◆いざ、デーデマン家へ

 ユーゼフ家に回覧板が回ってきた。
 役に立たない執事に持って行かせるわけには行かず、ユーゼフ本人が行こうとしたのだが、しっかりピーターに気づかれてしまった。

  *  *  *

「というわけだから、よろしく」
 ぽんと渡された回覧板を受け取り、私は固まってしまいました。
 ユーゼフ家に就職することになったのはつい三日前。結果的に、今日が初任着なんですよ?
 まだメイド服に着替えてもいない私は思わずため息をつき、閉じられてしまった扉を恨めしげに見つめ、荷物を持ったままお向かいのデーデマン家を見つめました。
 噂で聞いていたけれど、これほどひどいとは思いませんでしたよ。
 どう見ても穴が開いてるんですから。
―――リンゴーン
「す、すいません」
 恐ろしくて思わず声が震えてしまう。
 恐ろしいのはユーゼフ家も同じだけど、私はこっちのほうがいろんな意味で怖い。
 闇ならまだ耐えられる。だけど、地雷だけは避けれないんです。
 だって、私とんでもない不運の星の下に生まれているんです。
「どちら様?」
 首が痛いです。なんて背の高い方なんでしょう。
 ユーゼフ様も背が高いんですけど、私の前だといつもイスに座ってくれるんです。
「あの、ユーゼフ家のメイドです」
「メイド?」
 じろじろと集まる視線。
「視線?……はうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 周りを自分よりも遙かに小さな薄い布切れのようなもので囲まれています。
 いやぁ!涙が止まりません!!!
 目の前の人は無表情で胸元から拳銃を出し、唯一生きてるとわかる少女を撃ちました。
「っ――――――!!!!」
 そのまま危うく意識が遠のきそうになりかけたけど、必死にこらえました。
 でも……でもぉ〜
「大丈夫か?」
「た、立てませ〜ん」
 恥ずかしいですよぉ。
 今日スカートじゃなくて半ズボンでよかったです。(多分)
「A・B!」
「C?」
 思わず続けて言ってしまって口を押さえた。
「……名前だ」
「す、すいません!」
 へこへこと頭を下げて必死に謝る。
 顔を上げればさらに高いのでく、首が落ちそう!!
「どうしたんですか」
「呼びましたか?」
 現れた二人を見つめ、私はほっと一安心。名前は変だけど普通の人です。
「A、ヘイジを片付けろ。B、彼女の相手をしていろ。回覧板を回してくる」
「ヘイジ、また脱皮したんですか?」
 とてもいやそうに薄っぺらいものをつまんだ。
「お、お手伝いします。いえ、させてください。迷惑かけてしまったお詫びに!!」
「あ〜、気にしなくていいのに」
「で、ですが!!」
「いいから、ね?」
 Aさんはにっこりと私に微笑んでくれます。
 あう〜、なんでこんないい人がいるのに地雷とかあるんですか?
 あ、でももう地雷ないよね……
「あの、AとBって本当に名前なんですか?」
「名前ですよ。囲む○がないですけど。あれあると文字化けしちゃいますからね。あ!突っ込みはなしですよ」
「は、はい。だったら私の名前も多分メイドで済まされちゃうんでしょうね」
 落ち込む。
 というか、へこむ。
「ん〜……それはないと思うぞ」
「デーデマン家が特殊なだけですよ」
「ヨハンさん」
「そういえば、名前あるもんなぁ……」
「デイビッドさん」
「は、初めまして。ヨーゼフ家の新しいメイドです!」
「……ピーター・アルベルト・ロベルト。なんで名無し?」
「ヒラですから。……あの、デイビッドさん。あなたここから三軒右隣の屋敷に居ませんでしたか?」
「おう、いたぜ」
「……なんでここにいるんですか?」
「先日のゆうべ奥方に夜這いをかけられてそれに気づかず爆睡し続け朝眼が覚めてすっぱだかで二人でベッドで寝ていたところを出張先から突然戻った旦那に見つかり俺は理由の分からないまま猟銃を振り回す旦那に追い立てられてとるものもとりあえず逃げたところでここから逃げ出そうとしていたシェフに玄関先でばったり会い……(以下略)」
「あの、アナタの貞操は?」
「よく分からない!」
「……ご武運をお祈りします」
 デイビッドさんにそういって、私はぐるりとあたりを見回した。
 広いには広いのだが、なんでこんなにぼろぼろなんだろう。
 左官によってふさがれたばかりだと主張している壁をじっと見つめた。
「噂どおりなんですね」
「噂?」
「あ、すいません。フラン○フルト最強の執事がいるからこんなに壊れててもデーデマン家が一番なんだと思って……」
 は〜、地雷がないならこっちでもいいかなぁ……
「そういえばユーゼフ家のメイドさんや」
「はい?」
「君、何しに来たの?」
「回覧板を届けに」
「迎えが来てるけど?」
「……………」
 首をゆっくり動かすと後ろに立っていたのはにっこりと笑う私の新しいご主人様のユーゼフ様。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「ん〜、可愛い。というわけでお持ち帰りだよ」
「ひえ〜!Aさん、Bさん、デイビッドさん、ヨハンさん、助けてください!!!」
「「「「無理」」」」
「うえぇぇぇぇぇえん!!」
 横抱きにされてそのまま屋敷までお持ち帰りされました。(合掌)


20050227  カズイ
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