◆台風一過

 丸川書店の宇佐美大てんてー担当編集者の相川さんの中身が鬼だとは思っていた。
 けど、この人以上の鬼はぜーったいいねぇ!!!

  *  *  *

 某月の某日。その時の俺は昼食の準備中だった。
 ちなみにウサギさんは朝方まで仕事してたみたいで今だ夢の中だった。
 そんな時間にむやみやたらに連続でチャイムを押す非常識なヤツが現れた。
「はいはーい。さっさと出るから連続で押すのやめれ!!!」
 誰、と言うのはわからないが思わず最後に行くほど怒鳴りつつフライパンを熱していた火を止めて早足で玄関へと走った。
 ウサギさんが起きたらどうしてくれるんだ!

 玄関を開くと、そこには見知らぬ女の姿……って、本当に誰。
 丸川書店以外の人が来るとか聞いてないし、ウサギさんの兄弟は男だ。
 ウサギさんの昔の女?
 いやいや、ないない!だってウサギさん、俺の兄ちゃん一筋だったもん。
 ずーっとほもだし。
 ありえないありえない!
「えーっと……どちらさんでござりましょうか」
 俺はアホな思考をさらけ出さないように出来るだけ平静を装ってそう言った。
 そこぉ!言葉がアホ丸出しとか言わない!!
「……君が美咲くん?」
「え?あ、そうですけど……」

 なんだこの人は。
 俺が"どちらさん"って聞いてるのに無視か!?
 変わりに俺を品定めでもするかのように頭の先からつま先までじっくりと見つめてくる。
 なんていうか……ウサギさん並にわけのわからない人だ、この人。
 俺にはわかるぞ、絶対そうだ!
 ……って、この人マジで誰だ?

「すばらしい!すばらしいわ!!こんなに良い素材は久しぶりよ!!」

「……はい?」
 キラキラした目で俺を見つめながらがしっと俺の手を掴む。
 なんなんだよ!すんげーいやな予感がするんですけど!!
「……っと、そうじゃなかったわね」
 はたっと目の前の女の人は正気に戻り、にこりと笑った。
 身長は俺と同じくらいだから女にしては普通かちょい高めくらいだけど、綺麗系というよりは可愛い系なその人は俺の手を離すと言葉を続けた。
「宇佐美先生いますか?」
 ちょこんと首を傾げるさまはとてもじゃないが年上には思えない。
 いや、実際絶対年上だと思う。
 けど可愛いんだよ!
 だからさっきのおかしなテンションの説明誰かしてくれ!
 俺が何故か身の危険を感じた理由の説明を!!
「えっと、居ますけど……あなたは?」
 とりあえず内心ではそう騒ぎ立てつつもどうにかそう切り返せた。
「ああ、自己紹介が遅れました。宇佐美先生の新作読みきりの挿絵担当になったイラストレーターの飯島小春です。よろしくね、美咲くん♪」
「はぁ……」
 とりあえずこの人が可愛い振りしてやる子なんだと言うことはわかった。
 ウサギさんのところに案内して大丈夫だろうか?
 ……激しく嫌な予感がする。

 とりあえず事前に連絡はしているのだと言う彼女に、ひとまず中へと案内することに決め、俺は飯島小春さんとやらにお茶を出した。
 うーん、打ち合わせったってちょうど昼時だし、お茶だけじゃなくて昼飯も出したほうがいいのかな?
「つーか!ウサギさん起こしいかなきゃ」
 すみませんと飯島さんに言い残し、俺はウサギさんの部屋に入った。



 ウサギさんの部屋は相変わらずな奇妙な子どもの部屋ちっくで、一瞬呆れつつもベッドへ真っ直ぐ歩いた。
「ウサギさん、お客さんだよ」
「あ゛ぁ゛?」
「うわ、めっちゃ機嫌悪っ……って、どこさわってるんだよ!ばか!!!」
 ウサギさんは俺をベッドの中へと引き込み、組み敷くとTシャツにその大きな手を滑り込ませた。
 客が隣にいるんだよこんの馬鹿ウサギぃぃぃ!!!



「まぁ!これが本物の現場ね!?」



―――ギギギギギッ
 実際にそんな音がなるわけではないけど、そんな効果音が付いてきそうな気がする。
 俺は強張った首を声の主の方へと無理やり動かした。
 視線の先にいたのはさっき玄関先で見たあのキラキラした目をした飯島さんだ。
「飯島さん?」
「……誰だ?」
「イラストレーターの飯島小春さん。かっこウサギさんのお客さんかっことじる」
「ご紹介にありました飯島小春でっす☆」
「って、ちょっと!飯島さん、これ誤解!誤解だからね!!」
「いいのよ美咲くん。ごまかさなくったって♪さあ、宇佐美先生、私のことは気にしないでがっつり続けちゃって下さい」
「じゃあ遠慮なく……」
「ざけんなウサギぃぃぃぃ!!!!」
 そんなこんなで―――そこ、誤魔化したとか言わない!―――俺はウサギさんを思いとどまらせ、広間へと戻った。
 「え〜?」と残念そうな飯島さんは見ない振り見ない振り!



「改めましてはじめまして宇佐美先生。新作読み切りの挿絵担当になった飯島小春です。相川さんからお預かりした先生の原稿にはざっと目を通させていただきました」
「相川に渡したのは昨日だったはずだが?」
「私から編集部へ行かせてもらいました。先生の作品はどちらの名義でもファンですから!それでそのあと編集部にそのまま籠って読ませてもらったんです」
「そうか」
 ああ、ようやくまともな流れに向かい始めた。
 って、ん?どちらのめいぎ?
 めいぎって……名義?
「いやぁ、生でも見ることができたこんな可愛い美咲くんが誘い受けだなんて、本当宇佐美先生じゃなくてもめろめろですよね」
「なんだそれ!」
 宇佐美先生いますかって言ってたから俺てっきり普通の本の話だと思ってたのに、秋川弥生の方かよ!!
「あれ?美咲くんは宇佐美先生の原稿見てないの?」
 どんな原稿を書いたんだよ、ウサギさん。
 飯島さんの目がものすごく語りたいと言う風にキラキラ輝いている。
「いい……」
「あれだけさんざん嫌い嫌いって言ってた美咲が間違ってお酒を間違って飲んだ美咲が潤んだ目で秋彦を誘うのよ!?もうあのシーンの可愛いこと可愛いことっ……く〜!私の心にストライク☆すっごい好みなツンデレで万歳!!」
 いいですと言おうとした俺の言葉を完全に遮り、飯島さんは熱弁を振るってくれた。
 ……聞きたくなかったです、俺。
「ってわけで指定ある前からとりあえずラフ描いて持ってきてみました!」
 ちなみに徹夜明けですよえっへんと威張る。
 威張らないで、飯島さん!
「はいおまちどう!」
 そして出前を持ってきたラーメン屋のごとく飯島さんは持参したファイルを開いてノートサイズのコピー用紙を机の上に並べてくれた。
 えっと、飯島さん?
 これらの絵のすべてがモザイク入れないとやばいんじゃないんですか?シーンばかりなのは気のせいでしょうか?
 さらに半分くらいはハードな気がするのも気のせいでしょうか?
「おお、うまいな。これなんかよく似てるぞ、美咲」
「見せんな馬鹿ウサギ!」
「編集の相川さんから特徴聞きまくって描かせていただきましたからばっちりでしょ!」
「ばっちりじゃないから!」
 思わず口に出して突っ込んだ俺ははたと机の上に美咲と秋彦以外の絵があることに気づいた。
「ああ、これ?」
 飯島さんはそれに気付いて手に取った。
「これはね、前にアシスタントのバイトに来てくれてた男の子と、その子と一緒にデートしてた人をモデルにしたのよ♪」
 そう言って飯島さんは指をさしながらわざわざ絡み合う男二人の絵の説明をしてくれた。
 ……相手の方が国文の上條に見えるのは気のせいだろう。
 いや、絶対気の所為!!鬼の上條がありえないって!!
「もうその二人が睦まじくって、感動のあまり写メまで撮っちゃったのよ」
 ほらと飯島さんが見せてくれた写メはもう間違いなく上條本人で、俺は背中に冷や汗が流れるのを感じた。



 俺がそうやって固まっている間に、ちゃくちゃくと話は進んだらしい。
 元々コピーして持ってきていた飯島さんはそれを残して嵐のように帰って行った。
 何と言うか……どっと疲れた。
「今度から挿絵は飯島小春にしてもらうか」
 ……やめてください。せつじつに!



⇒あとがき
 アニメ化の波で人気過熱真っ最中の純情ロマンチカ。
 発売してすぐにはその存在すら知らなかったと言うのに友人に2巻までか3巻までか借りたおかげで書いちゃってますからね。
 BL漫画なのに夢って私の脳内の妄想力すげぇな。
 って、初稿の日付見て吹いたのですがww四年前wwww
20040620 カズイ
20080623 加筆修正
res

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