◆不思議の国

 どんな時だって笑顔だった。
 優しい優しい近所のお姉さん。
 いつも俺たちの手を引いてくれていた。



 貴女は今、どこにいますか?


  *  *  *


「収穫なし、ですか」
 ニコルが溜息をつくのも無理はない。
 上陸用に与えられたIDでは、入られる場所が限られてしまっている。
 そのため、足付きの情報が手に入らないのだから。
「こら、そこの四人組!」
 沈黙していたアスランたちに掛けられた声。
 不意の出来事に心臓が大きく跳ねる。
 振り返った先にいたのは背の高い少年。モルゲンレーテの整備関係の一人なのか、水色の自分達と同じつなぎを着ている。
「サボり?」
 目深にかぶった帽子の下の唇が言葉を紡ぐ。
「い、いえ、そういうわけじゃ……」
 ニコルがあわてて口を開く。
「私の顔みると皆そういうんだから。まったく、どいつもこいつも……」
 ぶつぶつと彼は文句を口にし、帽子を脱いだ。
 そこからあらわれたのは、長い黒髪と、どうみても女の顔。
「お、女!?」
 イザークの声に彼女はむすっとした顔をする。
「キーシンのヤツとでも思ってたの?止めてよね、あんなガキと一緒にしないでよ」
「す、すいません」
「まぁいいわ。今日のところは見逃してあげる」
「ありがとうございます」
 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。彼女はアスランに歩み寄った。
 ちゅっと軽く音を立てて、アスランの頬に唇を寄せた。
「な、何するんですか突然!?」
 女はきょとんと首を傾げた。
「何って……もしかして覚えてない?私よ、リディア!」
「リディアさん!?」
 五年ぶりの再会にアスランは目を見開いた。
「私はすぐ気付いたのになぁ……」
「す、すいません。リディアさん随分変わったから……」
「五年もあれば変わるわよね。アスランもこんなに大きくなったし」
 くすくすと笑うリディアにアスランは照れ隠しのように目を伏せた。
「アスラン」
 ニコルが説明してくださいとばかりにアスランを見上げる。
「彼女はリディアさん。俺が月に居た頃の幼なじみだ」
「五年前にオーブに越してきたの。よろしくね」
 にっこりと柔らかな微笑みにニコルは見惚れた。
 すっと手を出されて慌てて握り返した。
「ニコルです」
 女性には慣れていたつもりだが、何故か緊張した。
「俺はディアッカ。よろしく、美人のお姉さん」
「あら、上手ね」
 ニコルから離れた手を取り、ディアッカは軽く手の甲に唇を寄せた。
「そちらの貴方は?」
「イザークだ」
 ぷいっとそっぽ向きながらの挨拶にリディアは一瞬驚き固まったが、笑いを堪え、アスランに向き直った。
「聞いたわ、小母さまのこと。大変だったわね」
 俯くアスランの頭をリディアは優しく撫でた。
「……いえ」
 リディアはアスランから手を離し、帽子を被りなおした。
 ふっと腕時計に視線を落とす。
「あらやだ、時間だわ」
 リディアはポケットからメモ紙を取出し、胸ポケットに挿していたペンでそこに走り書きをした。
「私の個人端末用のアドレス。何かあったらそこに連絡して」
「あ、はい」
「じゃあね、無駄骨ザフトの諸君」
 ひらりと身を翻してリディアが言った言葉に驚くまでしばらくかかった。



⇒あとがき
 なんかSDカードに保存したまま忘れてた。
20060412 カズイ
res

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