◆私らしさ

 どうしよう……終わらない、間に合わない!!
「どうしたー?」
 下のほうから焦っている私に声が掛けられた。
「マードック軍曹。メサイアのここの汚れがなかなか落ちなくて……」
 いっそ諦めてやろうかしら。
 そう思いながらも私は手を動かしていた。
「ああ、それなら根性入れて磨きゃあ落ちるさ。ま、頑張れよ!」
「マードック軍曹〜!?」
 豪快に笑いながらマードック軍曹は言ってしまった。
 マジで〜?
 これからお昼ご飯食べにいかないと時間帯的になくなっちゃうよ〜……しくしく。
 こうなったら意地と根性で食事を食いっぱぐれることを忘れるくらいにがんばって落としてやるもん!
「このこのこの〜!!!」

―――ゴシゴシゴシ……

 絶対ラミアス大尉とかバジルール少尉みたいなカッコいい女性から遠のいてるわ私。
 あーあ……せっかく曹長と同じ船にいるのに……
 今日は唯一会える時間帯がお昼だったのに……くっそー。
「汚れの馬鹿〜!!!!」
 ガシガシと力強く磨く。
 さっきより薄くなってきたかもしれない。
「ふぅ……うりゃ〜!!!」
 一息ついてまた擦り始める。
 悲しいことに、今の時間帯ドックには殆ど人がいないから、私の声が虚しく響き渡る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」

「大丈夫か?クロウ伍長」

「にょにょにょにょにょー!!??」
 急に後ろから声を掛けられ、私は思わず奇声を上げてしまった。
「ノイマン曹長!?」
 振りかえるとノイマン曹長が私の奇声に驚いたのか目を見開いて固まっていた。
「ど、どうしたんですか?」
 部署が違うから会う場所なんて食堂しかなかったのに!
 ノイマン曹長ははっとして言葉を紡ぐ。
「いや……マードック軍曹に頼まれて食事を持ってきたんだ。まだ食べてないだろうからって」
「にょにょにょ!?」
 まじですか!?
 あの私をあっさり見捨て、餓死(違っ)させようとしていたマードック軍曹が?
「うっそだー」
 信じられないですよ。
「うん、うそ」
「ガビーン!やっぱし!!」
 頭を抱えた私にノイマン曹長はくすくすと笑った。
 ああ、私ったら、失 態 だ ら け !
「本当は仕事押し付けたくせにクロウ伍長の分の食事を癖で取っちゃったんだってさ」
「どうせ私は非力でよく昼飯食いっぱぐれますよーだ」
 やっぱマードック軍曹心配してないし。
「ま、裏に愛情がちらついてるからいいじゃないか」
「え?」
 そんな、マードック軍曹が私のことを……

「ペットとご主人様的な愛情が」

「ガビーン!やっぱそっちですか!?」
 ノイマン曹長が顔を顰める。
「?」
「……ぷっ」
 あ、吹いた。
「あはははあ!」
 笑い堪えてたんですか!?
「わ、笑わないで下さいよ!」
 でも、初めて見たかも、ここまで破顔するノイマン曹長。
 ここにカメラさえあればっ!

「飯食べようか」
「え?あー……はい?」
 ノイマン曹長の手には二人分のトレイ。
「えっと、ノイマン曹長も?」
「ああ、込んでたからね」
 ビバ昼飯ラッシュ!!



 とりあえず仕事は一時中断し、ドック内にある休憩室へと向かった。
 ここで更にラッキーなことに今誰も休憩室に居ないー!
 隣の喫煙室には人は居たみたいだけど〜♪

「クロウ伍長」
 御馳走様ですと両手を合わせた私にノイマン曹長が声を掛けてきた。
「なんですか?」
「ここ」
 ノイマン曹長が自分の唇の端の方を指差す。
 ついてるのかなぁ……?
「えっと……」
「取れてないよ」
 ノイマン曹長の顔が近付いて、私の唇の端のほうにかすかに触れた。
「ごちそうさま。今度から二人の時はアーノルドでいいよ」
 柔らかな笑みを浮かべ、「じゃあ」と二人分のトレイを持って出て行った。

「ふにゃ!?」

 私は思わずその場所を押さえ、顔を真っ赤にして固まった。
 マードック軍曹が心配して声を掛けてくれるまで私はその場で硬直しているのだった。



⇒あとがき
 加筆中に思ったこと。
 タイトルと内容が合ってない。
 ……書き直した所為ですかね?これ。
20021228 カズイ
20070515 加筆修正
res

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