◆罪

「……時間だ」
 その言葉に私は目を伏せると、漏れ出光が私を包む。
 私を捕らえていた手が咄嗟に離れた。
「いやー。血まみれやね、小春」
 市丸隊長がケラケラと笑うように言う。
 確かに。
 白い襦袢部分がどす黒く汚れている個所がある。
「殆ど返り血です」
 拭うこともせずに、ぼんやりと足元を見つめる。

 血の錆びた匂いが鼻につく。
 返り血は同胞を手に掛けた罪の証。
 償おうとは思わない。
 ただ罪の証。
 それだけ。
 大きな傷はそう無い。
 ただ一つだけ。
 左肩の刀傷。
 つけたのは親友だった子。
 彼女はもういない。
 私が
 殺した。

「小春」

 不意に藍染隊長が口を開く。
 顔を上げれば、片手を持ち上げる。
「おいで」
 招かれているのだ。
 拒む理由はない。
 必要もない。
 私はのこのこと歩み寄った。

「傷を負ったんだね」
「申し訳有りません」
 藍染隊長の手が肩口の傷口に伸びる。
 傷口に親指が食い込む。
「っ」
 ぬるりと、血によって指が滑る。
 悲鳴が上がりそうになるのを必死に抑えるように歯を食いしばる。
 傷口から手が離れ、その指が私の唇をなぞる。
「血の赤がよく似合う」
 本来の藍染隊長の笑み。
 その笑みに昔の面影は無い。
 これが本来の笑みだ。
 雛森副隊長は知らないだろう。
 彼が私の前ではごく当たり前のようにこの笑みだったことに。
「ありがとうございます」
 ぬるりとした血。
 気持ちが悪い。
 だけど、汚れきった私には似合いの赤。

「市丸、東仙」
「はいはい、わかってますって」
「……………」
 二人はその場を後にする。
 残された私と……藍染隊長。

 藍染隊長の唇が重なる。
 唇を割って入る舌は錆びの味。
 剥がされていく衣服に、私は抗わない。
 私は人でも死神でもない。
 ……人形だ。

「愛しているよ、小春」

 玩具。
 モノへの愛情。
 私へではない。
 それでもいい。
 十三番隊へ移動になったときのように
 離れなくていい。
 ずっと
 ずっと
 貴方の傍に居ます。
 人としてでなくても
 それでも
 私は傍にいる。
 貴方の傍に。
 死ぬならば、貴方を守って死にます。
 貴方の目的の為に。

「ありがとうございます」

 だから
 苦しくても
 耐え抜きます。
 人形のように
 心を閉ざして。



⇒あとがき
 なんだコレ。
 罪って……最初の方にちょっぴりだけだし。
20060614 カズイ
※title by ドリーマーに100のお題
res

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