◆僕らの旅路は今日も平和です
※リク作品
集合場所と決めた公園に一足先に戻った小春は、芝生の上で寝転がっていた。
時間は昼時。暖かな日差しが降り注ぎ、そこへ風が心地よく吹き抜けては近くの木々を囁かせるように揺らしていく。
うとうととそのまま眠ってしまった小春の腕の中にはぬいぐるみの振りをしているらしいモコナの姿がある。
「いくらこの国が平和っぽいからって無防備だねー」
「というか無防備すぎだろ」
時間よりも少し早く戻ってきたファイと黒鋼の二人はそんな小春に思わず素直な感想を述べた。
この国に羽根があるかどうかはまだ不明だが、強い力をどこかに感じるだけで、この国がいたって平和なのは間違いない。
「モコナは起きてるー?」
「モコナ、起きてる。小春、さっき寝ちゃったからもう少し寝かせてあげて?」
珍しく気をきかせて小声で話すモコナにファイはへらんと笑ってこくりと頷いた。
黒鋼は特に何も言わず、ただ口をつぐんで小春の隣に座った。
ファイはその様子を見て黒鋼の反対側に座る。
「あったかいねー」
芝生にごろんと寝転がり、「ね」と黒鋼に同意を求める。
黒鋼も同じように芝生に寝転がり、背を大地に預けるが返事はしない。
目を細め、太陽を射抜くかのように睨む。
「退屈な国だ」
「小春の世界、ここに似てるって言ってた」
モコナの世界も似てるよとモコナは言う。
そよぐ風が公園で遊ぶ子どもたちの声を届かせる。
「平和だねー」
「うん」
静かな時間がゆるりと流れる。
「んん……」
眉間に皺を寄せ、小春はもぞりと動く。
長い睫が震え、ゆっくりと瞳が開かれる。
「おはよー小春ちゃん♪」
「……はよーございますぅ?」
ぼんやりとした表情のまま、小春は返事を返す。
だがゆっくりと戻っていた意識がぱっと覚醒する。
「わぁ!?」
勢いよく起き上がり、腕の中からモコナが転げ落ちた。
「私、寝てた!?」
「うん。寝てたー」
「気持ち良さそうにぐーすかな」
「ええ!?」
おろおろと落としてしまったモコナを心配したり時計を見ながら時間を確認したり慌しく次から次へ動こうとする小春の頭を黒鋼の大きな手ががしっと掴んだ。
「とりあえず落ち着け」
「……はい」
どうにか止まった小春は深呼吸を一つした後、芝生の上にぺたりと座る格好を取った。
黒鋼は小春を抑えるために上半身を起こしたが、ファイはそのまま芝生に寝転んだままだ。
「芝生気持ちいいですよね」
小春は青い芝生をそっと撫でる。
「日差しもあったかいしー?」
「ついうとうとしちゃいました」
照れたように笑い、頬を掻く。
「でも一番乗りなの!」
「で、収穫は?」
「……あると思います?」
「だよねー」
あははとファイは笑う。
ファイと黒鋼の方も特にコレといって何かを見つけたわけではないのだから仕方が無い。
「ねぇ小春ちゃん」
「はい、なんですか?」
「オレと黒ろんどっちが好きー?」
「……はい?」
へらんと笑うファイに小春は耳に手を当てて聞き返す。
「だからね、オレと黒ろんどっちが好きー?」
「どっちって……どっちも好きですよ?」
「だめだめ〜。仲間って意味じゃなくて恋愛の好きでどっちか選んでよー」
「れんあ……ええ!?そう言う意味だったんですか!?」
「わー小春もってもて〜☆」
モコナがくるくると踊りだす。
おろおろと挙動不審になる小春を見ながら黒鋼はため息をつき、小春の身体を越え、ファイの頭をごんと握りこぶしを作って殴った。
「わーん、黒りゅんが殴ったー」
嘘泣きをしながら、ファイは小春の身体にぎゅっと抱きついた。
「ひゅっ」
息を飲んで小春は完全に硬直した。
「おい、小春?」
「おーい、小春?……だめー、完全に固まっちゃってる〜」
ふいふいとモコナが小春の前で手を振ったが、小春の視界に入っていないかのようだった。
「小春ちゃんあったかーい」
「ってお前はさっさと小春を離せ!」
黒鋼は再びファイの頭を殴った。
「わーん!」
「強く抱きつくなつってんだろーがぁ!」
「……だめだこりゃ☆」
「お前もあきらめんな白まんじゅう!」
「モコナ白まんじゅうじゃないもん!」
「……えーっと」
時間に遅れること数分。
到着した小狼は暴れるモコナと黒鋼、芝生の上で小春を抱きしめて時折黒鋼とモコナの攻撃にファイを見た。
「みんな仲良しだね、小狼くん」
その様子をどう解釈したのか、ふわりと笑うサクラに小狼は苦笑を浮かべて見つめ返した。
「…………ソウデスネ」
果たしてあれが仲良しの図なのかはなぞではあるが、まぁ平和なことにこしたことはない。
二人はしばらくその様子を遠巻きに傍観することにした。
⇒あとがき
小狼はすっかりオチのポジションにいると脳内で決めつけられているらしいです。
リクエスト(※)に添えてるかはわかりませんがとりあえずほのぼので黒鋼とファイによる夢主取り合いです。なんか途中でモコナ乱入しちゃってるけど。
20080602 カズイ
※本館企画リク