◆旅立て?私

 放課後の少し寂しくなった時間。
 作法室にぐだぐだと残り続ける私、飯島小春は一般人の周りから腐女子の称号をもらえるほどの同人娘。
 現在はまっているものは……再加熱中の幻想水滸伝かな……
 ふわふわと涼しい風と一緒に初夏の日差しが作法室に差し込む。
 実は今日、部活がないんだけど、どうしても作法室の畳が恋しくなって金曜日の放課後という微妙な時間にやってきたわけですよ。
 なにをしに来たのかと聞かれればもちろん、お昼寝!と堪えさせていただく。
 というわけで、携帯のバイブを四時に設定してと、おやすみなさい。

  *  *  *

「……夢?」
 たった今、畳に体を沈めたはずの私がいるのは……どこだ?
 古びた人気のない街。
 人気はないといっても、さっきから不吉に剣戟の音がここまで届いてるんだよねぇ……くぅ、逃げたい!!
 でもどこへ?
「どこかにまともな人いないかなぁ」
 住んでいる人がいないことはぼろぼろな家から想像できるんだけど、争い反対。
 なにしてるかわかんないけどさー、恐いんだよこんちくしょー!!!
「拳銃の音が混ざってる気がしまーす」
 誰に言うわけでもなくそう言って思わず反対方向に逃げようとした私のところに人らしきものが現れる。
「ひっ」
―――バンッ
「うわぁぁぁ!」
 耳の尖ったそいつはそう言ったっきり息絶えた。
 すいません、幻聴ですか?
 さっき悲鳴の前に銃声聞こえましたよね。
 っていうか、消滅しましたぜ?耳の尖った恐い人。
「……三下とかいて雑魚と読む」
 思わずそう呟くと目の前にざっと砂を切って四人の美麗集団が現れた。
「その雑魚に俺たちを襲わせたのは貴様か?」
「は?」
 その顔をよく見ればどこかで見覚えが……あるに決まってんだろうがぁ!!!
「はーい。名前言うから当たってたら……笑え?」
「なんじゃそりゃ」
 赤い触覚ゴキブリが溜息混じりに呆れたように呟く。
 くきー!それ以外になにを言えっちゅーんじゃ!
「端から、猪八戒。沙悟浄。孫悟空。んでもってこっちに撃つ気満々で拳銃向けちゃってる方は玄奘三蔵!」
「大正解です」
「まぁ、知ってて当然でしょ」
 八戒、悟浄と言葉が続いて思わず心の中だけで悲壮感を最大に表現中。
 マジでアニメが再び始まった最遊記じゃねぇかぁ!
 がっでぃむ!!
 なぜに最遊記?私全盛期でさえ興味なかったのよ?
 峰倉は好きなんだけど最遊記よりワイルドアダプターと生徒会執行部の方が好きだったんですけど。
 キャラはこっちのほうが覚えてるけどさぁ。
 つーか、三蔵だけじゃなくて三人とも構えちゃってるんですけど。
「……あるぞ、あるぞ、心当たり」
「?」
「どこかで見てんだろうが、あたしが呼べないと思ってるのか?あぁん?(某庭球人物風)どーうせあたしゃ二郎君の名前しか覚えてねぇから呼べねーよ!!つーわけで、でてこんか、両生類!!!」
 空に向かって吼えるとたしかにヤツは降りてきやがりましたよ。
「口が悪りぃな、小春」
「あんたもね。つか呼び捨てしてんじゃねぇよ」
 ナイスバディがすけすけ服から見えてるよ。
 えっと……ババア?
「……いい度胸してるじゃないか。次そう呼んだら殺すぞ」
「心を読むな!……で、やっぱあんたが呼び出したんだな。何の用だよ」
「こいつらと一緒に旅をしろ」
 命令かよ!!
「なんで、私には学校という平和な暮らしがあるんですけど」
 マイスイートハニーダイちゃん(腰が細い私の頭の中で受けの担任!)が待ってるんですけど。
「ま、がんばれよ。あと、これお前用の口座。じゃあな」
「ざけんなぁ!!!」
 カードを放り投げてとっとと消えやがった。
 しかもゴールドかよ。めちゃ高価じゃん。
「……つーか、晩御飯くいっぱぐれちゃうじゃないのさ。今日の当番兄ちゃんなのに」
 兄ちゃんは私立高校の食物科に通う三年生でーす!ちなみに私は一年。修行中の身にございます。
 めちゃくちゃ食いたかったよ。
 せめて最後に……さ。
「あーくそ。こうなったらとことん付き合うんだからね」
 びしっと四人に指差すと三蔵が嫌そうに眉を寄せた。
「なんか生で見るとムカつくわね」
「あぁ?」
「……ハゲ」
 ガチャっと銃が向けられて慌てて謝ったけど。
「お前、一緒に来るの?」
 期待に満ちた悟空をみて思わず飛びついた。
「やー、可愛い」
 うりうりうり。(抱きしめ中)
「うえ、あ、ちょっ……」
「照れて更に可愛い〜」
 うりうりうりうりうり。(抱きしめ続行中)
「ちょっと猿にサービスしすぎなんじゃないの?お嬢ちゃん」
「うひゃぁ!」
 ひょいっと抱えあげられた。
 体重がバレる〜!!ぐあぁ、乙女の最大の屈辱じゃい!!
「ちょっと、お、下ろしてよ」
「お、おもしろい反応」
 明らかに面白がっている悟浄が癪で、スカートを気にせずスニーカーの裏でガツンと蹴った。
 ってか落ちる!?
「はいキャッチ」
 ひ〜、八戒さんが目の前にぃ!?
 しかも抱っこされてますぜ!?
 八戒の声が大好きなんだ。どうせ私は声フェチですよぉ〜だ。
 うえーん。腰抜けたぁ!!←マジ
「大丈夫ですか?えっと、小春さん」
「だ、大丈夫じゃないです」
 半泣き状態で八戒に抱っこされて、その上私から抱きついています。
 腰抜けたってバレるのが癪なんです。
「てめぇ、そんなんでついていく気か?」
「しょうがないじゃん、帰り方わからないもん。あと、戦えない上に体力ないんでよろしく」
「……今更猿が一匹増えても俺は世話しないからな」
 おや?
 ぷいっと背を向けてしまったけど、それは許可してくれたってこと?
「よかったですね、小春さん」
 ぐお!まだ抱っこされたままだYo!
 腰抜けたままなんですけど、どうしましょう(滝汗)
 ただコクコクと頷くしかできなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
「八戒さんがあまりに美声すぎて腰ぬけました」
 素直に白状すると八戒は光栄ですといってにっこり笑ってくれた。
 うえーん。幸せ100%だよぉ!!
「このままジープ行きます?」
「……すみません」



⇒あとがき
 オチは腰抜け?
 しかし、これはだれ夢なのでしょう。
 カズイ自身も最遊記はあんまり詳しくないけど、八戒ラブなんで、やっぱ八戒中心でしょうか。
 ちなみに二番目は三蔵様です。
 あぁ、一度で良いから本人前に「ハゲ」、「生ぐさ坊主」などなど悪口言ってみたい。(即殺されるかな(汗))
20040309 カズイ
20070329 加筆修正
res

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -