◆硝子細工

 安物の硝子細工だけどなって、そう言って手渡された。
 お土産だから受け取れよって半ば無理やりだった。
 そんなことしなくても私は素直に受け取ったのにね。
「ありがとう」
 そう言うと少し照れて赤くなったね。
 そんな貴方が好きだった。
 なのに、なんでだろうね……貴方が別の人を追いかけているのは。

 すごく悔しいの。
 好きなの。
 愛してる。
 言葉じゃ足りないくらい、愛してる。

「そんなに一馬のことが好きだったの?」
 そう問い掛ける目の前の人間が憎らしくて、腹が立つ。
「別に」
 嘘。
 忘れられないくらい、好き。
 追いかけて私を見てって叫びたい。
 だけど叫べない。叫ばない。
 だって今、一馬はすごく幸せそうなんだもの。
「僕は絶対に小春を裏切らない」
「でも私があなたを好きじゃない」
「そう」
 英士は腹が立つほど幸せそうな笑みを浮かべて、唇を重ねてきた。
「忘れさせてあげる」
 指先が優しく耳朶に触れ、そのまま首筋へと降りて愛撫する。
「小春が僕だけを見るように」
 狂気を孕んだ視線。
「そんなこと絶対にない」
 そういいながら、机の上の硝子細工に手を伸ばす。
 青い結晶。
 するりと指からすり抜けて床の上に落ちていった。

―――ガシャンッ

 静かな部屋の中、その音は酷く響いた。
「どうするのさ」
「後でいい」
 大事な大事な宝物―――壊れちゃった。

 さようなら。
 さようなら、一馬。
 さようなら、一馬を愛していた私。

「忘れさせてくれるんでしょう?」
「当然」

 そう言うとさっきよりもうれしそうな笑みを浮かべた英士は私の唇に深く口付けた。



⇒あとがき
 突発的に浮かんだ詩を小説にしてみた。
20050113 カズイ
20080328 加筆修正
res

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