオーラを隠した笑顔で亮介は笑う。
「何だ?」
「俺とつきあえば将来春市が弟になるよ」
「却下だ!」
 即答である。
「私は伊佐敷と結婚すると決めているんだ」
「……伊佐敷?」
 ゆっくり顔を上げて亮介は伊佐敷を睨んだ。
「だから俺を巻き込むなぁぁぁ!!」
 伊佐敷は泣きそうになりながら叫んだ。
「伊佐敷、先生が来たぞ」
「早く席に着け」
「……もうイヤだこんなクラス!」
 三人以外、みんな同じ気持ちになった。

 頑張れ、伊佐敷。
 負けるな、伊佐敷。
 皆は心の中だけで応援した。



⇒あとがき
 なんか方向性が不思議。
 何が言いたかったのか、よくわからんですね(笑)
20070109 カズイ
20090516 加筆修正
res

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