◆シーソー

「まったく、今日も私の手を煩わせてくれちゃって」
「……ごめんだCー」
 しゅんと項垂れる金髪の少年は、私の幼馴染の芥川慈郎。通称ジロー。ちなみに私はジロちゃんと呼んでいる。
 中学生にもなってと思うかもしれないけど、幼稚舎から大学までの一貫教育を受け取ることのできる氷帝では別に不思議なことじゃない。
 私の友達の奈緒なんかは、あの跡部を前にして未だに景ちゃん呼び……いや、奈緒の場合は誰でもあだ名呼びだけどさ。
 ちらっとジロちゃんを見れば、いつものことながら一応反省はしているようだ。
「まぁいいけどね。明日はちゃんお練習に出るのよ」
「りょーかい☆」
 再び歩き出した私たち。
 いつもと変わらない帰り道。
 変わったのは私の想い位だ。
 いつだったか、眠っているジロちゃんの唇をこっそりと奪ってしまうくらい、気づくと器の大きさを無視して溢れだす私の想い。
 気づかれたら最後、こんな風に側にいる事は出来なくなると思う。
 忍足曰く、ジロちゃんには好きな人がいるらしし、今の関係が壊れるのは嫌だ。
 それなら片寄って落ちたままのシーソーみたいな関係が潜む幼馴染に甘んじていたい。
「小春」
「何?」
「公園に寄ろ」
「え?もう暗くなるよ?」
「Eじゃん!よろー!よろー!」
「……仕方ないよなぁ」
 駄々っ子のようなジロちゃんは、私の答えに顔を綻ばせ、私の手を引っ張って近くの公園へと入っていく。
 少ない休みの日は眠ることやゲームに使われてしまうし、外に遊びに行っても宍戸たちとかが一緒だから、公園なんかに寄らないんだろうと思う。
 そう言う私も毎日家と学校の往復で、休みの日は友達とショッピング。それだけで十分だったから随分と久しぶりだ。
「うおぉ!なつかC!」
 公園くらいではしゃいじゃって。
 くすくすと私が笑うのを見て、ジロちゃんはにかっと歯を見せて笑った。
 滑り台、ブランコ、ジャングルジム、砂場。
 どこの公園にでもある遊具がそこにはあった。
「あ!」
 ジロちゃんが指さしたのはさっきちょうど例えで考えていたシーソーだ。
「あれやろ、あれ!」
 そう言えば、昔よくシーソーして遊んでたっけ。
 繋いだままだった手を引っ張って、ジロちゃんがシーソーの所へと急ぐ。
 真っ先に座ったジロちゃんに悪いけど、あんまり乗りたくはない。だって、体重ばれるじゃん!
「小春〜、早くしろよー」
 ジロちゃんに急かされて、私はジロちゃんが座っている反対側に座った。
 一応スパッツ履いているからいいけどさ。
 座った後は、ほとんどジロちゃんの気の向くままにシーソーが動く。昔からそうだ。これならあんまりばれないかも。
 でも、静止したら最後。ジロちゃんより重たかったらどうしよう。
「なぁ、小春」
「なに?」
「お前さ、痩せた?」
「は?」
 体重2キロぐらい増えましたよ?
 ……言わないけど。
「ジロちゃんがパワーアンクルでもつけてるとか?」
「今日ははずして鞄の中」
 ジロちゃんはシーソーの動きを止めた。
 って、あれ?私浮いたまま?
 ジロちゃんはゆっくりシーソーから降りて、不思議がりながらも自然と下がった私の方へと近づいてきた。
「小春」
「ジロちゃん?」
「俺、太った?」
「……いや、太ってはないと思うよ?」
 毎日見てるからはっきり答えられないけど、少し筋肉ついたりしてきてるからなぁ。
「じゃあやっぱり小春が軽くなったんだな」
 そう言うとジロちゃんは私の脇に手を入れて、ひょいっと持ち上げた。
「ほらみろ、小春が軽いんじゃん」
「ちょっ、離してジロちゃん!」
 そんなところに手を置いたら少しだけど指が胸に当たってるじゃんっ!
「あ、ごめん!」
 ジロちゃんは私の身体を下ろした。
 一応地面に足をつけて一息つくと、ジロちゃんが私に背を向けた。
「……ジロちゃん?」
「やばいよなぁ」
「え?」
「うわー!どうしよー!!」
 突然叫びだし、ジロちゃんはしゃがみ込んだ。
 私は意味が分からずに、ジロちゃんの正面に回って同じようにしゃがみ込んでジロちゃんの顔を覗き込んだ。
 ジロちゃんの顔は真っ赤で、私は妙に納得した。
 いつも私が側に居るから彼女いなかったもんね。免疫なくても仕方ないか。
「ジロちゃん、私怒ってないよ?」
「いや……そうじゃなくて……」
 ジロちゃんはきょろきょろとあたりを見回す。
 突然どうしたんだろうって思ってると、ジロちゃんの顔が目の前にあった。
 あまりにも突然で、あまりにも一瞬で、何が起こったのかすぐにわからなかった。
 ジロちゃんは口元を押さえて目を逸らす。
「……こう言うこと」
 真っ赤なジロちゃん。
「ジロちゃん、好きな人がいるって……」
「何それ!?知らないC!俺小春が好きって今気づいたのに!!」
「なっ!?」
 からかわれた!……って言うか、その言葉信じていいんだよね?
「……ふえ」
「うわぁぁ!小春!?」
「うれしいよぉ」
 涙が溢れだして止まらない。
 好きすぎて止まらない。だけど、もういいんだ。
 シーソーは止まらずに動き続けるんだから。全ては二人の想い次第。



⇒あとがき
 ていうか、これ、ブン太に応用可能です。結構ジロちゃんとブン太は書くときの気分が似てます。
 Run!の方でブン太贔屓中なので結構早くかけました☆
20041103 カズイ
20090321 加筆修正
res

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