◆貴方たちだから

※『フィーメンニンは謳う』とクロスオーバー


 各々の国をそれぞれの理由で発ち、願いを叶える店で出会った五人はモコナ=モドキを旅の仲間にさまざまな世界を渡り旅している。
 記憶を取り戻すため、元いた場所に戻るため、元居た場所に戻りたくないため。
 そして今回の物語の主人公・リディアは突然世界から姿を消してしまった女王を捜すため。
 それぞれの目的のため旅している最中、彼らはある国にたどり着いた。
 これはその国での物語である―――

  *  *  *

 今後のことについて話し合っていた最中、サクラが眠ってしまい、のんびりと談笑を続けていた。
 机に肘をつき、いつものへらんとした笑みを浮かべてファイは話を振った。

「ねー、リディアちゃん」
「なんですの?ファイ」
 にっこりとサクラと年が変わらないであろう少女―――リディアは答える。
 太陽の日差しのように暖かいオレンジ色の長い髪が同時に首を傾げたことでさらりと揺れる。
「リディアちゃんは妖精なんだよね?」
「ええ。正しくは妖精族ですけれど……それがどうかいたしまして?」
 自分が妖精族の『聖なる乙女』だということは出会ったその時に対価として力を渡したために知れているのに今更聞いてくるのは不思議だった。
 最初に訪れた阪神共和国では文化の違いについて話、その時に元居た世界の話も少しした気もする。
 突然どうしたのだろうとリディアは再び首を傾げた。
「妖精ってどうやって子ども作るの?」
「ファ、ファイさん!?」
 突然何を言い出すんだと小狼は慌てふためき、結局真っ先にサクラの耳を塞ぐと言う行動に出た。
 だが当の本人は夢の世界に旅立っておりそもそも話を聞いてはいなかった。
「子どもを……つくる?」
 首を傾げるリディアにファイはいつもの笑みを崩さない。
「人は子どもを"つくる"んですの?」
「そーだよー。ね、黒るん」
「変なあだ名やめろつってんだろ!……まぁ、そうだな。子どもは作るもんだな」
 黒鋼はふっと笑ってそう言った。
 この一行一番の常識人であろう小狼に視線を向ければ曖昧ではあるが確かに肯定したのだから事実なのだろう。
「ファイ……」
「すみません!」
 小狼がリディアの言葉を遮って口を開いた。
「……おれ、サクラを隣の部屋に連れて行ってきます」
「モコナも行く!」
 ぴっと片手(腕?)を挙げ、モコナはサクラを抱え上げた小狼の肩へと乗った。
 二人と一匹が部屋を出た後、リディアはファイに知りたい!と言うキラキラした純粋の瞳を向けてのたまった。
「人の子どもはどうやってつくれるんですの?」
 この言葉をある程度予想していたのであろう小狼の行動は正しい。
 ファイは悪戯が成功したとばかりにふふっと笑った。
「先に聞くけどリディアちゃんのところはどうなってるのー?」
「わたくしたち妖精族は女王さまがお守りする広い広い森に囲まれた花園の花から生まれますわ」
 妖精族の花園は世界の中心―――聖地である。
「女王さまだけは五百年に一度その花園の中心にある純白の蕾から生まれますの」
 そしてリディアはその女王をゆっくりと時間をかけて育てる、一族の中でも最も清らかだと言われる『聖なる乙女』の一人である。
 確かに清らかなのはその振る舞いや口ぶりの端々から感じることは出来るのだが、人の中でそれは無邪気な無知とも取れる。
 現に今、良い様にファイにからかわれようとしているのに気づいていない。

「それで、どうやって人は子どもをつくれるんですの?」
「簡潔に言えばセックスして」
 ファイは親指と人差し指をつけて丸を描くと、そこに人差し指を刺した。
「???」
「おい、本当に意味判ってねぇぞこいつ」
「"せっくす"とはなんですの?」
「説明するより実践する方が早いんだけど……」
「却下だ却下!」
「って黒さま怒るしー」
「実践?」
 ますます頭にハテナを浮かべるリディアはふっと一つのことを思い出した。
「そうですわ!リーナさまですわ」
「え?」
「わたくしはお会いしたことはないんですけど、今の女王さまを完全に成長させた『聖なる乙女』の方―――リーナさまは人間ですの!」
「あれー?『聖なる乙女』の力がないと成長できないんじゃなかったの?」
 それを魔女さんに対価として渡してたんだよね?とファイは言う。
「ええ。『聖なる乙女』の力でないといけませんわ。リーナさまは人間であり、同時に妖精の血を引くとわたくしたち『聖なる乙女』の中で唯一お会いしたことがあるというラミアドナさまが言っておられましたわ。つまりその"せっくす"とは人と妖精の血を混ぜる儀式なのですね!」
 わたくしわかりましたわ!と両手を合わせてうれしそうに微笑むリディアにファイと黒鋼は顔を見合わせる。

(どうしよー)
(知るか!)

 視線だけでそう会話を交わした二人はもう一度リディアを見る。
「でも血を混ぜるのは痛そうですわ」
 どこをどのくらい切って混ぜるんですの?と不安そうにリディアは問う。
「勝手に解釈するのは勝手だがな、血は混ざるが混ぜないからな」
「???」
 きょとんとリディアは首を傾げる。
「混ざるのに混ぜないんですの?」
「女のここで子どもは育つ。男と女の血を引いた子どもがな」
 黒鋼はリディアの腹部を指差した。
「お腹の中で、ですの?……やっぱり切らないと生まれないんですの?」
 リディアはさぁっと表情を青ざめさせた。
「切らないけど、聞いた話じゃ鼻から西瓜を出すくらい痛いんだってー」
「い、いやですわ!そんな恐ろしいことわたくしできませんわ!」
 泣きそうな顔でいやいやと首を振るリディアに黒鋼は深々とため息を吐いた。
「だから女は母親として子どもを愛しく思うんだ。痛みを乗り越えて、命を懸けて子どもをこの世に産み落とすから」
「え?」
「……俺はそう聞いた」
 ぷいっと黒鋼はそっぽを向く。
「はは、おや?」
「子どもの親だ。妖精にはそんな概念ねぇのか?」
「ないですわ。わたくしたちは花から生まれるだけですもの」
 寂しそうに呟いた後、リディアは少し考えてぽつりとまた呟く。
「子どもを、愛しく……」
 視線は宙を彷徨い、やがて花のようないつもの笑みへと表情が変わるころ。
 リディアははっきりと言い切った。

「わたくしもほしいですわ。子ども♪」

 からかっていたはずのファイは言葉を失い、黒鋼は眉間の皺を無言で増やした。
「……意味わかってないよね、絶対」
「どうせ『聖なる乙女』の力を失ってしまったんですもの。女王さまを見つけてしまえばわたくしお役御免でただの妖精ですもの。だったら愛しい存在がほしいですわ」
「その前に相手がいなきゃ無理だってわかってるー?」
「あら、ファイが言い出したんですもの。ファイがお相手してくれるのではなくって?」
「相手のことも好きじゃなきゃだめなんだよ?」
「好き?わたくしファイのこと好きですわよ?」
「……ごめん。オレが悪かったから許してー」
 語尾が消え入りそうな声になりながらファイは机に突っ伏した。
 その様子を見つめながら黒鋼は呆れたようにポツリと言う。
「……馬鹿が」
「わたくし別に黒鋼が相手でもいいんですのよ?わたくし黒鋼のことも好きですもの」
「っ!?……お前なぁ……相手は一人に絞れ、一人に!」
「そんなこと言われましても……わたくしお二人が好きですわ?それはいけないことですの?」
「それは小僧と比べれば同じか?だったら意味違うぞ」
「いいえ、違いますわ。お二人は別格。だってわたくしお二人といるとここが激しく脈打ちしますの」
 リディアは両手を重ね、指で胸元をそっと押さえる。
「それって特別の好きなのでしょう?空汰が教えてくれましたわ」
「そんなに前からかよ!」
 ぎょっと黒鋼は目を見開き、ファイも空汰の名前に顔を上げて目を白黒させる。
 空汰と言えば最初に訪れた阪神共和国の住人である。
 思いっきり旅の初めではないか!
 だがその驚きはリディアの機嫌を損なわせた。
「前からではいけませんの?」
「悪くないけど……ねぇ」
「俺に振るな」
「嫌とは言わないですわよね?お二人とも」
 にっこりとリディアは微笑んだ。
「わたくしに子どもを与えてくださいな」

 貴方たちが相手だからこそ、世界で一番愛しいと思える存在を―――



⇒あとがき
 クロスオーバーとは言え、片方はなんてマイナーなものに手をだした!?的な作品です。
 大体これをここまで読んでくれている方で『フィーメンニンは謳う』をご存知の方っているんでしょうか?
 白泉社から出版されている山口美由紀先生の作品で、文庫化もされてます。
 次作の『タッジー・マッジー』とセットで読むと尚面白い作品です。是非ごらんあれ!
 って私は山口先生の作品まとめて友人に借りて読んだ派ですけど(笑)
20080321  カズイ
res

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