◆唇

 ふわっと風が頬を撫でた。
 唇に感じた感触に思わず目を見開き、私は目の前の人間を思わず凝視した。
 睫毛長い、肌白い……とかそう感じている場合ではない。
 こんなキャラだっけ?ヒヨシワカシクンとやらは。
「目、閉じないんですね」
「そりゃ……こんないきなりなら閉じないと思うけど……」
 なんとなく嫌な沈黙が痛い。
 放課後の教室と言うのがまた静けさに空気の重さを上乗せさせる。

「跡部部長が」

 ようやく開かれた唇が紡いだ名前に私は思わず眉間に皺を寄せた。
 跡部だと?
 テニス部部長で私のこと下等生物扱いするあのお貴族様か?この野郎っ!
 はっきり言おう、私は跡部が嫌いだ。
 女ったらしでナルシスト!
 私が髪を切ったら「男度がますます上がったな、ミジンコ」だって!!
 もっと腹立つのはその取り巻きだった。
 「跡部様、それではミジンコに失礼ですわ」ってなぁ……ミジンコに失礼だって言う前に私に失礼だ!!!
「女を落とすならテクで落とせと」
「ヒヨシワカシクン」
「はい」
「つかぬ事を聞くけど、なにを落とすって?」
「女です」
「……は?」
 たっぷり三十秒は思わず息を止めてしまっただろうか。
 私は思わず聞き返した。
「女って、誰?」
「飯島さんです。飯島さん、自分が女だって自覚あります?」
「ない!」
 胸を張ってきっぱり言い切るとヒヨシワカシクンはため息を吐いた。
「言い直します。俺は飯島さんが好きです」
「病院行った方がいいんじゃない?」
 再び呼吸を止める事はなく、間髪入れずにそう答えた。
「は?」
「こんな男女が好きだなんて、ヒヨシワカシクンはやばいよ」
「俺は正常ですが」
「でもさ、跡部が下等生物扱いするようなダメ女なのは確かだよ?」
「あれはただの見苦しい男の嫉妬です」
「はぁ?嫉妬?」
「跡部部長は飯島さんといつも一緒に居る笠田さんが好きなんですよ。邪魔だから飯島さんのことさっさと落とせと跡部部長に発破掛けられて知りました」
「邪魔?なんでさ」
「気づいてます?飯島さんの取り巻き、女の子ばっかりじゃないですか。笠田さんを筆頭に」
「友達だよ?」
「友達と言う名の取り巻きです」
「し、知らなかったっ」
「……そう言えば、男でしゃべるヤツって言ったらテニス部のレギュラーとかしかいないや。クラスメートの男子と喋ろうとするたびなんか邪魔されてたような……
「それです。なんで気づかないんですか」
 呆れたようなヒヨシワカシクンに私は思わず照れ笑いをした。
 病院行くべきは私だったか、なんて……あはははは。
「それで、返事はくれないんですか?」
「返事?なんの?」
「俺、飯島さんに告白したはずですが」
「あ〜、どうしよ……。とりあえず、嫌いじゃない……かな?」
「そうですか……今はそれでもいいですけど、飯島さんが卒業するまでには好きになってもらいますから」
「勝利宣言?」
「そんなもんです」
 ヒヨシワカシクンは不敵に笑い、風が頬をすり抜けた。



⇒あとがき
 執筆当時、漢字変換が思い出せず、夢主のキャラを立たせようと調べずそのまま「ヒヨシワカシクン」と呼ばせてみました。
 ビィミョー!!!!!!!……ですね。てか、跡部の扱いひどい(笑)
20040924 カズイ
20091104 加筆修正
res

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