◆内緒の関係

 ここはどこかで見たことのある設定が使われている私立堀鐔学園。
 私はここの学生。ちなみに高等部2ーB所属です。
 彼氏はいるけど内緒。だって……ね?

  *  *  *

「あ」
 どさりと筆箱が腕に抱えた教科書の上から滑り落ちた。
 いかんいかん。注意散漫になってる。
「大丈夫ー?」
「あ、はい」
 落ちた筆箱を拾い上げ、微笑む。
 金糸に青目。肌は色白。白衣に笑顔!とくれば隣のC組の担任で化学教師のファイ先生だ。
「気をつけてね、小春ちゃん」
 そう言ってファイ先生は去っていく。
 残されたのは、筆箱と共に受け取ったノートの切れっぱし。
 私はそれををぎゅっと握りしめた。

 私とファイ先生の関係は生徒と教師。
 だけどそれと同時にもう一つ―――恋人同士。
 もちろんこれは内緒!
 いくら自由な校風だからって、世間体がよくないもんね。だから内緒。
 ……どこから嗅ぎつけたのか、侑子先生にはバレてるけど。
 あの人今もどこかで見てるんじゃないかって思う。
 そう思うとこれを今すぐ見るわけにはいかない。
 だけどやっぱり気になってしまった私はがさりと紙を開いた。
 そこには青いペンで16と言う数字だけが書かれていた。
 その意味がわかるのは私だけだ。
 ペンの色は場所。数字は時間。
 メールじゃないのは授業中の思いつきだからだ。
 思いつきでもいい。私は少しでも長くファイ先生と居る時間が欲しかったんだもん。

「遅かったな」
 隣の席の百目鬼の突っ込みに心臓がドキリと跳ねた。
「ノート忘れたの」
「あっそう」
 嘘ではない。
 ただうっかり忘れたのではなくてわざと忘れただけだ。
「そういや、九軒が小春のこと探してたぞ」
「ひまわりちゃんが?……なんだろ」
「さぁ」
「聞いといてよ!」
「どうせ部活のことだろ」
「そうじゃなかったらあんたの所為よ」
 溜息を吐いて私は自分の席に座った。
 ……早く放課後にならないかなぁ。
 早く逢いたい。長く傍に居ていたい……

  *  *  *

 HRが終わって即行帰った私はシャワーを浴びて私服に着替えた。
 鏡の前で変なところがないか何度も確認してみる。
 大人っぽい服装に、変装用の帽子と眼鏡。
「よし」
 そう気合いを入れながら私は家を出た。
 行先はファイ先生の自宅。
 そう自宅なのだ!
 これが危険極まりないことに、あの黒鋼先生の家が近いの!!
 だからいつもハラハラドキドキ……
 着いたらすぐにチャイムを鳴らした。
 返事はなくて、扉が開くこともなかった。
「……まだ帰ってないのか」
 ぽつりと呟き、私はポケットに入れておいた合鍵を使って家の中に入ることにした。
「お邪魔しまーす」
 中に入ると、ファイ先生の匂いがした。
「いつ帰ってくるのかなぁ……」
 ちらりと見上げた壁掛け時計は四時を差そうとしていた。

  *  *  *

「やばっ」
 四時に上がれると思っていたのに、黒るんに捕まっちゃったよ。
 小春が帰ってたら黒りんのせいだー。
 ……ま、小春のことだから帰ってはないと思うけど。
 ちらりと見上げたマンションの自分の部屋は外が暗いというのに明かりがついていない。
 まさか本当に帰っちゃったー!?と思いながら階段を駆け上がれば、玄関に鍵がかかっていないことがわかった。
「んー?」
 扉を開けると薄暗い玄関に小春の靴がきちんと揃えてあった。
 もしかして、とオレはそっと家の中に入る。
「小春ー?」
 奥の部屋を覗けば机に上半身を預けて眠る小春の姿があった。
「遅くなってごめんね」
 そっとオレは小春の米髪にキスをした。
 女の子特有のふんわりした匂いが鼻腔をくすぐった。
 オレは先生で、小春は生徒。
 だけどオレは10歳ほども離れた彼女を俺は好きになってしまった。
 好きって、言えば簡単だけどどうしようもないくらい好きの気持ちがオレの中で溢れたのは小春が二年生になってからだ。
 出会いは高等部の見学会。好きになったのは一年の終わり。
 そして付き合い始めたのはあの日だ。
 きっかけはそう、眠っていた小春にこんな感じでキスをしたことからだ。
 あーあ、生徒に手を出しちゃったってオレにしては珍しく激しく落ち込んだ。
 だけど彼女はそっとオレの頬を両手で包んで、顔を真っ赤にしながら「好きです、付き合ってください」と必死に目を合わせて言ってくれた。
 そんな勇気にオレはいつだって答えてあげたい。
「……っん」
「おはよう、小春。いい夢は見れた?」
 まだ眠そうに目を擦る小春にオレはそう問いかけた。
「んー……ファイ先生がキスしてくれた夢」
 へにゃっと笑った顔にオレはだらし無く笑った。
 ああ、可愛い。
 今度は小春の唇にキスをした。
「っ!?……ファイ先生!?」
「今度こそおはよー」
 小春は顔を真っ赤にしてオレを見上げる。
「もうっ!いきなり何するんですか!」
「小春が可愛かったから、ついー」
「つい、じゃないです」
 ぷくっと頬を膨らませて怒る。
 そんな表情も愛おしい。
「……あ」
 視線を反らしてたのにオレを見て、
「お帰りなさい」
 さっきまで怒ってた顔を花が開いたような優しい笑顔にして言った。
 その一言にオレ幸せを感じる。
 オレが先生で、君が生徒じゃなかったら……オレはきっと小春を抱きしめていただろう。
 好きすぎて愛おしい。
 卒業まで手を出さないって決めた記憶がなければ小春を壊れるまで愛してしまうかもしれない。
 ともすればこの関係、今はいいことなのかもしれない。
「ただいま。大好きだよ小春」
「な、なんですか突然」
「なんとなくー」
 今はただこの胸に抱きしめて、大好きだよと囁こう。



⇒あとがき
 キリリクゲットのトモさまにこのファイを捧げます。
 甘というかラブラブ(笑)です。
20061024 カズイ
20090516 加筆修正
res

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